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第一話 魔眼売り


 エイジの人生は平凡そのものだった。


 小さな町、狩人の両親の元に産まれた。家族は父、母、4歳下の妹の3人。

 学校へは行かず、狩りの手伝いをする日々を送っていた。不満は一切なかった。将来自分も狩人になるつもりだったし、町を害獣から守り、町に食料をもたらす両親を尊敬していた。


 両親は優しく、妹は可愛くて……毎日が充実していた。


 しかし、13歳の春、司祭服の背広に天馬のエンブレムを入れた集団が町に訪れてから日常は壊れた。彼らは町からあらゆる財産を略奪し、エイジを除く全員を虐殺した。エイジも両眼の光を奪われた。


 エイジの平和で幸せな人生はそこで終わった。


 暗い暗い世界に落とされ、友達も家族も失って、それでも絶望はしなかった。


 胸に宿る復讐心だけが体を動かした。


 エイジは町を出て、旅に出る。


――1年後、4月7日。


 エイジ……いや、世界にとってのターニングポイントは、まさにこの日だっただろう。



 ---



「このギルドに入りたい? お断りだね」



 ギルド“隠者を狩る者(ハーミットハンター)”のギルドマスター、ゴーシュはハッキリと断った。


 当然の判断だ。

 なぜなら入団希望者であるその少年は両目を包帯で隠していたのだ。『目が見えません』と自分からアピールしている。


「どうしても駄目でしょうか? な、なんだってやります!」


「お前のことは知ってるぜ。エイジ=ストラドルだろ? 色んな賞金首狩り組合(ハンターズギルド)に入団志願してるっていう厄介者! ここで何件目だ?」


 エイジは指を折り数える。


「えっと、68件目です」


「68!? お前、国中の賞金首狩り組合(ハンターズギルド)をまわる気か? 一体目的はなんだ?」


「復讐です。家族と、この眼を奪った男に……」


 少しだけ同情したのか、ゴーシュは目線を上げた。


「相手の体には紋章はあったか?」


「あ、ありました」


「なら、復讐なんて絶対無理だな。紋章は魔力の源、つまりそいつは魔術師ってことだ。俺達とは出来が違うんだよ。お前も紋章を持ってねぇんだろ?」


「ないです……」


「悪いことは言わねぇ、諦めな。それと、ウチのギルドは賞金首狩りを(おも)な仕事にしているが、ターゲットは決まって非魔術師だ。お前が追っている人間の情報は入ってこねぇ」


 ザッ、とわざとらしい新聞を開く音が耳に届く。もう帰れ、と新聞の音で表している。

 エイジにも意図は伝わっているが、それでもエイジは退かない。


「それでも……僕は――!」


 ポン。と何かが胸に当たって落ちた。

 エイジは身を屈め、落ちた物を手に取る。手から伝わる感触で、エイジはそれがおしぼりだということがわかった。


「こんなもんに反応できない時点で戦力外だ。とっとと消えな、次は俺のナックルが火を吹くぜ」


 エイジはなにも言い返せない。自分が無能だということは自分が一番わかっていた。

 そのままトボトボと踵を返す。途中でなにかに躓き転んだ。


「おっとすまねぇ! たまたま足を伸ばしたら当たっちまった! 悪気はねぇんだ。ま! 避けられねぇお前も悪いな」


 どうやらギルドメンバーの1人に足を掛けられたようだ。

 クスクスと、意地の悪い笑い声だけがは鮮明に耳に届く。


 エイジは無言のまま、ギルドを去った。



 ---



 手に持った杖を振り、前方を確認しながら道を歩く。

 頭に陽の温かさを感じないから、きっともう陽は沈んでいるのだろうと推測する。


 また駄目だったな。でも次こそは……と、エイジは吹っ切る。


 去年、故郷を焼かれてからずっとあの魔術師を探している。だが、手掛かりは一切なし。 


 この1年で成長は一切ない。


 視覚を失えば他の器官が発達すると聞くが、エイジの聴覚は別に鋭くなることはなかった。ただ単に集中力を視覚70%、聴覚30%と割り振っていたのを聴覚100%にしているだけだ。耳が目を補うなんてことはない。今も杖がないとまともに歩けない。


 惨めさだけが募っていく。


(挫けるな……挫けるな!)


 気づいたら、目に巻いた包帯は濡れていた。


「母さん、父さん……エリーゼ。必ず、必ず僕が……仇を討つから」


 頭に、家族の顔が巡る。


「……大丈夫……大丈夫だ。諦めなければ、きっと……!」


 包帯から滴る涙が、地面に落ちる。

 真っ暗な世界で、知り合いは一切いない。


 本当の孤独。


 道を照らしてくれるのは復讐心という名の灯だけだ。


(でも、物乞いで貰ったお金もじきに尽きる。そうなれば……本当の終わりだ)


 眼が見えないことで慈悲や同情を受けやすくなった。金持ちが歩く道端で物乞いをすれば少なくない金を恵んでもらった。


 しかし今エイジが居るのは色んなならず者が行きつく〈リーヴァウス〉という街。

 金を恵んでくれそうな人間は居ない。

 今のエイジに金を稼ぐ手段はない。現在の手持ち金が尽きればもうそこまでだ。


 気持ちの問題ではなく、金銭的にタイムリミットが近づいていた。


――『大切な者を全て失い、光すらも失った世界で……絶望の中、惨めに生きるといい』


 宿敵の言葉を思い出し、舌打ちする。


「クソ。このままじゃ……アイツの言う通りになるぞ」


 イライラを募らせ、商店街に通りがかった時だった。

 エイジの心境とは裏腹に、能天気な女子の声が耳に届いた。



「魔眼買いませんか~? 魔眼買いませんか~? 

 今なら予知眼がたったの6000万! 安いよ安いよ~」



 エイジは耳を疑った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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