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第十話 魔術師vs魔術師

「おいおいお嬢! 勝手にウチの能力バラしてんじゃねぇよ!」


 ギザギザの歯をカチリと合わせ、ゾーイは手のひらの紋章を見せる。螺旋模様の紋章だ。


「知り合い?」


「よくちょっかい出してきましたから。まぁわたしにと言うよりはポンコにですけど」


「あわわわわっ……!」 


 ポンコはナナシの頭の上で身を屈めている。


「オラ、あの人苦手っす……!」


「よーっ! ポンコじゃねぇか! またお前の体でキャッチボールさせてくれよ!」


「ひぃ!?」 


 ポンコはナナシの背中に隠れる。

 エイジは茂みから出て、岩場へ出る。


「キャッチボールなら僕が付き合うよ」


「そう、テメェだ。テメェがウチの部下をのしてくれやがったやつだな?」


 ゾーイは石ころを拾い、右手に握りしめる。


「――付き合ってくれるんだろ? キャッチボール!!」


 ゾーイは手で包んだ石をエイジに向かって射出する。


……エイジは右手で時速300㎞の石をキャッチした。


「なんだと……!」


「ほら、次は僕が投げる番だ」


 エイジは小石をぶん投げる。

 ゾーイの腹に、石がめり込んだ。


「てめっ!」


 ゾーイが怯んだ隙に、エイジは接近する。

 エイジは眼帯を――外さなかった。


(ついさっき第三勇者(サード)の記憶を抽出している。1回の記憶の抽出だけであれだけ脳にダメージが入るんだ、連発するとどうなるかわからない……ここは今まで抽出した勇者の記憶で乗り切る)


 これまで抽出した勇者の記憶は第一勇者(ファースト)第二勇者(セカンド)第三勇者(サード)のものだ。


 第一勇者(ファースト)からは“土印(ソル)防破壁(ミュール)”、第二勇者(セカンド)からは対人戦闘術初級編、第三勇者(サード)からは忍び足を学んだ。これが、いまのエイジの手札だ。


 手札を増やすための記憶抽出は最後の手段にする。


「正面から来たか……良い根性だなぁ。だが、あまりに愚策だっつーの!」


 ゾーイは右腕を伸ばし、左手で自分の右腕を()()()


――瞬間、ゾーイは高速で距離を詰めた。


「なに!?」


「さぁ、もらったぜぇ!!」


 ゾーイは右手を出し、エイジの腕を掴もうとする。


「くっ!」


 エイジは腹から土の壁を出した。


(“土印(ソル)防破壁(ミュール)”!!)


「うおっ!」


 土の壁に押され、ゾーイは3メートルほど後退する。


(危なかった……今のは自分を掴んで、紋章の力で加速したのか。あんな応用があるとは予想外! こんなにも早く追いつかれたのはこの加速術のせいか。“剛速球の紋章”、単純だが強力だな……)


 エイジは壁を霧散させる。


「魔術も使えるのか、オッケー。次はそれも想定して動こう」


 また右腕を出し、左手で右腕を掴む独特な構え。

 自分を掴み、ゾーイは加速する。


(予知眼で動きは追える。あとは手に注意して……)


 ゾーイは連続で自分を掴み加速し、エイジの裏に回った。

 エイジは振り向きながら屈み、ゾーイの手を躱す。しかしすぐさまゾーイの蹴りを腹に受けた。


「ごふっ!」


「そらそらもういっちょ!」


 ゾーイは加速し、エイジの右に来る。


(一度身を隠して、不意打ちを狙いたいところだけど)


 エイジはゾーイの手を警戒するが、ゾーイも手を警戒されていることはわかっている。ゾーイは手を囮にまたエイジの腹を蹴り飛ばした。


(こんな(ひら)けた場所じゃ第三勇者(サード)の技術が使えない。障害物が少なすぎる……だったら)


 エイジは両手を地につける。


「“土印(ソル)防破壁(ミュール)”!!」


 エイジは至る所に5メートルほどの土壁を大量に出現させた。

 エイジ自身も土壁の裏に隠れる。



 ---



(ふん、対抗策としてはまぁまぁだな)


 ゾーイは出現した土壁を見て思う。


(自分自身を紋章の力で投げるやり方はリスクも込みだ。障害物にぶつかればこっちの体が壊れる)


 ゆえに、先ほどゾーイは加速の途中でエイジを掴むことはできなかった。自分の指や手が衝撃で折れる可能性があったからだ。


「――っ!?」


 しかし、エイジの狙いはゾーイが考えているより深い。

 ゾーイは気づいた、エイジの気配が一切なくなったことに。


(呼吸音も足音も、なにも聞こえない! そうか、奴の狙いは壁で死角を増やして身を隠し、私を不意打ちすること!!)


 ゾーイは笑う。


「舐めるなよ小僧が!!」


 ゾーイは壁が周囲にあるにも関わらず、自分の腕を掴んだ。そして、ゾーイの体は10メートルほど()()飛んだ。


「上には障害物がなかったからなぁ!」


 障害物のない空なら思い切り投げられる。

 通常、空中に入ると回避行動ができず攻撃を受けたり、着地を狩られたりというリスクがあるがゾーイは紋章の力でいくらでもカバーできるのだ。


 空はゾーイのテリトリー。

 しかしそれは――紋章を使えればの話。


「こっからお前を見つけて――」


「僕はここだ」


 声は、背後。背中から聞こえた。


「馬鹿な……!!?」


 ゾーイはおそるおそる振り返る。そこには眼帯を付けた少年がいた。


「まさか、私の背中について、一緒に飛んだのか!?」


「そう。お前のこの応用法は想像できた。だから僕はずっと、お前の影を踏んでいた」


(全然、気づかなかった!!)


 エイジは右手でゾーイの右手首を、左手で左手首を掴み、背中に足をかける。


「これで紋章の力は使えない……」


「きさまぁあああああああああああああああっ!!!!」


 そのままエイジとゾーイは落下し、ゾーイは受け身を取れない状態で正面から地面に突っ込んだ。


 ゾーイは白目を剥き、気を失った。



 ---



「……勝った。あのゾーイにこんなあっさり……」


 エイジとゾーイの戦いを見ていたナナシは驚きを隠せない。


「すごいっすエイジ!」


「わっ! いきなり抱き着かないでよ、ポンコ」


 ナナシはエイジを注意深く観察する。


(さすがに、今のは予想外でした)


 陽の指す場所。親鳥の警戒心が高い中、素早く卵の殻を回収した技術。

 そしてゾーイを相手にほぼ無傷で勝利した事実。


 ……ナナシが思っていたより、エイジという男は遥かに異質な能力を秘めている。


 エイジは気づいていない、己の能力に。さも当然かのように勇者の技術を披露する。


 魔術師の記憶を見たらすぐに魔術を使えるようになるだろうか。

 格闘家の記憶を見たらすぐに喧嘩が強くなるだろうか。

 暗殺者の記憶を見たらすぐに気配を遮断できるようになるだろうか。


――答えは否だ。


 神は二物を与えなかった。神はエイジに紋章と魔力という才能を与えず、その高い模倣能力だけを与えた。


 そんな神の采配を、自分が乱してしまった。


 好奇心と恐怖心が混在する。

 〈ガルシア〉に着くまでに彼がどれほどの器になるか……勇者の眼、その実験体として、これほど興味深い者はいない。

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