第九話 影の勇者
第三勇者・ガルシア。
性別は男。
所有する紋章は“影鬼の大紋章”。一定の条件を満たすことで自身の攻撃の殺傷力を爆発的に上げることができる紋章だ。
条件は3つ。
1、攻撃対象に存在を気づかれていないこと。
2、攻撃対象の影を踏んでいること。
3、攻撃対象の首を攻撃すること。
条件を満たす度、殺傷力が上がる。
すべて満たすと必殺の一撃になると言われている。
彼は勇者の中で唯一、単騎で災王を倒した者である。彼は1人で災王の支配下に踏み込み、1人で災王の城へ忍込み、災王を暗殺した。
ガルシアは元々暗殺者であり、大国〈ヴィンランド〉含むあらゆる国の王から依頼を受け、災王打倒に動いたとされている。打倒報酬は国を建てられるだけの額の金だったと言われている。
ガルシアは災王打倒の報酬金を使い、世界中の奴隷を買い、解放した。なぜ奴隷を解放したのか、その動機は謎に包まれている。彼自身が元々男娼だったという説があり、自分と同じ境遇の人間を助けたかったのでは、と言われているが真相はわからない。
解放された奴隷たちは集まり、国を作った。
第三勇者・ガルシア。
奴隷たちは国の名に、彼の名を使った。
--歴史評論家アラン=カーシュネル著作 “勇ましき者と災いの王 第四章 影の勇者サード”より抜粋--
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それは――とある暗殺者の記憶。
ある豪邸に忍び込み、騎士たちの視線を搔い潜り、ターゲットの部屋に入る。
その暗殺者は天井裏からターゲットを覗き込み、ワイングラスを揺らしている小太りの男の首にワイヤーを飛ばす。
右手から飛ばしたワイヤーが男の首を縛る。男はあっという間に絞め殺された。
(よし、覚えた)
エイジは暗殺者の潜伏技術を記憶し、眼帯をつける。
「お、孵化しますね」
「え?」
すべての卵に亀裂が走り始める。
「……だ、大丈夫なの!? あのままじゃせっかくの卵が……」
「卵の中身に価値はありません。価値があるのは卵の殻です」
卵が真っ二つに割れ、中から雛鳥が現れる。6個すべての卵が割れると、親鳥の2匹は殻の残骸をくちばしでつまみ、巣の外に出した。
「卵の殻をこの麻袋に入れてきてください」
ナナシはポンコの口から麻袋を出し、エイジに渡した。
「いけますか? エイジさん……エイジさん?」
ナナシは横を見る。だがすでに、エイジの姿はなかった。
後ろも上も見るが、エイジはいない。
「え? まさか逃げ――」
「お待たせ」
エイジは背後からナナシに声を掛ける。
「きゃっ!?」
ナナシはらしくない声を上げ、すぐさま口を手で塞いだ。
「……」
ナナシは醜態を恥じ、顔を赤くしてエイジを睨む。
「朝のお返しだよ」
「な、なにを遊んでるんですか! 早く卵の殻を……」
「はい」
エイジは膨らんだ麻袋をナナシに渡す。
「これは……!」
ナナシはその中を見て、また声を荒げそうになった。袋の中には銀と金の卵の殻があったのだ。
「これでいいんでしょ?」
「はい……」
「じゃ、〈ウミネコ〉に向かおうか」
ニコッと笑うエイジ。
「ほんっと、末恐ろしいですね……」
エイジがその場を離れようとした――その時だった。
エイジの視界を、手のひらが覆った。
「え?」
「はい、死んだ♪」
知らない女性の声が聞こえた。
(第二勇者!!)
エイジは瞬間身を屈め、手のひらを避けた。
「なに!?」
女性は避けられたことに驚き、声を上げる。
エイジは女性の腕を掴み、コケドリの方へ投げた。
「ちぃ!」
女性は巣の前で受け身を取った。
「エイジさん!」
「なんだあの人は……」
その女性は真っ黒な祭服、“空の玉座”の服に身を包んでいた。
茶色の長髪、目つきが悪い。歳は20半ばだろう。エイジ(170cm)より10cmほど背が高い。
「はっ! 思ったより面白そうな相手じゃねぇの!」
女性の背後に、キングコケドリとクイーンコケドリが近寄る。
「コケェ!!」
「うっせぇ!!」
女は振り返らず、右手でキングを、左手でクイーンを掴んだ。途端に、キングとクイーンは回転し、高速でぶっ飛んだ。
女は投げのモーションを取っていない。
なのに2匹は20メートル飛んで地面に激突し、気を失った。
「今のは!?」
「あの女はゾーイ。持っている紋章は“剛速球の小紋章”です。能力は……手で掴んだ物体を時速300㎞でぶっ飛ばす」
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