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第3話「ならず者狩りの少女」

 翌朝。

 シフルは約束の時間よりも30分ほど早く森の前に立っていた。

 彼女はいつもよりかなり早い時間に目を覚まし、顔を洗い、朝食を食べてすぐにここに来たのだ。

「よし、準備万端」


 そして、待ち時間の間に準備運動や基礎トレーニングを済ませる。

 それが終わるころにはライルが集合場所にやってきていた。

「早いな。そんなに楽しみにしてたのかよ」

「……別に。ただちょっと早めに起きただけ」

「ふーん。まあ、やる気があるんだな、って思うけどな」

 そう言って、2人は森の中に入っていく。

 しばらく歩いて、シフルがいつも剣のトレーニングをしている場所に到着した。

「昨日も言ったけど、オレは魔法使いだから、剣に関しては門外漢だ。だから、ほとんど見てるだけになると思うぞ」

「構わない。何か気づいたことを言ってくれれば」

「そうか」

 2人の目の前には木の棒が置いてある。

 ライルはそれを指差して言う。

「えーっと。これがいつも使ってるトレーニング用の棒か」

「そう。で、念のため本物の剣もある」

 シフルはショートソードが収められた鞘を指していう。

「まあ、練習で本物を使う必要はないか。んじゃ、まずは基本から。素振り1000回」

「わかった」

 返事をして、シフルは木の棒を手に取る。


 ブンッ! ブンッ!!


 シフルは黙々と素振りをする。

 その様子をライルは眺めている。


 しばらくして、シフルの動きが止まった。

「ちょうど1000回だな」

「ふぅ……」

 シフルは一息つく。

「体力は余ってる感じだな」

「慣れてるから。ところで、何か気づいたことはある?」

「そうだな……」

 シフルから問われ、ライルは思ったことを口に出す。

「なんつーか、綺麗なフォームで、力の入れ方とかもちゃんとしてるな。素人目でも、あんまり無駄がないっていうのがわかるぜ」

「それはどうも」

 シフルは淡々と言う。

 だが、その表情はどこか嬉しそうである。

「けどなあ……うーん」

「なに?なにか言いたいことでもあるの?」

「…………後ろにゴブリン」

「えぇっ!!??」

 ライルの言葉にビクッとして、慌てて後ろを振り返るシフル。

 しかし、そこには何の影も見当たらなかった。

「冗談だ」

「な、なな、なんでそんな驚かすようなことをするの!?」

「悪い。つい面白そうだったから。あと、今ので確信を持った」

「なにを?」

 シフルは少し怒気を含んだ口調で聞く。

 ライルは自分の考えを伝える。

「お前は基礎的な部分はいいんだ。けれど、やっぱり精神面がまだまだ未熟というかな。緊張したりビビッたりすると、動きが硬くなって、力が入らなくなるタイプだろ」

「うっ……」

 ライルにズバリ指摘され、シフルが言葉に詰まる。

「図星だな。そして、そういう時こそ冷静になって、気持ちを立て直せ。それができないから、今までずっとFランクなんだろ。冒険者としての実力も経験もないくせに、強がったり自信ありげに振る舞おうとするから、そうなるんだよ」

「そ、そこまで言わなくても、いいじゃん……」

 シフルは俯き、小さく反論するが、声が震えていた。

「事実だから仕方ないさ。それと、この訓練を続けるなら、もう少し実戦に近いこともやってみるか」

「なにをするの?」

「簡単な話だ。オレと戦って、実戦経験を積むんだ」

「……」

 シフルは思わず沈黙してしまう。

「怖いのか?それとも嫌なのか?」

「うぅ……でも、ボクはFランクで、あなたはBランクでしょ」

「それは問題ない。ハンデとして、オレはここを動かないし、お前に向けて魔法攻撃をしない」

「……本当に?」

 シフルは半信半疑で問う。それはつまり、ライルが、トレーニング用の大木のように剣を打ち込むだけの相手になるということだ。

「ああ。とはいえ、攻撃を受けるための木の棒は使わせてもらうが」

 ライルは、足元にあるもう1本の木の棒を手に取る。

 その返事を聞いて、シフルは決心を固める。

「わかった……やる。勝ち負けは?」

「オレに一撃を入れたり、剣を弾き飛ばしたらお前の勝ちでいいぞ。お前が膝をついたりしたらオレの勝ちな」

「うん」

「よし、じゃあ始めるか」

 ライルは立ち上がり、シフルを見据える。

 シフルは木の棒を構えるが、やはり体が小刻みに震えている。

「来いよ」

 ライルに言われて、シフルは飛びかかるように前に走る。

 だが、シフルの攻撃はあっさり打ち払われる。

「遅いぞ! そして打ち込みが弱い!」

 ライルに怒鳴られながら、何度も木刀を振るうが、全て弾かれてしまう。

 シフルは息が上がってきた。

「どうした!? そんなもんか!?」

「まだ……まけ、ない!!」

 ライルの言葉に反抗するように、さらに強く、速く、連続で攻撃する。

「よし、どんどん良くなってきているぞ」

 徐々にライル相手でも遠慮をしなくなってきたシフルは、ライルの木の棒めがけて何度も打ち込む。

 ライルの表情にも、少しずつ余裕がなくなってきた。

(そろそろかな……)

 ライルが、シフルに気づかれないようにある術式を施す。

 それに、シフルは気づかないようだった。

「これでっ!!!!」

 シフルが渾身の一撃を繰り出そうとする。

 その時である。

 ドオォン!

 突然、後ろの方から爆発音が響いた。

「うひゃああああああっ!!??」

 ズシャアアアッ!

 その大きな音に驚いたシフルは、体勢を崩して思いっきりすっ転んでしまった。

「はい、オレの勝ち」

 苦笑しながらライルが言う。

「いっいいい、今のは何なの!!??」

 転んだシフルは、手を頭に当ててうずくまっていた。

「地雷魔法だよ。今回のは時限式だから、時間がたって爆発したって形だな」

「ひ、ひどい……ま、魔法攻撃しないって言ったじゃん」

「お前に向けて魔法攻撃はしてないだろ。大きな音を立てただけだ」

「…………」

 確かに、そう言われると何も言い返せない。

 シフルは顔を赤くしたまま黙ってしまった。

「戦闘というのは常に想定外の連続だ。だから、メンタルを鍛えないとダメだ、っていうことだな。こんな感じで、トレーニングにはいろいろ想定外の事態を組み込んでいくから、心構えをしとけよ」

「そ、そんなぁ……」

「強くなりたいんだろ?」

「うぅ……」

 ライルにそれを言われると、言葉に詰まってしまうシフル。

 仕方なく、土を払いながら立ち上がる。

「……今ので2、3滴ほどチビっちゃったじゃん」

「なんか言ったか?」

「な、なんでもないっ! さ、続けるよ!」

 シフルは誤魔化すように木剣を構える。

「ああ、次はもう少し早く頼むぞ」

 そう言ってライルも木剣を構えた。


 ------------


 それから数時間後。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、もう、だめ、動けない……」

「ふむ、このぐらいでいいだろう。今日の訓練はここまでだな」

 ライルがそう宣言すると、シフルはその場にへたり込んだ。

「結局、大きな音には対応できなかったな」

「うぅ……ふ、不定期にくるから、困るんだよぉ……」

 シフルは息を整えながら文句を言う。

 あれから、打ち込みの途中で魔法で大きな音を鳴らされるたびに転んだり膝から崩れ落ちたりするので、今日はライルに1勝もできなかった。

「そういうものだから仕方がないだろ」

 ライルがあっさり返す。

「くそー、次こそは絶対克服するぞぉ……」

「まあ、そういう心意気だ。ところで、下着は大丈夫か?」

「そっ、そういうことは女の子に向けていうことじゃないでしょ!?」

「いや、普通に気になっただけ。漏らしてたら着替えがいると思ってね」

「ボ、ボクは平気だし……」

 シフルは恥ずかしそうに内股になって答えた。

 実際のところあれからさらに5~6滴くらいはチビってしまっているのは、シフルだけの秘密だった。

「ならよかった」

「ほ、ほんとデリカシーないよね、あなたって人は!」

「そう? ……まあ、それより。こんな感じで毎日やっていくから、明日も朝はここに集合な」

「……うん、わかった。ところで、今日は午後からどうするの?」

「そうだな……昼飯を食べて、街の図書館で調べものをする。お前は何か予定が?」

「今日も、いろいろ頼まれごとがあるから、それをこなすよ」

「そうか、じゃあまた明日だな」

 そう言い残し、ライルは去っていった。

 残されたシフルは、汗まみれの身体を拭き、服を着替えると、ギルドに向かっていった。


 ------------


 翌朝も、その翌朝も、ライルによるシフルの修行は続いた。


 ドオォン!


「……っ! やあっ!」

(…………おっ、耐えたな)

 回数を重ねるごとに、シフルも魔法による爆音の不意打ちに慣れていった。

 転んだりしなくなっただけでなく、爆音の後の打ち込みも、力強くなってきていた。

 そして…………

「せいっ!」

「!!」


 ガキィン!


 ライルの木の棒が弾かれる。弾かれた木の棒は、そのまま宙を舞い、ライルの後ろに転がった。

「はぁ、はぁ、はぁ……。これでやっと1勝……」

「ああ、よく頑張ったな」

 ライルが笑顔を浮かべる。

「3日目にしてようやく、って感じだけど。まあ、これで1つの課題がクリアできたからよしとしようか」

「そうだね…………でも」

「うん?」

「魔法を使えるのがうらやましい。戦いの幅も広げられるから」

 シフルが羨ましそうに言う。

 シフルの地頭の良さは周りも認めるところなのだが、魔法に関する才能がないため、魔法の書物を読んでも一向に覚えることができなかった。そのため、シフルは今まで魔法を使ったことがなかったのだ。

「まあ、魔法に関しては、こればかりは生まれ持った素質のあるなしによるから。なかなか努力して身に付くものでもないんだ」

「そう……」

 シフルが静かに落胆する。

「それなら、他のところを伸ばしていけばいい。お前も、こうして剣の腕を磨いているじゃないか。だったら、そこを突き詰めればいい」

「……確かに」

 シフルが納得したようにうなずく。

「とりあえず、今日のノルマは達成したから、今日はここまでにしよう」

「うん。ところで、今日の昼ご飯は?」

「ん? いつも通り宿に帰って食べるつもりだったが」

「家、来る? 作るから」

「オレは別に構わないが、いいのか?」

「うん。久しぶりに誰かと一緒に食べたいから」

「そうか……じゃあ、お言葉に甘えるとするかな」

「わかった」

 そういうわけで、二人は昼食をとるために、シフルの家に向かった。


 ------------


「……本当に料理上手いんだな、お前」

「ありがとう」

 ライルに褒められ、笑顔を見せるシフル。

 シフルが作ったのは、野菜のスープとパンである。

 質素なメニューではあるが、スープの味付けが絶妙で、ライルは大満足であった。


 食事を終えた後、シフルがライルに尋ねる。

「ところで、気になったことがあるけど、聞いていい?」

「なんだ?」

「あなたは本国の『依頼』でアベルさんを調査していると言っていたけど、もしよかったら、具体的に教えて欲しい」

「そうだな……」

 ライルはどこから説明したらいいか、と少し悩む。

「まず、俺が調査しているのはアベルだけじゃなくて。その男のパーティーメンバーを調査しているんだ。本来、オレよりも高ランクの冒険者に頼む依頼なんだが、オレの姉が国の冒険者協会の幹部で、姉直々に依頼をされた。で、こうしてそいつらの素性を調べて、国に報告する、というのが任務だ」

「なるほど」

 シフルが相槌を打つ。

「パーティメンバーはアベルと同じくSSランクの冒険者だけど、アベルを含め、そのことごとくが行方不明になっている。しかも、行方不明直前に遺跡について調べものをしていた後に消息を絶っている」

「あ……」

 シフルが何かに気付いたような声を出す。

 昨日シフルが話した通り、アベルも行方不明になる直前は何かの調査をしていたのである。

「そうなると、遺跡を調査したいところだが、遺跡は今修行で使っている森からはかなり奥にいったところにある。森の奥深くは樹海になっていて、軽々しく足を踏み入れられない……んだよな」

「うん。軽々しく足を踏み入れると、おおよそ戻ってこれないし、遺跡までたどり着くのは難しい」

「この街に住んでいるお前が言うんだから間違いないんだろうな。森の探索に長けた人間がいるといいんだけども」

「街の人は、誰も森の奥深くまで入ったことのある人はいない」

「そうか……」

 ライルが残念そうにつぶやく。

「冒険者で、森の探索が出来そうな人間がこの街のギルドを待ってみるか。それまで、お前との修行をしながら、いろいろ調査するとしよう」

「わかった」

「オレは午後からの依頼を探そうと思うが、お前はどうするんだ?」

「今日は先約がないから、わたしもギルドで依頼を探そうかな、と思っていたところ」

「そうなのか。じゃあ一緒に行くか」

 ライルが立ち上がり、部屋を出ようとする。

「あ、ところで……」

 それをシフルが呼び止める。

「ん、なんだ?」

「……名前」

「え?」

「そういえば、名前、あまり呼んでもらってないな、って。こうして一緒に食事もしたし、これから修行を一緒にする身でもあるから、お互い名前で呼ばなきゃ、って思う」

「…………あー」

 ライルが少し恥ずかしそうに頬をかく。

「よろしく、ライル」

「……よ、よろしくな。シフル」

「ふふ、デリカシーはないのに女の子の名前を呼ぶのは恥ずかしいんだね」

「うっせぇ。そのうち慣れるから。ほら、早くいくぞ!」

「はいはい」

 シフルとライルは連れ立って、冒険者ギルドに向かうことにした。


 ------------


「おう、シフルちゃんか!」

 ギルドに到着すると、中年の男性がシフルに向かって声をかけてきた。

「道具屋のおじさん。珍しいね」

「ああ。ちょうど依頼を持ってきてたところでな」

「どんな依頼? 店番とかなら、いつも通りやるけど」

「今回はちょっと違ってな……隣のブルックスまで、商品を運んでほしいんだよ」

 そう言いながら、道具屋の主人はシフルたちに依頼書を見せる。

 内容は、薬草やポーションなどの薬類を隣町の商人に届けるというものらしい。

「ブルックスに運ぶだけなの?」

「まぁな。本当は護衛も欲しいところだが、今は人手不足でな。荷物を運ぶだけだ。それに、馬車もあるから、そこまで大変じゃないはずだぜ」

「あれ、護衛を付けるの?」

 シフルが首をかしげる。

 道具屋の主人は度々隣町であるブルックスへの商品の運搬を行っていたが、護衛をつけることがあまりなかったからである。

「そうなんだよ。どうも最近、ちょっとだけど魔物が出るようになったって噂だし、なにより、盗賊が出没したって噂もある。念には念を入れて、ね」

「さ、山賊…………」

 シフルが不安な顔を浮かべる。

(う、うーん。この依頼は時々手伝ってはいたけど、魔物や盗賊がでるかもっていうことなら……今回はちょっと)

「わかった。この依頼を受ける」

「ライル!?」

 断ろうかと考えていたシフルだったが、横でライルが了承したので、驚きのあまり思わず声に出てしまった。

(な、なんで、そんなあっさり受けるの!)

 シフルは小声でライルに抗議する。

(そういう少し危険な依頼もこなしていかなきゃ、Fランクから一生上がれないって前にも言っただろ)

(そ、それはそうだけどさ……で、でも修行もちょっとしただけだし…………)

(大丈夫だって。仮に魔物や山賊が出ても、オレなら後れを取ることは無いから。シフルを上手く援護してやるから、安心しろって)

(うう……ライルを信じるよ?)

 2人はこそこそを会話を続ける。

「えっと……シフルちゃんたちがやってくれるのかい?」

「あ、は、はい。やります」

「そうかそうか。じゃ、頼んだぜ! この後、道具屋の前に来てくれよな!」

 道具屋の主人は笑顔でその場を立ち去った。

「………………」

 不安な表情でその場に立ち尽くすシフル。

 こうして、2人共同でする、初めての依頼が始まった。


 シフルとライルはそのすぐ後に道具屋に向かい、運び込む商品などを馬車につめる。

 そのあと、2人は馬車に乗り込み、隣町へと出発した。

「ねぇ、ライル。本当にこれでよかったの?」

 道中、シフルがライルに話しかける。

「何がだよ」

「あの、その、魔物とか出るかもしれないのに、こんな依頼を受けて……」

「いいんだよ。これくらいの危険は冒険者として常に付き合っていかないとダメだからな。それに、オレがいれば問題ないだろ?」

「そうだけど……。ボク、本当に大丈夫かな……」

「大丈夫だって。いざとなったらオレが守るから」

「……なんかそれ、昔本で呼んだ物語の騎士みたいなセリフだね」

「そうか? まあ、目の前で人に死なれるのは目覚めが悪いから守ってやる、ってことだ」

「あ、そう……」

 シフルは少しため息をつき、再び沈黙する。


 そして、そのまま沈黙が続いたまま、時間は過ぎる。

 馬車は、ブルックスへ続く道のりの真ん中あたりに差し掛かろうとしたところだった。

 そこは、森の中を通る道となっていた。

「このまま何事もなく過ぎ去ればいいのにな……」

 そうシフルが呟いた、その時。


――ドォンッ!!


 突如、前方から大きな音が響いた。

「きゃあっ!!」

「な、なんだ!」

 急停止する馬車。

 シフルとライルは急いで前を見る。

 すると馬車の目の前で煙が上がっているのが見えた。

「これは……威嚇用の音と煙が出るだけの爆弾だな」

「え……ま、まさかそれって」

 シフルが何か言おうとした時、大きく粗暴な声が聞こえた。

「おい、そこに止まっている馬車ぁ! 大人しく積荷を渡しなっ!」

 シフルたちの乗った馬車は、盗賊と思しき風貌の男たちに囲まれていた。

 相手は5人ほどだろうか。全員が剣や斧などの武器を構えている。

「あわ、あわわわ。こ、困りましたね……」

 馬車の御者が困った顔で呟く。

「やれやれ、しょうがないな。降りるぞ」

 ライルが腰を上げ、馬車から降りる。

「おいお前ら。この積み荷は大事な商品だ。それに手を出すっていうなら、護衛の俺らが黙っていないぞ」

「ああ? うるせぇぞガキぃ。さっきの音を聞いてなかったのかぁ?」

「聞いてたけどな。あれはただの警告用アイテムだろ」

「はっ、舐めやがって。だいたい、1人で俺らを相手取るつもりかぁ?」

「……あ?」

 盗賊の言葉に、ライルが横と後ろを見る。

 シフルの姿がそこにはなかった。

「……ちょっと待ってろ」

 ライルが馬車の中を見る。シフルはまだ馬車の中でうずくまったままだった。

「おいシフル。降りるぞって言っただろ」

「やや、やっぱり実戦となると、あ、足が……」

「たく、しょうがないな。ゆっくり立ち上がればいいから」

「うう……」

 シフルはゆっくりと立ち上がり、ライルに連れられて馬車を降りる。

「ひぃ、か、顔が怖い……」

 シフルは、両手をライルの肩に乗せ、ライルの後ろに隠れ、覗き込むように盗賊たちを見る。

「なんだコイツ。それが2人目の仲間か」

「ああ。こいつは剣士だ」

「剣士ぃ? うははははははっ!!」

 盗賊たちが笑い出す。

「こんな弱そうな奴が剣士だってよぉ!? 笑わせるんじゃねぇ!」

「お嬢ちゃん。悪いことは言わないから、そいつを置いて逃げな」

「うぅ…………」

 盗賊たちに次々と馬鹿にするような言葉を投げかけられ、シフルは涙目になっていた。

「シフル、気にするな。いつも通りクールに振る舞えばいいんだ」

(む、無理だよぉ……。怖いよう)

 シフルは心の中で泣き言を言う。

 だが、ライルがそんなことを許さなかった。

「……そらっ」


パシィン!


「ふぎゃっ!」

 ライルは、肩にかかっているシフルの手を外すと素早い動きでシフルの後ろに回り、シフルの尻を叩く。

 突然の痛みに、シフルは悲鳴を上げた。

「い、痛い……というか、尻を叩くとか、ライルって本当に……!」

「んなこと言ってる場合じゃないだろ。ほら、クールに振る舞え。そうすれば怖くないから」

「で、でもぉ……」

「いいからやるんだよ。オレもいるから」

 ライルは、真剣なまなざしでシフルを見つめる。

「……し、信じるよ」

 そう言って、シフルは盗賊たちに向き直る。

「……あ、あなたたち。ここ、これ以上乱暴な真似をしようとするなら、ボ……じゃなくて、わたしが相手になってあげるわ」

「ぷぷっ! 何様のつもりだぁ?」

「いきなり澄ました顔で演技しだすとか、お笑いもいいところだな!」

「足が震えてんぜ~?」

 シフルの言葉に、またも盗賊たちは笑う。

 その反応を見て、シフルの顔は真っ赤になったが、なんとかクールな振る舞いを続けようとする。

「こ、これだから、野蛮人は嫌いなのよ」

「はぁ?」

「な、なんでもないです。ご、ごめんなさい」

 少し挑発しようとしたシフルだったが、盗賊にちょっと睨まれて思わず謝ってしまう。

「さっきまでビビッていたくせに調子に乗りやがって」

「どうします兄貴。俺らがやってやりましょうか」

「そうだな。実質戦えるのはガキと女だけみたいだし、俺たちだけでも十分だろう」

「おい、お前ら。このガキどもは生意気にも剣を持ってやがる。ついでに奪っちまえ」

「へい」

「ううぅ……」

 シフルは震えながら剣を構えた。

 一方、ライルは魔導書を片手に持ったまま、冷静に状況を見極めようとしていた。

「へへっ、観念して武器を捨てろ」

「そうそう、そうした方が身のためだぜぇ」

「お頭ー。武器を奪ってから、女の子は好きにしていいですかねぇ」

「ああ、構わんぞ。ただし、傷物にすんじゃねえぞ」

「分かってますって」

 盗賊たちはじりじりと2人ににじり寄ってくる。

(ど、どうしてこんなことにぃ~!!)

 そう思いながらも、シフルは武器は捨てまいと必死に剣を構える。

 しかし、恐怖で足が震えており、自分からは動くことができそうにない。

「………………」

 ライルはまだ目を閉じて沈黙したままだった。

「ちっ、ガキの方はだんまりか」

「もういい。いくぞ!」

「おう」

 そう言うと同時に、3人の盗賊が一斉に動き出した。

「ひっ!?」

「覚悟しろ!!」

「死ねい!!!」

 3人とも短刀を持っている。このままシフルと交戦状態に……なるかと思われたが。

「……よし!いまだ、『フレイムアロー』!」

 ライルが手をかざすと、炎の矢が飛び出し、襲いかかろうとしてきた3人を巻き込んだ。

「ぎゃああっ!」

「熱い、助けてくれええ!」

「熱いっ、熱いぃぃ!!」

「『アイスランス』『サンダーボルト』!」

 今度は氷の槍と雷が降り注ぎ、盗賊たちに命中する。

「ぐわああああ!」

「ひいいい!」

「死ぬ、死んでしまううう!」

 3人の盗賊たちはその場に倒れ込む。

「ふう……。やっぱ3連続魔法となると、ちょっと詠唱が長引くな。スマン、シフル」

「あ、ああ………………」

 ライルが謝るが、シフルは唖然としたまま固まっている。

「シフル?」

「こ、こここれ、もも、もしかして死ん……」

「……悪に染まった人間は魔物と同じだ。慈悲なく殺す、それが戦いというものだ」

「そ、そんな……」

 シフルの顔色は真っ青になっていた。

「まぁ、安心しろ。今回はちょっと加減して、峰打ちみたいなものにしたから」

「み、みねうち?それって、つまり、し、死んでないの?」

「当然。ほら」

 ライルが指差したところを見ると、山賊たちが気絶しているだけだった。

「よ、よかったぁ~」

 シフルは安堵して腰を抜かしてしまう。

「あ、これ漏らしてるな」

「漏らしてないっ!」

 シフルは慌てて否定する。

 しかし、ライルはまだ冷静さを崩さなかった。

「これで2対2。人数の上では互角になったな」

 そう言って、残った盗賊2人を見据えるライル。

「はっ、だがお前らは2人のうち、1人は実質戦力外になってるぞ?」

「そうだそうだ!」

 確かに、盗賊たちの言うとおり、この場でまともに戦えるのはライルだけだろう。

 シフルは腰を抜かしたまままだ立てていない。

「それに、さっきは魔法を3連続で撃ったみたいだが、同じことをそう何度もできるわけではない。魔法を詠唱する隙は与えないぜ?」

「その通り!俺たちの勝ちは揺るがない!」

「……」

 ライルは黙り込んでいる。

(うーむ、確かに奴の言ったことは正しい。オレ1人だと詠唱しながら2人を相手取るのは厳しい。そうなると、シフルが立てるようになるまで時間を稼ぐ必要があるし……)

「どうした、怖気づいたのか!?」

 盗賊のリーダーが斧を構える。

「ひぃ!? く、来るよ、ライル!」

「くっ、なんとか持ちこたえるしかないか……!」

「なら、こっちからいくぜ!」

 リーダーが斧を振りかぶろうとした瞬間だった。

「うぎゃあっ!?」

 突如、リーダーの眉間に矢が刺さったのである。

「ぎゃあっ!」

 そして、続けてもう1本矢が飛んできて、隣にいた仲間の頭に命中した。

 急所を的確に貫かれた2人の山賊は、すこしの呻き声の後、やがて絶命してしまった。

「きゃあああああっ!!」

「な、何だ、狙撃手か!?」

 シフルが悲鳴を上げ、ライルが驚愕し、辺りを警戒し始める。

 すると、木の上にボウガンを構えた1人の少女の姿があった。

「あの距離から当ててくるのか……なんという腕前だ」

「あわ、あわわわわ……」

 ライルは感心しながらボウガンを構えている少女を見つめた。

 シフルは腰が抜けたまま動けずにいる。

「ふう、いっちょ上がりね」

 ボウガンを構えていた少女は構えを解き、木の上から飛び降りてくる。

 フードを被っているが、その下には金髪のロングヘアーが見え隠れしていた。

「あんたたち、大丈夫? 特にそっちの人」

「は、はい、ありがとうございます……あの、助けてくれてありがとう、ございます」

「助けたっていうか、そこに盗賊がいたから殺した、っていうのが正しいわね」

「あの……や、やっぱり殺しちゃった、んです、か?」

 シフルが恐る恐る尋ねる。

「当り前じゃない。ならず者は殺す、そういうものよ。それに、アタシが殺らなきゃ、あんた達が殺されてたでしょ?」

「そ、それは、そうですけどぉ…………」

 シフルが涙目で言う。それを見て、弓使いの少女は呆れかえる。

「何なのよあんた。腰に剣を携えているくせに、盗賊を殺すこともできないわけ?」

「うぅ……」

「ああ、すまんな。こいつは剣士の見習いだから、人を殺すことをしたことがないんだ」

 2人のやりとりに、ライルが間に入る。

「ふん、情けない話ね。そんなことでこの先やっていけると思ってんの?」

「で、でも…………魔物はともかく、人を殺すのはよくない、と思う…………」

 シフルは俯いて言う。

「……チッ。アンタは何も知らないかもしれないけど、こういう輩は魔物と同じか、それ以上に厄介なのよ。だから、こうして駆除しておくに限るの」

「まあ、放置していていい人間たちではないけどな。しかし、それでも人殺しの罪は負うことになるから、この近くの憲兵に摘発されるかもしれないぞ」

「それは問題ないわ。近くの森に潜伏して撒くから。森はアタシの庭みたいなものだからね」

「……へぇ」

 ライルが感心して呟いた。そして、なにやら思いついたようだった。

「お前、森の探索が得意なのか」

「ええ、そうね」

「なら、手伝ってほしいことがあるのだが、頼まれてくれないだろうか?」

 ライルが少女に真剣な表情で頼み込む。

「なによ急に」

「実は俺たちが来た街の近くに樹海があるのだが、その樹海がかなり深くてな。お前の得意分野じゃないかと思ったんだが」

「ふーん、それで、アタシと一緒に樹海の奥まで行くのを手伝えって?」

「そういうことだ。俺とこいつだけでは、道に迷ってしまうからな。もちろん、報酬は払う」

「ボク……じゃなくて、私からもお願いします」

 ライルとシフルは真剣な表情で弓使いの少女に言う。

 しかし、弓使いの少女は興味なさげにライルに告げる。

「残念だけどお断りよ。報酬は魅力的だけど……そっちのウジウジした女と一緒にいると、気分が悪くなりそうなのよね」

「そ、そんなぁ…………た、確かに今のボクは頼りないと思うけど……さすがにそこまで言わなくてもいいじゃん」

 シフルは、彼女の言葉が気に入らなかった。

 しかし、ライルの方は少女に対して冷静に切り返す。

「そうか。まあ、気に入らないと思うのなら、そこまで無理強いはしない。別の人をあたるさ」

「え、ライル?」

「ああそう。なら、もう行かせてもらうわ」

 弓使いの少女はその場を立ち去ろうとする。

「待ってくれ。まだ名前を聞いていなかったな」

 ライルが一声かけるが、彼女は振り返らなかった。

「教える必要はないでしょう?この先会えるのかどうかもわかんないのに」

「それもそうだな。だが、次に会った時は名前を聞かせてくれ」

「フン、覚えていたらね」

 そう言って、彼女は身軽な動きで森の中へと消えていった。

「……ちょっとボクのことフォローしてくれるのかな、と思ったのに……」

 弓使いの少女を見送った後、シフルが不満そうに言った。

「まあ、好みの問題というのなら仕方ない。というか、彼女の指摘に関してシフルは言い返せるところはあったか?」

「いや、別になかったですけどぉ」

「それならば、いちいち反論しても無駄だ。それより、早く街について依頼をこなすことが大事だろ。森を探索できる人間は、じっくり探せばいい」

「……そうだね」

 シフルは少し納得いかないような表情をする。

 ライルはそんなシフルの様子を見て、苦笑するしかなかった。


 ------------


 その後、再び馬車に乗り込んだ2人は、森を抜け、日が暮れた頃にブルックスに到着した。

 やや遅い時間ではあったものの、道具屋の主人は2人に対してしっかりと対応してくれたため、運んできた荷物を渡すことが出来た。

 それから、2人はブルックスの宿屋に泊まることにした。

「はあぁぁ~っ、今日は疲れたなあ」

 部屋に入るなり、シフルはベッドの上に倒れ込む。

「まあ、オレも3連続魔法とか久々にしたからかなり疲れた。でも、せめて着替えてシャワー浴びてから寝ろよな」

「あぁ、ごめんごめん。そうだよね」

 シフルはゆっくりと起き上がり、着替え始めた。

 その様子をライルはまじまじと見つめ、呟く。

「なんだ、それほどシミは目立ってないな」

「……あのさあ。昼もお尻を叩いたとき思ったけど、あなたって本っ当にデリカシーないよね!? というか、年頃なのに目の前で女の人が着替えをしても恥ずかしがろうとしないし!」

「ははは。本国で姉を含めて女社会に囲まれたせいだろうな。とにかくさっさと着替えて寝るんだぞ」

「ふん、言われなくてもそうしますよーだ!」

 シフルはさっと着替え、部屋を出て宿屋のシャワー室へと向かった。

「ったく。別に仲間なんだから、恥ずかしがる必要はないだろ」

 ライルは呆れながら、シフルがいない間に着替えを済ませるのだった。

 その後、2人はすぐに就寝した。


 ------------


 翌朝、早めの時間に2人が目を覚ますと、朝食と支度をさっと済ませ、行きと同じ馬車で元の街に向かうことにした。

 街を出る前に道具屋に立ち寄り、店主にお礼を言うと薬草と金貨1枚をお礼として渡してくれた。

 お礼自体は、ギルドで報酬として受け取ろうと思っていたので、2人は断ろうとしたが、店主の厚意だからと押し切られてしまった。

 それから、2人は再び馬車に乗り込み出発した。

「今度こそ何も起きないといいなあ……」

「昨日はそう言った直後に襲われたがな」

「うっ、それを言われると辛い……」

「まあいいけどな」

 そんなことを言いながら、馬車は昨日盗賊たちに襲われた森に差し掛かる。

「……あれ、ちょっと待って! 何かいる!」

 ふと、シフルは何物かの影が見えた気がした。

 シフルは御者に停止の合図を送り、窓から外の様子を伺うと、フードを被った人が見えた。

 その姿に、2人は見覚えがあった。

「あれは……昨日の弓使いの少女か」

 ライルが呟く。

「でも、今日は立っているだけっぽいね」

 シフルが彼女の様子に首をかしげる。

「ちょっと近づいてみるか」

 2人は馬車を降り、少女の元に駆け寄る。

「おいあんた、こんなところで何をしている?」

 ライルが声をかける。

 すると、彼女はこちらを振り向いた。

「……ああ、アンタたちね」

 しかし、少女は昨日とは違って元気が無いように見えた。

 フードを含めて、衣装全体も昨日と比べて少し薄汚れた感じがした。

「一体昨日はあれから何があったんだ? 随分元気がないようだが」

「別に。やっぱり憲兵が来たからそれに追い回されていたのと、あとあいつらの残党が少しいたから片付けてたのよ」

「片付け……やっぱり殺しを?」

「当り前じゃない。でも……おかげで一晩中走り回ってもうクタクタなのよ」

 少女がため息をつく。

 その様子を見て、ライルは提案する。

「なるほど。それなら、俺たちと一緒に街に来るか? あっちの憲兵には、お前の顔もあまり知られていないだろうしな」

「……はー? アンタ何言ってんの。昨日も言ったでしょ、そっちのヘタレと一緒の空気を吸うと気分が悪くなるって」

「き、昨日より言い方が悪化したような……」

 直球で物を言われ、シフルが落ち込む。が、すぐに立ち直って、

「でも、一晩中駆け巡っていたのなら、もしかしてご飯を食べていないのでは? せっかくなら、私が作りますけど」

 シフルも、少女に提案する。

「それはいいな。こいつは戦闘はからきしだが、料理の腕はそれはもう一流だ。昨日の昼、野菜のスープとパンをオレもいただいたが、オレの本国の料理とは比べ物にならないほどに絶品だったぞ」

「ちょ、ちょっとライル。そこまで言われると照れくさいんだけど」

 シフルが照れくさそうに笑う。

「野菜の……スープ…………」

 一方の少女の方は、野菜スープという単語に反応していた。

 頭の中で、想像上の野菜スープを思い描いているのか、口を半開きにしたままぼーっとしていた。

「……あの、涎」

「…………ハッ! な、何よ! ヘタレのくせに、食べ物で釣ろうっていうの!?」

 シフルの言葉に、少女は手で急いで涎を拭き、我を取り戻した。

「いや、そんなつもりはないんだけど……。ただ、お腹が減っていたら、何か食べた方がいいのかな、と思って」

「べ、別に、おなかなんて空いてないし!」

 少女は強がりを言う。


 ぐうぅぅぅぅぅぅぅ


 が、その言葉とは裏腹に、彼女の腹部からは大きな音が鳴り響いた。

「……っ!!」

「ほら、やっぱり。あまり無理はしない方がいいと思うけど……」

 シフルは苦笑いしながら、言う。

 すると、少女は恥ずかしさからか、顔を赤くして、

「わ、分かったわよ。一緒に行けばいいんでしょう!? その代わり、本当に美味しくなかったら承知しないからね!!」

「えぇ、任せて」

 シフルは笑顔で答える。

「決まりだな。昨日と違って荷物はないから狭くはないと思うから、3人でも窮屈ではないと思うぞ。臭いのは我慢すればいいしな」

「一言余計なのよアンタは! で、それと!」

 少女がライルを指差す。

「名前! 次に会ったら聞くとか言ってたでしょ!」

「そういえばそうだったな」

「だね」

 シフルとライルが同時に気付く。

「私はシフル。職業は……いちおう剣士、です」

「俺はライル。Bランクの冒険者で魔導士だ。よろしくな」

「ふーん、シフルにライルね。アタシはエミリよ。この辺りでならず者を殺して回ってたわ。それと……」

 エミリと名乗った少女は、フードを取り、自身の金の髪をかき上げ、耳を見せる。

「アタシはこういうものだから。よろしく」

 その耳は、人間のものよりも長く尖っていた。それは、彼女がエルフという種族であることを示していた。

「え、ほ、本物のエルフ!?」

「……なるほど。それなら弓の扱いが長けているのにも納得がいく」

 シフルは驚き、ライルは感心するかのように呟く。

「正確にはハーフエルフだけどね。若干、純粋なエルフであるママの血が強いのよ。とりあえず、アタシがエルフってことは隠して街の中に入るからね」

「ああ、わかった」

「うん」

 シフルとライルはうなずく。

「よし、じゃあ行くか」

 エミリを馬車に乗せ、一行は最初の街へと戻る。

 道具屋の主人に報告を済ませ、ギルドで報酬を受け取った後、3人はシフルの家へと向かった。


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「ハムッ!……モグモグ……な、なんなのこの美味さは!? 手が止まらないんだけど!!」

 エミリは、シフルが腕によりをかけて作った野菜のスープとパンを貪り食っている。

「そんなに勢いよくがっつくほどお腹が空いていたのか……というか、エルフは小食のイメージがあったが……」

「んぐんぐ………|ふぉれはひゅんふいなへるふのふぁなひへひょ」

「ああもう、何言ってるかわからないし食べカスが飛ぶから、ちゃんと飲み込んでから喋ってくれ」

 ライルが苦笑する。

「んぐっ…………アタシはハーフエルフだから、純粋なエルフと違って食事はそこそことるほうなのよ」

「そこそこ?」

 シフルが首をかしげる。

 エミリはすでに2人合わせた分の倍以上は平らげているため、そこそこと言われても説得力がなかった。

「……フ、フン! どうせあの森では木の実くらいしか食べる物がなかったから、久々のまともな食事で舞い上がっただけよ!」

「久々、か。そもそもお前はどこから来たんだ? 元々森で暮らしていたのではないのか?」

「…………そこはあまり掘り下げないでもらえる? しかも食事中に」

 エミリの目に殺気がこもる。

「悪い。なら別の質問をする」

 その目を見て、ライルはすぐに引き下がった。

「なぜお前はああまで盗賊たちを憎むんだ?」

「……そのくらいならいいわね。それは、ママがああいうやつらに殺されたからよ」

「えっ……」

「…………ほう」

 エミリの言葉に、シフルとライルは目を見開いて驚く。

「なんでも、アタシのママは元々森の奥深くに住むエルフ族の高位の立場だったみたいだけど、山賊たちがエルフの集落を襲って、ママを連れ帰ったのよ。で、その山賊との間に生まれた子がアタシ」

「うそ……」

 さらに衝撃的な事実がエミリから告げられ、シフルは絶句する。

 エミリは続ける。

「ハッ、嘘だったらどれだけよかったか。で、アタシは幼少のころから山賊団に虐待されながらも山賊の一員として弓の腕を磨いてきた。でもある日、ずっと山賊たちの慰み者だったママは、アタシが育つと用済みと見られて、あいつらに殺されてしまった」

「………………」

 ライルは、黙ってそれを聞いていた。

「その時、アタシの中で何かが切れた。山賊団に襲い掛かって…………気がつけば、アタシは山賊団の屍の中にいた」

 エミリのスプーンを握る手が強くなる。

「それからは、ただひたすらに矢を撃ちつづけたわ。ああいうならず者たちを殺すためにね。あいつらがいたから、ママは殺された。エルフの里は壊滅した。もう二度と、そんなことは繰り返してはいけない。そのために、アタシは山賊を殺し続ける」

「なるほど……復讐のため、か」

 ライルが呟く。

「……それなら、昨日の私の発言は気に障ってしまったよね。あなたの事情も知らないで……ごめんなさい」

 シフルは、エミリに頭を下げた。

「別にいいわよ。初対面でアタシの事情を知れ、って言われても無理だし。こいつが言うように、アタシは復讐のために生きてるわけだしね…………そ、それに」

「それに?」

「アタシも、一緒にいるだけで気分が悪くなるとか言っちゃったけど、こ、こんな美味しい料理作れる奴とは思わなかったからね。多少許したわ」

(多少なんだ……)

 シフルは心の中で苦笑いをする。

「なるほど。お前の事情はわかった。で、これからどうする?」

「決まってるじゃない。山賊や盗賊を殺して回る旅を続けるのよ。いい食事だったわ、ありがとう」

「おっと、帰すわけにはいかないな」

 突如、ライルが言った。


ガチャガチャガチャッ!


 すると、ライルは魔法でシフルの家の玄関、窓などを全てロックした。

「は?どういうこと?」

 エミリが眉根を寄せた。

 シフルは、嫌な予感がして、恐る恐るライルに小声で尋ねた。

(え、ちょっとライル、何してるの!?)

(このままこいつを引き入れる)

(えぇー!?)

 シフルは思わず大声を出しそうになったが、なんとか堪えた。

「昨日も言った通り、俺らは森の探索が出来る人を探している。ハーフエルフ、かつ森の中で暮らしてきたお前なら適任だ」

「そ、そんなの、昨日断ったじゃない! それに、アタシはならず者を!」

「それはわかるが……昨日盗賊を倒してもらった分のお礼以上に、お前はここでメシを食べてしまったな?」

「うっ……」

 ライルに図星を突かれ、エミリが言葉に詰まる。

「シフルが備蓄していた数日分の食料まで平らげてしまったから、さぞかしこいつも困っているだろうな」

「え、ボ、ボクは特に……足りなくなったら街の人におすそ分けしてもらえるから…………」

 シフルが言葉を続けようとするが、ライルがシフルのお尻をつねって遮る。

「あ痛たたた!!」

「ん? なんか言った?」

「なんでもないです、はい。すみません」

 シフルは涙目になりながら答えた。

「という訳だから、食べた分働くと思って、しばらくの間、オレたちのパーティーに入ってくれないか。これから入っていく森に山賊がいないとも限らない。探索ついでに退治を手伝ってくれると助かるんだが。報酬は弾むし、なんなら宿や飯はシフルの家に居候、ってことでもいいぞ」

 ライルは満面の笑みでエミリに言う。

 その表情を見て、エミリはドン引きした。

「…………アンタ、割と性格悪い方ね」

「うんうん……って痛い痛い痛い冗談です!」

 エミリの言葉にシフルは同調しようとするが、またライルに尻をつねられてしまった。

(っていうか、さっきからボクの尻を遠慮なくつねり過ぎ! 相変わらず女の子に対して配慮がないんだから!!)

 シフルは心の中でツッコミを入れた。

「ま、そういうわけで、どうだろうか。エミリ?」

 ライルが満面の笑みのまま問いかけた。

「ぐぬぬ……わかったわ、その依頼、受けてあげる。ただし! ちゃんとした報酬はもらうからね!」

「ああ、もちろんだ」

 納得のいかない表情をしながらも、観念してエミリがライルの提案を受け入れる。


 こうして、シフルたちのパーティーに新たな仲間が加わったのであった。

少し間が空いてしまいましたが第3話です。

軸はシフルとライルですが、協力者として今回から新キャラが登場しました。

よろしくお願いします。

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