第2話 昔語り
翌日、ライルと名乗った少年は、冒険者ギルドに来ていた。
「おはようございます、ライルさん」
「おはよう」
受付嬢に軽く返事をするライル。周りに人は、ライル以外いなかった。
辺境の街ということで、訪れる冒険者は少ないようだった。
「協力者がいればよかったんだけどな……」
ライルはすでにある依頼を引き受けてこの街に来ているのだが、ギルドに協力者がいないか探そうと思い、ここに来たのである。
「ま、いいか。何か片手間で出来そうな依頼は入ってない?」
「ん~、今は特にありませんね。最近じゃゴブリンの討伐とかはめっきり減ったし……。ゴブリンは縄張り意識が強いから、他の魔物に狩られちゃったんでしょうね」
(ということは、昨日のはほぼ残党に近かったのか……)
受付嬢の話を聞きながら、ライルは自分の冒険者カードを取り出していた。
そこには、「Bランク」と書かれており、その横には自分の名前と性別が書かれている。
カードを眺めた後、ライルはそれをポケットに入れた。
その後、彼は掲示板へと向かい、何か良い依頼がないかを確認する。
「……これといったものはなさそうかな」
ライルは呟くと、踵を返して出口へと向かおうとする。
すると、ライルは知った顔を見つけた。
それは、昨日森で出会った女性――シフルであった。
ライルは彼女に話しかける。
「あれ?キミは確か……」
「……奇遇ね。そういえば、冒険者って言っていたわね」
落ち着いた声で答えるシフル。
彼女は、昨日ゴブリンに襲われてベソをかいていたとは思えないような冷ややかな雰囲気をだしていた。
(そういえば、クールを装ってるんだっけ)
ライルはそんなことを思いつつ、尋ねる。
「ところで、アンタがここにいるってことは、冒険者ってことなんだな。何か依頼を探しにきたのか?」
「ええ」
シフルが短く答える。
「そうか。でも、そんな大した依頼はなさそうだけどな」
「そう」
「しかし、冒険者ってことは、アンタもランク持ってるんだよな。ランクいくつなんだ?」
「えっ……」
ライルの質問に、シフルの目が泳ぎ出す。
「……そ、そうね。今は少し事情があって、ランクは明かせないわ」
シフルの答え方を見てライルはおおよその事を察した。
(分かりやすいなあ……)
ライルは軽くため息をつく。
「というか、カードを見れば一発じゃん。見せてよ」
「へ? あっ、こら!」
ライルがシフルのズボンのポケットに手を入れ、シフルの冒険者カードを奪い取る。
そこに書かれていたランクは、Fランク。
つまり、駆け出しもいいところのレベルであった。
それを見て、ライルは呆れる。
「Fランク、しかも、登録が6年前……ってことは、6年間ずっとFランク?」
「……」
顔を赤くしながらシフルは無言で俯く。
それを肯定と受け取ったライルは、さらに言葉を続ける。
「なるほど、それなら昨日の状況も納得かあ。なんせ、ゴブリンに襲われておも……」
「それ以上は言わないでっ!」
泣きそうになりながら声を出すシフル。
「ほら、またクールの演技が剥がれかけてる」
「ぐっ……」
再び無表情になるシフル。
「それで、一体どうやったらFランクのまま6年も過ごせるの? 依頼とかこなしてないの?」
「……してるわよ」
「どんな依頼?」
「道具屋の店番、引っ越しのお手伝い、街の花壇の水やり、子どもたちの遊び相手に、教会で授業を教えに行ったりもしたわ」
「……全部魔物退治に直結してないじゃん」
なぜか胸を張って主張するシフルに、ため息交じりでツッコむライル。
冒険者のギルドに寄せられる依頼は魔物退治から日常的なお手伝い、おつかいまでさまざまだが、冒険者のランクシステムは、現状ではおおよそ魔物退治の実績が重視され、ランクアップが認められるシステムとなっている。
そのため、シフルのように戦闘以外の任務をこなすだけでは、冒険者のランクはなかなか上がりにくいのである。
「でも、そういった依頼でもこなしていただける分、シフルさんには助かっているんですよ」
横で見ていた受付嬢が言う。
実際、このような依頼は報酬もそれほど多くなく、魔物が絡まないとあっては、ほとんどの冒険者は敬遠してしまう。
冒険者たちは、自分のランクを上げるために必死で魔物と戦おうとするあまり、他の仕事や依頼を蔑ろにしがちになってしまう。
だからこそ、こうした日常的な助けごとの依頼をこなしてくれるシフルのような存在は、ギルドにとってはとてもありがたい存在であった。
(まあ、だからといってFランクのままでいい理由にはならないけどな)
ライルはそんなことを考えつつ、シフルに尋ねる。
「それで、今日は何しにここに? まあ、おおよそは依頼を確認しにきた、ってところなんだろうけど」
「あっ、そうだった……」
ライルの言葉で本来の目的を思い出したシフルは、ギルド内の掲示板を見る。
「えっ……と。スコットさんちで草むしり、ローガンさんちで昼食づくりに……これなら、午後の教会の算術の授業は間に合うか……」
ブツブツ言いながら、次々と掲示板に貼られた依頼書を取っていくシフル。
その様子にライルは呆れ顔で呟く。
「本当にFランク向けの依頼ばっかりじゃん」
「……うるさい」
シフルは頬を膨らませてそっぽ向く。
そして、その依頼書を受付に持っていき、受付嬢に手続きをしてもらうと、シフルは急ぐようにギルドを後にするのだった。
「忙しい人だなあ」
その場に残ったライルは、ため息交じりに言う。
「でも実際、ああやって小さな依頼をこなしてくれるから、シフルちゃんは街の人たちからも人気があるんですよ」
受付嬢は笑顔でライルに言う。
「街の人たちは、アイツがクールを装ってるザコってことは知ってるの?」
「……相変わらずライルさんは言葉がキツいですね」
歯に衣着せぬライルの発言に、受付嬢は苦笑する。
「確かに、街の人たちのほとんどはシフルさんの実力や性格の事は知っています。けど、それで彼女をバカにしたりする人は街の中にいないです。彼女は戦闘以外のスペック、例えば頭のよさとか、器量のよさとか、料理の上手さとか、そういうのがかなり高いですからね」
「ふーん。聞けば聞くほど、アイツ冒険者に向いてないんじゃね、って思うな」
「あはは……」
受付嬢は再び苦笑する。
だが、すぐ後に表情を切り替え、真剣なまなざしをライルに向ける。
「でもまあ、冒険者として魔物と戦うだけが冒険者じゃない。誰かを助けることも、立派な冒険者の役目なんじゃないかなって、私は思います」
「……でも、アイツはそれで満足してないんじゃないかな」
「う…………」
ライルも、受付嬢の雰囲気に合わせるように真剣な表情を見せる。
「でなきゃ、剣の修行をしたりしないからね。多分、強くなりたいって気持ちはあるんだろうね」
「…………」
「……なんで、アイツは強くありたい、って思ってるんだろう?」
ライルの疑問に対し、受付嬢は逡巡し、しばらく黙り込む。
「……シフルさんの事、あまり人には言いたくはないのですが……」
「オレはこのことを他の誰にも言わないよ。本人と会ったら、話は聞かせてもらった、くらいは言うかもしれないけど」
「……わかりました。それじゃあ、お話ししますね」
そう言って、受付嬢は語り始めた。
シフル・ルーゲンシュタインは、元々は別の街の孤児院にいたという。
両親の顔の記憶は全くなく、そこで数人の孤児とともに生活をしていたらしい。
そんな中で、シフルが7歳の時、彼女のもとに1人の男が現れた。
「その男性の名は――アベル」
「アベル……! まさか、あのアベル!?」
「ええ、ライルさんの想像する通りです」
ライルだけでなく、冒険者であればその名を知らぬほどの有名人。
冒険者の中でも数人ほどと言われる、SSランクの冒険者。
それが、アベルという名の男だった。
アベルに連れられる形で、シフルは世界各地を旅し、最終的にたどり着いたのが、今のこの街だった。
そこで、アベルとシフルは数年間、ともに暮らしていたという。
「でもさ。たしかアベルって……」
「ええ。今から7年前、シフルさんが12歳のころ、アベルさんは行方不明になります」
SSランクのアベルが突然消息を絶ったことは、冒険者たちの間でも話題になっていた。
当時は冒険者組合の人間も必死になって探したそうだが、結局見つけることはできず、今でも行方不明扱いになっているという。
その話を聞いていたライルは、何かを考えているような様子で、腕を組みながら天井を見上げる。
「今回、ライルさんが本国から受けた『依頼』も、彼に関するものだったんですよね」
「ああ。姉さんからの直接の依頼だ」
ライルの姉は冒険者組合の組合員で、現在は幹部クラスの役職にある。
そんな彼女が直接指名してきた仕事だから、相当重要なものだろうとライルは考えていた。
「まさか、そんなところで繋がってくるなんてね……で、アイツ自身も、アベルの行方不明には思うところがある、ってことか」
「はい。アベルさんと一緒に旅をしていたシフルさんですから、行方不明になった彼を探すために、彼のように強くなりたい、としきりに街の人たちに話すようになりました」
だが、その言葉とは裏腹に、彼女は戦いに関するセンスがまるでなかった。
頭はいいが魔力を備えていなかったため魔法は使えず、武器は、当初どれもまともに扱うことができなかった。
そして特に、彼女自身のメンタルの弱さが致命的だった。
昔の彼女が、転んでけがをすればすぐ泣き出すことや、夜1人でトイレに行けなことは、街の人たちにも知れ渡るくらいには有名だった。
だから、当初街の人たちはシフルの決意に対して不安を覚えていた。
「でも、シフルさんは努力で少しずつ改善していきました。メンタルの弱さを、クールに振る舞うことで補おうと考えて克服しようとしていますし、剣の腕も、トレーニングを重ねて普通の人よりは少し高いレベルにはなりました。魔法だけはどうしようもなかったみたいですが……そんな、努力する姿を見て、私を含めて街の人たちは優しく見守っている、というのが現状ですね」
「………………」
受付嬢がシフルに関する話を終えても、ライルはしばらく無言のままだった。
「……ライルさん?」
「ん?……ああ、ごめん」
声をかけられてようやく我に返ったライルは、頭を掻く。
「なるほどね。そういう経緯があったのか」
「はい。それで、今回の件なのですが……」
「まあ、話はわかったよ。アベルに関する情報を得るために、アイツに会って話を聞いておかないといけないかもな」
ライルの言葉を聞いた受付嬢は、「やっぱりそうなりますよね」と呟きながら、困った表情を浮かべる。
「でも、シフルさんから聞いたところで、もしかしたら今わかっている情報以上のものは得られないかもしれませんよ?」
「それはやってみないとわからないさ」
「……もしかして、実はライルさん、彼女の方に興味があったり?」
「それはない」
受付嬢の問いかけに即答するライル。その様子に、受付嬢はくすりと笑う。
「ふふっ、そうですか」
「……とりあえず、午後にアイツに話を聞きに行ってみよう」
そう言って、ライルはギルドを後にするのだった。
道具屋で必要なものを買いそろえ、食事を済ませた後、ライルは街の教会の方へ向かっていた。
「確かアイツ、午後から算術の授業をするとか言ってたな」
ライルは教会に到着すると、扉を開いて中に入る。
中には、十数人ほどの子供たちがいて、算術の勉強をしていた。
「はい、じゃあ次の問題。そうね、12かける7はいくつ?」
子どもたちの前に立つのはシフルだった。シフルが1人の男の子を指名し、問いかける。
「84!」
それに対して、指名された男の子が元気よく答える。
「正解。じゃあ次。34÷17は?」
シフルが別の男の子を指名し、問いを投げかける。
「2!」
「正解。うん、みんなちゃんと復習が出来てる」
シフルは感心したように言う。
彼女のクールな振る舞いが、どこか理知的な雰囲気を漂わせていた。
しかし、雰囲気だけでなく、彼女の子どもたちに対する教え方はとてもうまく、わかりやすい。
ライルは、そのように感じた。
「……あ」
授業に集中していたシフルが、ライルが教会の扉のそばに立っているのに気づく。
シフルの反応に、子どもたちは一斉に扉の方を向く。
ライルは、シフルが気づいたのを見て、軽く手を挙げて挨拶をする。
「あれ、シフル先生のお客さん?」
「……ええ。けど、授業の方が大事だから、このまま続けるわ」
「えー、いいじゃん!お兄さんも一緒にやろうよ!」
シフルの言葉に対し、数人の子どもが不満の声を上げる。
シフルは、困ったような表情を浮かべるが、すぐに笑顔を作り、
「……わかったわ。まあ、ここに来たということは、わたしの授業を受けたいということだから、ぜひ後ろに座って授業を受けてもらいましょう」
と言って、ライルを教会の椅子の後方に案内する。
(……うえぇ)
ライルは嫌そうな表情を浮かべながら、案内された席に座る。
「さて、じゃあ続きを始めましょうか」
シフルは笑顔のままそう言って、子どもたちに向き直るのだった。
「あー、まさかここに来て算術の授業をする羽目になるとは……」
算術の授業が終わり、子どもたちを解散させた後、ライルは疲れた表情で伸びをする。
「魔法使いなのに、勉強したことないの?」
その姿に、シフルが呆れるように言う。
「いや、こうやって集まって勉強する形式が苦手なだけ。頭脳に関しては同年代とは比べ物にならないくらいだったからね」
「あ、そ」
ライルの答えに、シフルは興味なさげに返事をする。
「それより、聞きたいことがあるんでしょ。何?」
「聞きたいことはあるが……とりあえず、場所を変えたい。出来れば、お前の家がいいんだが……」
「1人暮らしの女性の家に行きたいとか…………」
ライルの言葉に、嫌悪するような視線を投げかけるシフル。
「いや、変なことは考えてないから。純粋に、オレの任務の事で聞きたいことがあるだけだから」
言い訳がましいとシフルは感じたが、すぐに仕方ない、という表情に変える。
「……別に構わないけど。その代わり、変なことしたら殺すから」
「わかってる」
そうして2人は、シフルの自宅に向かった。
シフルの家は、木造の平屋建てだが、1人で暮らすには少し広く感じた。
(となると、やっぱりアベルと2人で暮らしていたんだろうな……)
ライルはそんなことを考えつつ、家の中に入る。
家の中には本棚があるくらいで、それ以外に特にこれといったものはなく、生活に必要な最低限のものしか置いていなかった。
ライルは、リビングにあるソファに座り、対面にシフルも腰掛ける。
「で、ギルドではどういうことを聞いたの?」
シフルがライルに聞く。
「ああ。なんか、アンタが夜1人でトイレに行けなくて、15歳までおねしょしてたって話を聞いた」
「……やっぱあなたはボクがこの場で始末する」
シフルがそばに置いてあったショートソードに手をかけようとする。
「冗談だ」
「……だ、だいたい! ボクはおねしょは10歳でしなくなったんだからね! ほ、ホントだぞ!」
(10歳でもだいぶ高い年齢だと思うけどな……あとその言い方は余計疑わしくなるんだけど)
ライルはそう思ったが、口に出すことはなかった。
「まったく……で、本当は?」
シフルが、ショートソードから手を離したのを見て、ライルが本題に入る。
「単刀直入に、アベルの事を聞きたい」
ライルは、シフルの目を見ながら言った。
シフルも、ライルを見つめ返す。
沈黙が続くが、しばらくしてシフルは口を開いた。
「なぜ、アベルさんのことを聞くの? 」
「依頼主からアベルの情報を集めろというのが、オレのいま受けている依頼なんだ」
「そう……」
ライルの言葉を聞いて、シフルは納得したような声を出す。
「じゃあ、わたしが知ってることは全部話す。ただ、もしかしたらあなたの知っている範囲の事しか話せないかもしれない」
シフルは真剣な眼差しを向けながら、ライルに言う。
「それでもいいよ。接している人間から話を聞く、ということが大事だから。」
「……わかった」
そして、シフルは語り始めた。
「わたしとの関係については、多分聞いた通り。孤児だったわたしを、7歳の頃に引き取って、それからしばらくあの人と一緒にいろんな所をめぐって、9歳か10歳の頃にこの街に来た。それで、しばらくはこの街で暮らすことになった」
「ああ。けど、オレはその一連の流れを聞いて、2つ疑問が浮かんだ」
ライルは、指を2つ立てて続ける。
「1つは、なぜアンタを引き取ったのかということ。孤児院には、お前以外にも子どもはいたはずだろ?」
「それは……わたしには教えてくれなかった。聞いたことはあったけど、はぐらかされるような感じで」
「ふむ……」
「でも、アベルさんがわたしを誰かと重ねていた、という可能性はあるかも。何度か、寝ぼけたアベルさんがわたしじゃない名前を言ったことがあったから……」
「なるほどな」
これ以上の情報はなさそうだと思い、ライルは次の質問に移る。
「2つ目は、なぜこの街に暮らすことになったのか。
アンタも知ってるだろうけど、アベルはSSランクの冒険者だ。それほどの人物が、1つの街に定住し、なおかつほとんど魔物を退治しない、というのはどうにもおかしいことだ。何か事情があると思うんだけど」
ライルの問いに、シフルは首を横に振る。
「それも……よくはわからない。ある日突然、わたしとこの街に住み始めて、たまにギルドの依頼を受けて、お金を稼ぐくらい。だけど……」
「だけど?」
「失踪する半年前あたりから、アベルさんは何か本を読みながら研究をしているような感じだった。本とかを読むような人には見えなかったから、少し意外だと思った」
「その本は残っているの?」
「……それが、アベルさんは本を読み終わったらすぐ焼却してしまって」
「手元にはなし、か」
ライルは本棚の方に目をやる。本棚には算術の本、料理の本、剣術の本など、シフルが必要とするような本しかなかった。
(けど、そうやって証拠を残したくないようなことを研究していたとも考えられる。けど、一体何を……)
ライルは考え込む。
「気になるところは、それだけ?」
「そうだね……あとは、失踪する日のことかな」
「……………」
シフルが沈黙する。
「辛いことなら、無理に話してもらう必要はないけど」
「いや、大丈夫」
シフルが一つ、深呼吸をして話し始める。
「あの日、アベルさんは朝から出かけた。それで、夕方になって、アベルさんが一度帰ってきた。
その時のアベルさんの様子がおかしかった。いつも以上に暗い顔をしていて、わたしの顔を見るなり、『もう二度と会えないかもしれない』って言ってきた。ついていきたい、ってわたしは言ったけど、アベルさんは絶対ここにいろ、って、かなり強い口調で言われた。
……後にも先にも、アベルさんがあれほどわたしに強い口調で言ったのは、あの時だけかもしれない。その後、アベルさんはもう一度家を出て行った。行き先も告げずに。
そして、二度と帰ってこなかった」
「……」
「……アベルさんは、わたしの憧れ。襲いかかる敵を次から次へと倒していくし、それに勇敢。その姿を見て、わたしも、いつかあの人のようになりたいって、そう思った」
「だから、今アンタは冒険者になっているわけだ」
「……まあ、実力はこの体たらくだけど」
シフルが置いてある冒険者カードを手に取る。
「わたしは、弱い自分が嫌いだ。強くなりたい。アベルさんのように」
「そうか……」
シフルが呟く。声は大きくないが、力強さはライルにも伝わってきた。
「……アベルさんに関して、聞きたいことは他にない?」
シフルが、ライルに向き直る。
「とりあえずは、そんなところか」
そう言って、ライルが立ち上がる。
一通りの情報が聞けたということで、宿に戻って整理をしようと、彼は考えていた。
「ありがとう。有益な情報だったよ」
「……あの」
「ん?」
ライルが家を出ようとするところで、シフルが彼を呼び止める。
「あなたも、アベルさんを探しているの?」
「まあ、お上からの調査で、な」
「……あなたは、強いのよね」
「まあ……Bランクだからな」
「そう。なら、お願いがあるんだけど」
シフルが立ち上がり、頭を下げる。
「わたしに、戦い方を教えてほしい。この通り」
「……は?」
予想外の行動に、ライルは思わず変な声を出してしまう。
「おいおい、なんの冗談だよ」
「……本気。さっきも言ったけど、わたしは、強くなりたい。そのために、あなたの力が必要だと思った」
「といっても、オレは魔法使いで、アンタは剣士。そもそものタイプが違うだろ」
「それはわかっている。でも、それでも教えて欲しい」
シフルが頭を上げ、真剣な目つきでライルを見つめる。
「……わかった。じゃあ、明日から修行を始める」
「……うん、わかった」
「といっても、オレはお前の日課になっているトレーニングや、剣の素振りとかの動きを見たりするくらいかもしれないけど……」
そんなことを言いながら、ふとライルは気になったことがあったので、シフルに聞いてみた。
「そういやお前、今日は修行に行ったのか?」
「………………」
その質問に、シフルは午前の時と同じように目が泳いだ。
「……行ってないんだな?」
「あぅ……あ、あの。まだあのゴブリンが残っているかもしれないと思ったから、今日は……その……」
「……はぁ。ったく、仕方ないなあ。明日は一緒に行くから、少しは安全だろ」
「ううっ……わかった」
シフルが申し訳なさそうに謝る。
「じゃ、オレはもう帰るから」
「うん。じゃあ明日の朝、森の入り口の辺りで待ってるから」
「来なかったら?」
「………………」
再び、シフルがショートソードに手をかける。
「冗談だよ。それじゃあ、明日」
そのまま足早にライルは家を出て行く。
シフルは家にポツンと取り残された。
「……アベルさん。わたしは強くなる。必ず」
そう呟いて、シフルは剣の手入れを始めたのだった。
第2話です。よろしくお願いします。
※同一作品をノベルアップ+、Pixivにも投稿をしています。




