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俺と『悟(さとり)』の夏休み  作者: 佳景(かけい)
旅、五日目
47/61

―47―

 スマートフォンのアラームが鳴った。

 

 アラームを止めた俺は、次の瞬間妙に体が軽いことに気付いて、ちょっとびっくりする。


 起き上がったら、そのままの勢いで体が浮き上がるんじゃないかなんて、ついそんな馬鹿なことを考えてしまった。


 きっと昨日の温泉のおかげだろう。


 暑い中ずっと外にいるし、この旅で思った以上に体が疲れていた筈だけど、その疲れはすっかり取れている。


 おかげで今日はたくさん自転車を漕げそうなのに、もうすぐこの旅が終わってしまうと思ったら、急に起き上がる気が失せた。

 

 このまま先に進んだら、母さんの言う通り、あと二、三日でおばあちゃん家に着く。


 『本当の自分』を見付けられないまま、この時間が――旅が終わってしまう。


 それは嫌だった。ここでぐずぐずしていたって、見付かる訳じゃないだろうけど、先に進んだら確実にこの旅は終わる。


 それならいっそ遠回りして、この旅を長引かせるのはどうだろうか。


 とりあえず時間は稼げるし。

 

 俺がタオルケットを被ったまま悶々としていると、テントの向こうからルアが話し掛けてきた。


「カイ? どうかした?」


 いつもはアラームが鳴った後すぐにテントを出ているから、俺がなかなか出て来ないのを不審に思ったみたいだ。


 俺は横になったまま、テント越しに答える。


「今日は、こっから出たくねえ気分なんだ」

「どうしたの? 具合でも悪い?」


 心配そうな声で訊いてくるキランに、俺は答えた。


「大丈夫。ちょっとやる気が出ねえだけだから」

「何があったか知らないけど、とりあえず出て来たら? この辺り人は少ないみたいだけど、もう日も昇ってるし、ずっとそこにいる訳には行かないでしょ?」


 ルアの言う通り、いくら無人駅とはいえ、駅の横にずっとテントを張っているのも良くないだろう。


 時々は鉄道会社の人が見回りに来たりするのかも知れないし、見付かって揉めるのは避けたい。

 

 俺は渋々起き上がると、タオルケットや懐中電灯をリュックにしまって、テントのファスナーを開けた。


 キランもルアも気遣わしげな目を俺に向けていて、心配してくれているのがよくわかる。


 俺がスニーカーを履きながら、キランとルアに朝の挨拶をすると、二人も挨拶を返してくれて、テントを畳むのを手伝ってくれた。


「具合は悪くないって言うのは本当みたいだね」


 ルアがテントを固定する杭を引き抜きながら、安心したようにそう言うと、キランが訊いてくる。


「急にどうしたの? おばあちゃんに会いたくなくなったの?」

「そういう訳じゃねえんだけど……」


 馬鹿にされそうな気がして、適当に誤魔化すことも考えたけど、俺は正直に話すことにした。


 嘘でうやむやにしたら、これから先もずっと嘘を吐き続けることになりそうな気がする。


 せっかく楽しい旅なのに、台無しになんてしたくなかった。


「……実はさ、俺『自分探し』をするために旅に出たんだ。でももうすぐ旅が終わるのに、まだ『本当の自分』が見付からなくて、それで先に進めなくなっちゃったんだよ」


 勇気を出してそう話すと、キランもルアもきょとんとした顔で俺を見てきた。


 キラン達には「自分探しをする」という発想がないのかも知れない。


 意外な反応だったけど、笑われたり、馬鹿にされたりするよりはずっとマシだった。


 ほっとしていると、キランが最後の杭を引き抜きながら不思議そうに言う。


「『自分探し』って、カイはここにいるじゃない。どうして探しに行く必要があるの?」

「確かに俺はここにいるんだけど、普段の俺とは違う俺を探したいんだよ」


 俺はテントを畳みながらそう答えた。






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