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俺と『悟(さとり)』の夏休み  作者: 佳景(かけい)
プロローグ
1/61

―1―

 もうすぐ七月が終わる。


 俺が通う筈だった高校は、もう夏休みに入っているだろう。


 高校生になってから一日も学校に行ってないけど、俺は別に引きこもりという訳じゃなかった。


 不登校の理由はイジメやクラスに馴染めなかったなんてありきたりのものじゃなく、かと言って何か別のはっきりした理由がある訳でもない。


 強いて言うなら、漠然とした不安が大きかったことが理由なんだろう。


 ほぼ顔見知りがそのまま持ち上がりだった小・中学校と違って、高校じゃそれまで知らなかったたくさんの奴と一緒になるし、イジメられたりしないか、新しい環境でちゃんとやって行けるか、先のことをいろいろ考えて動けなくなってしまった気がする。


 入学式の日にどうしても家を出られなかった俺は、それからずっと学校に行けずにいた。


 勉強も運動も人並みだったけど、所謂『普通』から外れることはなかったから、まさか自分が『普通』から外れて不登校になってしまうなんて思わなかった。

 

 『普通』じゃなくなった俺は、一体何なのだろう。

 

 わからない。

 

 少なくとも『特別』じゃないのは確かで、敢えて言うなら『異常』だろうか。


 『異常』だから、姉さんは不登校の俺を無視するし、父さんも母さんも隠し切れない困惑や迷いを抱えて俺に接するんだろう。


 でもコンビニに買い物には行くし、食事や風呂の時にはちゃんと自分の部屋を出るから、その気になればすぐに学校に戻れそうで、俺自身はこの状況をあまり深刻には考えていなかった。


 ずっと家でぶらぶらしているのも、それはそれで息が詰まるけど、やっぱり学校に行く気にはなれない。


 俺は水色のシーツと掛け布団に覆われたベッドでゴロゴロしながら、格安スマートフォンでSNSを眺めていた。


 外に出ない日は一日パジャマでいる日も珍しくなくて、今もパジャマを着たままだ。


 エアコンの効いた涼しい部屋で、どうでもいい情報を見るともなしに見ていた俺の目に、ふと愛犬と車で全国を回っているという若い男の人の呟きが留まった。


 ぬいぐるみみたいなミニチュアシュナウザーがちょっとした人気になっているみたいで、写真が何枚も上がっている。


 犬は嫌いじゃないけど、俺の興味を引いたのは犬じゃなくて、自己紹介欄の「車で日本一周旅行をしている」という文章の方だった。


 旅から帰って来れば、また前と変わらない日常が待っているにしても、気分転換にはなるだろう。


 もしかしたら旅先で、こんな自分とは違う『本当の自分』を見付けられるかも知れない。


 「自分探しに行く」というのは、旅立つ動機としてはごくありふれたもので、ありふれているからには、ちゃんと目的を達成する人が多いのかなと思うし。

 

 でも、どこに行けばいいだろう。

 

 もう高校生だし、家族旅行なんて鬱陶しいだけだから一人旅をしてみたかったけど、肝心の行き先が思い付かなかった。


 電車やバスを使ったら、すぐに旅が終わってしまってつまらないから、どうせなら自転車である程度遠くへ行ってみたいのだけど。

 

 いっそこのミニチュアシュナウザーの飼い主みたいに、日本一周してみるのはどうだろう。


 何気なくそう考えて、すぐに無理だなと思い直した。


 今まで自転車旅行をした経験もないのに、いきなり日本一周旅行ができるとは思えない。


 もうちょっと、現実的な目標を立てた方がいいだろう。


 どこか程々に遠くて、父さん達も反対しないような場所はないだろうか。


 あれこれ考えている内に、俺はふと愛知のおばあちゃんのことを思い出した。


 父さんの実家は愛知の隅っこの豊橋市という所にある。おじいちゃんは俺がまだ小さい時に病気で亡くなっていたけど、おばあちゃんはまだ元気だった。


 父さんは年に一度はおばあちゃんを訪ねているけど、俺は塾もあったし、小学六年生の夏休み以来、おばあちゃんには会っていない。


 おばあちゃんには随分可愛がってもらったし、たまには顔を見せて、おばあちゃん孝行をするのもいいだろう。


 神奈川から愛知程度の距離なら挫折せずに辿り着けそうだし、目的地がおばあちゃん家なら、父さん達もきっと賛成してくれるに違いない。

 

 我ながらなかなかの名案だ。

 

 俺は早速観光地を検索しながら、旅行のプランを練り始めた。






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