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プロローグ



桜の香りが鼻腔(びくう)の奥をくすぐるこの季節、人々は浮足立ち来るべき新生活へと心躍らせると言う。


今、僕のそばを抜けていったあのバイクも。

今、僕の前を歩くあの人も。


路地を抜けてく、猫たちも、みな、踊るように駆けていく。


そんな事をのたまう僕も、この春から私立黒瀬川(くろせがわ)学園に通うため、その一部である事は認めざる得ない。



春風が僕の鼻を撫でる。


少しくすぐったさを覚えるその風に僕は一瞥(いちべつ)し、鼻を(こす)った。どうやらこの春風さえもその足で季節を駆けているらしい。


なんだかこんなに愉快な世界だと今にも空から隕石が落ちてきたり、異星人に攻められたり、はたまた人類淘汰(とうた)を目的としたマッドな人間が人類滅亡を企てる、なんて空想をしてしまいがちだが、案の定そんな事は杞憂(きゆう)であると足元の木漏れ日が僕を叱責(しっせき)する。



僕の(かたわ)らからにゅっと小さな頭が現れる。

綺麗な黒髪が揺れる。僕の真ん中が揺らぐ。



逢魔(おうま)様、ネクタイが曲がっております」



そう言って僕のネクタイを正すこの少女は躑躅森 聖良(つつじもり せいら)

僕の幼馴染で、親友で、それでいて大切な人だ。

いつも一緒に過ごしてきた聖良と共に同じ学校に通える事はとても喜ばしい事だと思うのは彼女には秘密である。



「ありがとう、聖良。愛してるよ」



「逢魔様……」



パッポー、パッポー。



横断歩道の愉快な音楽が僕らの背中を早く行ってこいと(はや)し立てる。


さあ、そろそろもう時間だ。

僕は隣の少女にはにかむとその小さな、それでいて大きな一歩を踏み出した。



今から、始まるのだ。

僕らの新しい世界が──────





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