偽の恋人は覚悟を決める
千香視点
「そろそろ、お昼にしようか」
「そうね、どこかいいところは……」
私は、あたりを見回し昼食によさげな店を探そうとしたら、一つの店に気を取られた。陸斗も私が、なにかを見ていることに気づいたらしくこっちに視線を向ける。
「……千香。流石に僕たちにス●バは、早すぎる。他のところにしよう」
いつか、リベンジするからなー。
結局、昼食はファミレスに落ち着いた。私はカルボナーラ、陸斗はミートソーススパゲッティーを注文した。もちろんドリンクバーはつけてある。料理が来るまでの間、私は読書を陸斗はスマホでゲームを始めた。ふたりとも、経験したことのないことの連続で疲れ切っていて、好きなことをして英気を養うことは暗黙の了解だった。
ふたりとも料理が来て、いざ食べようとした時だった。私達の席からくもりガラスを挟んだとなりの席から話し声が聞こえた。
「聖也、何食べるか決めた?」
「うーん、このAセットかな。麗華は?」
「私も、おんなじのにしようかな」
天王寺君と星野の声だった。陸斗もすぐ気づいたらしく手が完全に止まってた。
天王寺君と星野は、共通の友達について話したり部活の話をして会話には困ってなさそうだった。
「にしても、麗華が俺と付き合ってくれるなんて思ってもなかったよ」
「いやいや、それはこっちの言葉だよ。聖也、クラスの女子からとても人気なんだよ。なのに、私を選んでくれるなんてとっても嬉しかったな」
「そうか、なんか照れるな。それだったら麗華だって、3年の先輩から凄いアピールされてたじゃん」
「いやぁ、あの人は無理だよ、なんていうか怖かったし。あと、私が好きなのは聖也だけだから。えへへ」
二人が喋ってる間、私達は一ミリも動く事ができなかった。私達がだんまりしてる間、隣のカップルはどんどんイチャついていた。なんか、あ~んとかもしていたし。そして、二人は一時間たっぷり私達に見せつけるようにイチャついた後恋人繋ぎをして帰って行った。
あの二人が店から出ていくと、陸斗は凄い勢いでパスタを食べた、30秒くらいできれいに平らげて、
「あぁ、気持ち悪い吐きそう」
と一言こぼした。
わかる、わかるよ陸斗。あんたの気持ちは私と全く一緒。あの光景を見ないように、その現実から逃げるために私達は偽の恋人という選択をした。なのに今日見てしまった。本来は、自分が入りたかった場所にいる別の人間を見てしまった。
悔しい、切ない、悲しい、憎い。
様々な感情が私の中を駆け回る。
「帰ろう、千香」
私はここから逃げ出したかった。だけど、陸斗がそう言ってくれなければ動くことができないくらい震えていた。
私は食欲がなくなったので自分の分のパスタは残して帰ることにした。
帰り道陸斗は、ポツリと呟く。
「僕たちは、きっと間違っているんだろうな」
「うん、復讐なんて本当はダメ」
「でも、僕たちにはこういうやり方しかできないんだと思う」
「うん」
「千香、僕は覚悟を決めたよ。あの二人を許さない。僕は天王寺よりもいい男だって証明してみせる。だから、君も手伝ってくれないか」
陸斗はさっきの元気の無さが嘘みたいに堂々としていた。だから、私も彼に答えなきゃ。
「陸斗が天王寺君より、いい男になるなんて無理よ。でも、手伝ってあげるわよ、私が星野麗華よりいい女だと証明するためにもね」
それを聞いた陸斗はキョトンとしたあと、はははと笑いだし
「星野よりもいい女ね、無理だろ。でも、少しは期待しといてやるよ」
そして私達は、今度こそ偽の恋人として覚悟を決めてスタートラインに立った。