偽の恋人vs服屋
陸斗視点
「ほい、千香」
「ありがとう、陸斗」
僕は、千香に自販機で買ってきた水を渡す。僕たちは、美容院から出て30分間オシャレ疲れを癒やすため公園で休憩していた。
「僕は、もう大丈夫だけど千香は?」
「陸斗がオシャレすぎること以外は、なんとか」
僕がオシャレすぎると言ってるが、千香の方がオシャレ指数が高い。直接言うのは、恥ずかしいけど、今の千香はめちゃくちゃ可愛い。髪型を変えてメイクを軽くするだけで、ここまで垢抜けるとは思ってもなかった。頭に星野を思い浮かべなければ、僕はもう千香に落ちていたと思う。
「それじゃあ、千香。服を買いに行こうか」
「陸斗、正気?」
「……どうして僕は、あんなにオシャレなところに行こうとしていたんだ?」
千香の一言で僕は正気を戻した。都会の服屋なんて、美容院と同じくらい危険だ。店員のキラキラオーラが別次元だからな。そんな事を考えながら僕は、千香を見た。顔から上は百点満点だった。しかし、服装は中学生なんだよなー。
「わかった、行こ。服屋」
僕の視線に気づいたのか、千香は服屋に行こうとしていた。
「別に、背丈は小学生なんだから気にしなくても……」
「陸斗、私は文学少女だからね暴力的なのは、得意じゃないんだ。でも、怒るととっても面倒臭いと思うんだよねー」
この時の千香は、背中から黒いオーラが出ていた。
「わかりました」
僕は、今後千香の身長をイジることは、極力やめようと思った。
「はー、オシャレオーラが身にしみるぜ」
僕たちは、駅近くのショッピングモールの専門店街に来ていた。駅周辺でも、この専門店街はオシャレなアパレルショップばかりだ。
「千香、どの店に入るか決めたか?」
「ダメ、どれもオシャレ偏差値が高すぎて。私には厳しすぎる」
千香は、軽く絶望した顔をしていた。
「もういい、あそこにする」
と千香は近くの店に突撃していった。
「いらっしゃいませー、何をお探しですか?」
早速、コミュ力強者の店員に捕まった。
「あ、う。ええと……」
千香が僕の方を見た。どうやら、助けてほしいみたいだけど……コミュ障が二人いても意味がないと思うんだよな。
でも、偽物とはいえ彼氏だからな、助けに行きますか。
「ええと、か、か、彼女に合うものをいくつか持ってきてくだひゃい」
……やってしまった。どもるし噛むし、大失敗だ。店員のお姉さんも苦笑いしてるんですけど。
「陸斗。ダメダメだったけど、ありがとう」
「うん」
千香にそう言ってもらえるだけで、僕は報われた気がした。
「5着ほど、お似合いそうなのを持ってきましたよ」
店員が帰ってきた。僕たち二人は揃って背筋をピンとさせた。
「試着なされます?」
お姉さんの笑顔の圧力に負けて千香は、
「……はい」
試着することを決めた。
「お客様、お似合いですよ」
毎回、同じ言葉で褒めてくる店員。これで5回目だ、マニュアル感が凄い。
「陸斗、どれがよかった?」
「ええと、三番目」
僕がそう言うと千香は笑った。
「ふふふ、一緒。こういうセンスも陸斗とは、息が合うみたいだ」
本当にそうゆうところだぞ千香。僕がちょろいオタクだったら、もう千香に落ちている。
「す、すみません。これ買います。着て帰っても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
千香はお会計を済ませた後、試着室に入っていった。
「どう?」
試着室から出た千香は、白のブラウスに水色のロングスカートでかなり可愛かった。
「似合ってるよ」
と僕は素直に感想を伝えるが、女の子に可愛いと言うのは照れくさく、すぐに自分の顔が赤くなっているのがわかった。僕に釣られたのか千香の顔も赤くなっていた。