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偽の恋人と作戦会議

「白川、偽の恋人て何をやればいいんだ?」

「黒崎君、自分で提案しておきながら、わかってないの?」


 昼休み、人気のない校舎裏で僕は白川と作戦会議をしていた。ちなみに2限から教室に戻ったが、誰も一限にいなかった僕と白川に興味は持っていなかった。ほとんどのクラスメイトは、カースト上位カップルの2人の話に夢中だった。


「例えば、名前で呼び合うとかいいんじゃない?」


 そんな白川の提案に僕は、


「いいね、恋人ぽい」


 かなり、ノリノリだった。


「それじゃあ、さっそくやってみましょう。……り、陸斗」


 白川は、そうやって僕の名前を呼んだあと頬を紅く染めてそっぽを向いた。


「なに、照れてるんだよ」

「しょ、しょうがないでしょ、今まで男の子の名前を呼んだ事なんて一度もなかったんだから。ほら、あんたもやってみなさいよ、ほら」


 もう、名前呼びやめてるぞと思いながら僕は、白川の名前を呼ぼうとする。


「ち……ち……千香。意外と緊張するもんだな」

「ほーらー、あんたもそうでしょ!」


 白か……千香は嬉しそうにそう言った。


「ち、千香、君余裕ぶっこいてるけど僕の事、名前で呼んでないよね」


 千香は僕がそう言うと、


「うるさいわね、名前で呼べばいいんでしょ。バカ……陸斗」


 と顔を真っ赤にして教室に戻ってしまった。


 ☆


 放課後になったので、黒崎じゃなくて陸斗と作戦会議をしようと思っていたのだが、肝心の陸斗は、一目散に帰宅しようとしていた。私は、大慌てで陸斗を追いかけるが小柄でかつ運動などほとんどしてない私が、早歩きの陸斗に追いついたのは、陸斗が下駄箱で靴を履き変えた後だった。


「ハァハァ、待ちなさいよ。……り、陸斗」

「ち、千香、どうした?」


 私が、息を切らしながら陸斗の制服の裾を掴んで陸斗を止めると陸斗は驚いたような顔をした。


「り、陸斗、なんでそんな早いのよ」

「そりゃあ、帰宅タイムアタックをしていたからな!」


 とドヤ顔で言う陸斗、ちょっと気持ち悪い。


「なに、バカなことしてるの。話があるから、こっち来なさい」


 と私は陸斗を引っ張っていった。


「ち、千香、図書室て喋ったりしていいのか?」


 私は陸斗を引っ張って図書室まで連れてきた。


「ダメに決まってるじゃない。私が図書室で読書中に話し声でも聞こえた日には、殺意たっぷりで睨みつけているわよ」

「じゃあ、なんで僕と話すために図書室に来てるんだよ?」


 陸斗は不思議そうにした。


「学校のある日は毎日図書室に来る私が思うに、新1年生は部活の仮入部期間。そっちが忙しいから、ほとんど来ない。2、3年生は学校の端っこにある図書室まで、わざわざ読書で来る人間は去年は私以外いなかったから来ない。勉強で使うのは、テスト前だけ。受験前の3年生が使い出すのは、夏以降だから、この時期は誰も来ないわよ」


 と私が一息で話すと、陸斗はなぜか少し引いていた。


「なによ?」


 私は陸斗をジトーと見つめた。


「いや、詳しいんだなと思って」


 陸斗はちょっと後ずさりながらそう言った。


「そうね、自分と同じくらい読書する友達が欲しか……なんでもないわよ」


 その時の陸斗の目は、どこか生温かかった。


「そうよ、計画の話よ。なんも打ち合わせも無しで、月曜日を迎えたら大変なことになるわよ」

「そ、そうだな」


 陸斗は、どこか腑抜けた顔でそう言った。


「り、陸斗が提案したんだから、放り出そうとしないでよ」

「ごめん、ちゃんと考える」


 こうして、作戦会議が始まった。


「うーん」

「ぬーん」


 1時間後、図書室には項垂れている私と陸斗の姿があった。


 恋愛経験がお互い一切ない同士の私達が、どうすればカップル達が羨ましいと思うくらいイチャつくなんてまったく分からずほとんど案は出なかった。


「ち、千香。なんか、いい案出たか?」


 机に突っ伏しながら、陸斗が聞いてくる。


「ダメ。全然思いつかないわ。り、陸斗は?」


 突然、陸斗がバンと机を叩きながら顔を急に上げた。


「壁ドンとか、いいんじゃない?」

「いや、ナシでしょ。あれは、フィクションでだから映えるんでしょ。現実でやっても寒いだけよ」

「そうだよなー」


 陸斗は、再び机に顔を突っ伏した。


 結局、それからめぼしいと思えるような案は一切でなく。下校時間を迎えてしまった。


 決まった事は、いくつかの準備をするために明日、都会の方まで行くことだけだった。


「り、陸斗。明日、9時に翠駅の時計台の前ね。さようなら」


 陸斗と県内最大の駅で待ち合わせの約束をして、私は帰ろうとする。


「ち、千香。あ、あのさ……ライン交換しない」


 と陸斗が少し顔を赤くしながら提案してきた。


「……ええ、いいわよ」


 私は、陸斗に余裕を見せようとしたが声が裏返ってしまった。


 こうして、私の連絡先に家族以外の人の名前が現れたのだった。


「また明日。ち、千香」

「ええ、また明日。り、陸斗」


 こうして、私達の偽の恋人初日は終了した。








 と思っていた。





「ねぇ、いつまで着いてくるのよ」

「仕方ないだろ駅、こっちなんだから」


「まさか、ち、千香も同じ方向の電車なのか」

「そうみたいね」


「ねぇ、り、陸斗。あなたもこの駅で降りるつもりなのかしら」

「ち、千香。お前もこの駅なのか?」

「そうよ」


 まさか、陸斗と最寄り駅が同じだとは、思っていなかった。


「さ、さすがに家の方向まで一緒じゃないわよね」

「だ、大丈夫だろ。せーので家の方向を指すぞ」

「「せーの!」」


 私と陸斗の指を指した方向は正反対だった。


「それじゃあ、今度こそ解散ね。また明日ね、り、陸斗」

「ああ、じゃあな。ち、千香」


 これで本当に偽の恋人初日は終了した。




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