人物紹介
この物語の主人公は、難儀な性格をしている。
彼は、人当たりが良く、冗談を言い、よく笑い、思いやりの癒し手として、他人から好ましく思われていた。
しかし、彼はいつも一人になりたいと思っていたし、一人になると決まって酷い自己嫌悪に苛まれ、その末に玲瓏な哲学に耽るのであった。
実のところ、彼は彼自身と、その周辺の人間について全く信用をしていなかった。
心の中では、そう思うことは「正しくない」という教科書めいた文言を認めると同時に、納得できる感性を持てない自分の異常性も自覚し、その狭間でもがき苦しんでいた。
激しい情動を抑えるために哲学をして自分を知ろうとした。
笑顔を振りまけば人は寄ってくる。思いやりを持って接すれば友達ができる。そう教科書には書いてあり、ただそれを無意識的に、みんなも当たり前だと思ってやっているのだと彼はそう考え、彼自身もそう行動した。
だから、彼の二面性とはつまり、教科書的な笑顔と、精神病めいた哲学的な内向だった。
欺瞞を剝ぎ取るを喜びとし、顔の裏では、いつも敵愾心と復讐心を燃やした。口角の上がった表情で隠しながら。
彼は嘘が嫌いだった。だから、自分に噓つきの烙印を押した。
彼は裏切られるのが嫌いだった。だから、最初から信用しないことにした。
彼はくだらないほど愚かな人間が嫌いだった。だから、自分の息の根をいつ止めるべきか考えた。
黒く染まった心には、愛情に溢れた言葉も、冷笑家の皮肉すらも届かない。
神はとっくの昔に死んでいたので、運命の女神も、命の糸を切るような真似はしないために彼はのうのうと生き伸びているにすぎない。
動けば死ぬ。
動かなくても死ぬ。
その言葉を反芻して、彼はきっかけを掴んだようだ……。