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治し屋  作者: 玖山李緒
2/5

第1話 鳴海ルカ

「最近ネットやSNSで密かに噂されているみたいなんだけど、病気や怪我を魔法みたいに治してしまう人が居るんだって!」

日高莉乃は目を輝かせて話してきた。

「それって都市伝説とか、新興宗教勧誘の類じゃないの?」

 僕は訝しみながら答えた。

「うーん……確かに眉唾な感じはするんだけど、噂にしては内容が具体的過ぎるんだよね」

「どういう事?」

「普通こういう噂は多様化していくものなの。つまり、尾ひれが付いて話が大きくなったり、ベースは同じだけどバリエーションが異なる内容に派生したりするんだよ」

「口裂け女の話みたいな感じかな?」

「そうそう。容姿やファッション、現れる場所や時間、後は弱点とかもあるかな」

「でもそれだけだと、単に大した内容の噂では無かったというだけじゃないの?」

 日高さんはこの問いに対し、人差し指と親指を顎に当てながら、名推理を行う探偵の如く考えを纏めていく。

「それなんだよね。この手の噂はある期間拡散して、その後次第に収束して行くんだよね。多分これは飽きるというのが原因だと思うんだけどこの『治し屋』に関してはその傾向が無いんだよ!爆発的に噂は拡大しないけれども、その噂が衰退もしないのっ!」

「それでもまだよくある話じゃないかな……」

 僕は弱々しく意見を述べるが、抵抗虚しく彼女は話を続けた。

「これらの噂が一つ二つだとそうなんだけど、不思議な話の割に具体的だったり、噂が殆ど多様化しなかったりという条件が重なると逆に真実味が出るんだよね。勿論デマや都市伝説、詐欺っていう説も捨てきれないけどね」

 高野さんの勢いに呑まれて話を聞いていたが、ふと肝心なことを思い出す。

「ごめん結局何が言いたいの?」

 高野さんの纏う空気が少し張り詰め、意を決した表情になり切り出した。

「『治し屋』の噂を調べていて信憑性が有るのではと思うようになったの。上城君の右目が見える可能性が有るのならそこへ飛び込んでみようと思う。幸いその場所もわりと近くみたいだから、これから行こうと思います!」

 決意を放出し終えた日高さんを見て唖然としてしまった。

「大丈夫、上城君には迷惑かけないから!」

 いやそれが迷惑だから……とは言えないか。

「分かった。でも一緒に行くのが条件!あと危険だと思えば全力で逃げるように!」

「うんっ!」

 日高さんは力強く頷いた。

 取り敢えず履き慣れたスニーカーに履き替えてから目的の地へ歩み始めようと、ささやかで僅かながらの算段を巡らした。


  ◆


 日高莉乃に連れられて訪れた場所は、大学から徒歩十五分とビックリする位に近かった。

「本当に近くなんだ……」

 ぽつりと心の声が漏れてしまう。

 そこには寂れた教会がひっそりと存在していた。

敷地は結構広く、ざっと見て百坪位はあるのではないだろうか。

入り口には鉄でできた門が、どうぞお入り下さいと言わんばかりに左右に開いている。

門から建物まで続く道は綺麗に手入れされており、現在進行形で人の手が入ってると表している。

建物自体は経年劣化により多少荒廃しているが、それがより不思議な魅力を醸し出しているように思えた。

 横から「ゴクッ!」と生唾を飲む音が聞こえたので日高さんを見ると、かなり緊張した表情で佇んでいた。

「……行こっか?」

「うっ、うん」

 日高さんは僕に同意を求めると、意を決したように先陣切って進み始めた。

 トントントン

 インターフォンやノッカーの類が見当たらないので扉をノックしてみたが返事が無い。

 仕方がないので恐る恐るドアを開けてみると、意外にも中は綺麗に整理されており空気も澄んでいた。

 内装はよくテレビや映画で見るような感じで、部屋の奥にキリスト像と十字架で飾られた祭壇があり、左右対称に同数の長椅子が十数セット配置されていた。

「すみませーん、誰かいませんか?」

 僕は気配無き空間に問いかけてみるが反応は無い。

「やっぱりあれはデマだったんだよ。まぁよくある話だったって事だね」

 日高さんは肩を落とし私に申し訳なさそうな顔をしていた。

「ごめんね変な事に付き合わせて」

「何言ってるの、僕の為に行動してくれたのに。これはこれで良い社会勉強になりましたよ、さぁ気を取り直して帰りましょうか!」

 扉の方に向かい帰ろうとした瞬間、後方の祭壇からそれは聞こえた。

「やぁこんにちは、君達はどなたかな?」

 祭壇の更に後ろから、涼やかであるのに蠱惑的な声が聞こえてきた。

 声に遅れて、ヌルッとそれがどこか気怠げに姿を現した。

 ステンドグラス越しに射し込む光のカーテンに照らされ、天使のような悪魔が私達を眺めながら微笑を浮かべて立っていた。

 それは背中の中程まで伸びた艶のある黒髪を携えていた。

 それは少し垂れ目気味のどこか憂いを帯びた黒い瞳

を携えていた。

 それはすーっと通った形の良い鼻を携えていた。

 それは気を抜くと吸い込まれてしまいそうなほのかに桃色の唇を携えていた。

 気付くと意識をそれに奪われており、はっとして他の情報を探る作業に入る。

 服装は、肩口が大きく開いた白のブラウスに、グレーのフレアスカート、足元には黒のショートブーツといった比較的シンプルな装いである。

 身長は175cm位であろうか、体型はやや細めではあるが出るとこは出ており、弱々しさは無くどちらかというと無駄が無く洗練された印象を受ける。

 それを見極めようとしていたつもりだったが、気付けば再び視線を奪われており、操られたかのように思わず言葉が出てしまった。

「あなたは何?」

 自分の発した言葉が遅れて耳に届き、何故そんな言葉を言ってしまったのかという事と、質問に質問で返してしまったと後悔する。

「『誰?』ではなく『何?』とは、君は面白い質問をするねぇ。私の名前は『鳴海ルカ(ナルミルカ)』、ここで『治し屋』を営んでいる者だ」

 彼女は意に介した風もなく微笑を崩さないまま答えた。

 そこでようやく我に帰った日高さんが言葉を続ける。

「私は日高莉乃で、彼は上城優。あなたに依頼したいことがあります」

「成る程、ご依頼の方でしたか。それはお迎えもせず申し訳ない」

「いえそんな事はいいんです。それより本当に治せるんですか?」

 日高さんは今にも掴みかからん勢いで問いをぶつけた。

「死んでさえいなければ、病気や怪我を治す事は可能だよ」

「ではお願いしますっ!」

 日高さんは必死に懇願したが、それを彼女が右手を挙げる事で一旦止めた。

「少し待ってくれるかな。うちには大切なルールが一つある、これを聞いた後にまだ依頼を希望するのならばその依頼引き受けよう」

「ルール?」

「そのルールとは、依頼内容の価値により代価として、依頼者にとって同等の大切なモノが失われるというものだ」

「???」

「そう例えば、お金がとても大切という人が居るとしよう。その人が対象者の傷を治して欲しいと依頼する。すると対象者の傷の具合によって依頼者のお金が減る事となる。その際に千円になるかも知れないし、百万円になるかもしれない。ただ代価はあくまで依頼者の持ち物に限られるので、百万円を持っていないのに無くなるといった事はなく、それに見合った金額が無くなるという訳だ。ただし、これはお金が大切な人の場合であって、もしかすると同等の傷を負うかもしれないし、大切にしている物や形のないモノが失われるかもしれない」

 彼女は更に不可解な話を進める。

「また『治す』には少し制約がある。最初にも言ったが死者蘇生は不可。あと、私はあくまで代理執行者と認識して欲しい、なので代価の選出や治した後のやり直しはできないから、よく考えてから決断するべきだね」

 内容がオカルトじみていて、いまいちピンとこない僕を他所に話は進んで行く。

「代理執行者?」

 日高さんは疑問を口にする。

「そうだな……ではハイテク機器を想像して貰えばいいだろう。普段使っているスマホだが、どういう仕組みで通話やインターネットを利用しているかな?」

「それは……」

 日高さんは言葉に詰まる。

「当たり前に使ってはいるが、それがどういう仕組みで、どういった部品を使っているかなんて案外知らないものだ。つまり『治す』という行為は、私専用のハイテクノロジーというわけだ。それを依頼者の要望に応じ代わりに行使する、つまり代理執行となる訳だ」

「報酬はどのくらいかかりますか?」

 現実的な話を日高さんは持ち出した。

「特には必要ないが、置いていく分には止めはしない。別段現在お金に困っている訳ではないからね」

 おいおいそんな旨い話あるのかよと、心の中で突っ込みを入れていると、おおよそ内容を納得した日高さんが、何かを決意した表情で彼女に切り出した。

「彼の、上城優の右目を治して下さい!」

 それまで話を聞いていた僕が、穏やかにそして諭すように日高さんに話しかける。

「ちょっと待って!こんな訳の分からない話を信じるの?仮に真実であっても日高さんの大切なモノを失ってしまうんだよ。それに現状僕は何も困っていない、むしろ十分すぎる程満足しているんだよ」

「ううん、構わない!私は上城君に助けられた。あの時助けて貰ってなかったら……今こうして生きていなかったかもしれない!」

 日高さんは目に涙を浮かべて、今まで抱えていた思いを語った。

「……これは私の我儘だから」

 清々しい笑顔を浮かべて彼に懇願した。

「もう一度正式に依頼します。上城優の右目を治して下さい!」

 この時僕は日高さんを止める事はできないと悟った。

「分かった、では依頼お受けしよう」

 彼女は、左手をすっと上げ日高さんにかざす。

契約(コントラクトス)

 すると突然彼女の黒い両目と、かざした左手が蒼い炎に彩られ幻想的な空間を創り出す。

 一瞬遅れて、僕の健在だった左目に燃える様な熱が走り視界を蒼に奪われる。

 それは時間にして一瞬であったと思うが、何十分にも永遠にも思えた。

 気が付くと、失った筈の右目でさっきまで嵌っていたはずの義眼を眺めていた。

「日高さん見えるよ!ほら日高さんのお陰でっ……」

 何かが変だ、違和感がとめどなく溢れている。

 僕の右目と義眼以外の、物理的な物は何ひとつ変わっていない。

「ここは何処ですか?あなたは……えーっと誰でしたっけ?」

 そこに日高莉乃はいる、がしかし何かが違う。

「日高さんっ……」

「私の名前を知ってるって事は大学の授業で会ったことがあるのかな?」

 ショックを隠し切れない僕を見越して彼女が話し始めた。

「意識はハッキリしているかい?体の痛むところは無いかい?」

 さも心配そうに話しかける。

「先程、助けを呼ぶ声が聞こえて表に出てみると、倒れている君を見つけた彼がいて、二人で協力してここまで連れてきて介抱していたところだったのだが、どうやらもう大丈夫なようだね」

 よくもまあそんな嘘がべらべら出てくるなと感心しながら話を合わすことにした。

「そっそうなんだよ。意識ははっきりしてるみたいだから大丈夫そうだね」

「うっうん」

「じゃまた大学で!」

 戸惑う日高さんをよそに無理やり門の外まで追い出しさよならを告げた。

「今までありがとう」

 日高さんが見えなくなるまで見送りながら感謝の言葉を口にした。

 ふと涙が再生された右目から流れている事に気付いた。

 経緯はどうであれ日高さんは僕の大切な大切な親友であったのだと知らしめられた。

 不意に後ろから声を掛けられ振り向いた。

「実に感動的だったね」

「感情のこもってない感想をどうもっ」

 嫌味ったらしく答えてやったが何のダメージも無いようだ。

「これがさっき言っていた代価なんですか?」

「ふぁ〜そのようだね。彼女の場合は君に対する思いや記憶がとても重要だったという事だろう」

 終わった事にはもう興味は無いと言わんばかりに、欠伸をしながら僕の問いに答えてくれたが、僕と視線が合った次の瞬間、新しい獲物を見つけた肉食獣の如く詰め寄ってきた。

「ふふふふっどうだい、君も試してみないかい?うーんそうだね、治す対象はさっきの彼女との関係なんてどうだろう?」

 どうも彼女が喋ると、ゲーテのファウストに登場するメフィストを連想してしまう。悪魔が魂を引き換えに願いを叶えましょうと言っているみたいだ。

「結構ですっ!そもそもこの流れだと、今度は僕が日高さんの事を忘れてしまうという可能性がある。そうなってしまうと、堂々巡りとなり、せっかくの想いも無駄にしてしまう。もう十分沢山のモノを貰ったから、それを汚すような行為は必要ないので、キッパリお断りさせて頂きます!」

 視線を彼女から離さないまま、自分の意思をしっかり踏み締めながら宣言する。

「成る程了解した。強要するつもりは無い、あくまでこれは提案なのでね」

 もう少し食いついてくると思っていたが、意外にも余裕の対応で肩透かしを喰らってしまう。

 その余裕の態度がイラッとしたので、意趣返しのつもりで別の話を切り出す。

「さっき左手をかざした時に、貴方の両目と左掌が蒼炎に彩られて見えたのですが、あれは一体何なんですか?まったく、お陰で僕にまで飛び火して視界が蒼に埋め尽くされて熱かったんですから」

 先程まで余裕な態度だった彼女が一変、両目を見開き驚嘆の表情を浮かべている。

 フリーズから再起動した彼女は、僕に質問を投げかける。

「君は上城優といったね?」

「はい」

「本当に蒼い炎が見えたのかい?」

「えっ、あれは他の人にも見えてたんじゃないんですか?」

「見えたのかい?」

 強い眼差しで念押ししてくるので、気圧された形で返事を返す。

「はっ、はい見えました……」

「……」

 態度が急変、細い顎に指を這わせ何かを考える仕草をとりながら、ぶつぶつと何か呟いている。

 うっすら聞こえてくるのは、「まさか」とか「そんな」とか「もしかして」など断片的なものばかり。

 辛抱強く待っていると、キラッという擬音が見えそうな表情となった彼女が話始める。

「上城優君!君うちで働かないかい?」

「は・い?」

 いやいや何故そうなる?この人頭大丈夫なのか?怖い怖いよ。

 ドン引き真っ只中の僕に、我意に返さずといった具合に話を続ける。

「前々から人員を欲していたが、なかなか見つからなくてね。特にこの力を目の当たりにして、自身の欲に溺れない心の持ち主はいなかった。そこに来て君が現れた、これはもう勧誘するしかないだろう。それにうちに来ればメリットも多い」

「メリットですか?」

「先ずは、私のような美人と長く一緒に居られる」

 思わず殺意が湧いてきた、確かに超が付く程の美人であるが、自分で言うと全て台無しである。

「どうだい見てごらん、スタイルだって中々のものだろう、自慢じゃないが胸だってGカップはあるよ」

 確かに服越しであるにも関わらず、胸のふくよかさが際立っている。僕も健全な男子、その誘惑につい負けそうになるが辛うじて踏み止まり言葉を切り返す。

「いや、貴方は馬鹿なのですか?それのどこがメリットになるんですかっ?」

「はははははは冗談だ!……半分は」

 何故そこでこんな完璧なるサムズアップなんだ、というか半分本気なのかよっ。

「では本題だ」

「マイペースかよっ!」

 思わず突っ込みを入れてしまった、僕のキャラ崩壊寸前である。

「君は大学生だったね?」

「そうです」

 諦めて素直に返答する事にする。

「今現在バイトはしているかい?」

「いいえ、いま探している最中です……」

「という事はつまり、お金が必要という訳だね(ニコッ)」

 くそっ!自ら墓穴を掘ってしまった。

「うちに来てくれるなら……」

 彼女は僕の耳元に顔を近づけて、囁くように金額を提示してきた。

「うっ……」

「ちなみに、学業を優先して貰っていい。その代わりできるだけここへ来て欲しい。肝心の仕事内容は、私の周りの世話を少々、依頼者が来た際の対応なんかもして貰うと助かる。どうだろうか?」

 確かに、仕事内容と貰える報酬を天秤にかけたら文句など無い。だが正直、自分の置かれた状況を考えると、そう贅沢は言っていられないので渋々決心する。

「分かりました……、これからお願いします」

「では契約(コントラクトス)完了だ!」

 本当に良かったのだろうかと、不安が全力で駆け巡るがもう流れに身を任せようと諦める。

「それでは改めて、私の名前は鳴海ルカ、ルカと呼んでくれて結構だ。君の事は優君と呼ぶ事にするが、何か問題はあるかい?」

「いいえ、問題ありませんルカさん」

「ではこれから宜しく頼むよ優君♡」


 あれよという間に何かが始まってしまったが、これから起こるであろう未知との遭遇に、期待で胸を膨らませながら、再生された右目の事を叔父夫婦にどうやって説明しようかと頭を抱える今日この頃です。


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