どちらが美味しいの?
広大なグ・エディン・ナは、原生林のど真ん中にあると言いますか。
森の木々に囲まれたちょっとした広場があります。広場と言っても小さな村くらいの、ちっぽけな場所ですけれどね。
そこにはアーダマー達が暮らす小さな家と田畑があります。
そこから西の方にしばらく歩くと、海岸に出ます。
創造神様と私が海に行く時に使っていた小径だったのですが、ちまちまと手を入れているうちに、街道っぽい造りになってしまいました。
途中に作った広場には丸太小屋もあるのです。
ここが神のために作られた、グ・エディン・ナに作った憩いの場……
……なのですが。
「ヘルマよ、これはどうした事じゃ」
創造神様が呆れるのも、仕方がありませんね。
この惨状を見て怒りださなかっただけ良しとしましょうか。
だって、食肉植物だったもののカケラとか、元は海洋生物だったものの何かとかが散乱していて。
ハヴァとリリートゥがとっくみ合いの喧嘩をしている最中なのです。
「見ての通りですよ。ハヴァとリリートゥが喧嘩しているだけですよ」
「お前は何をしているのじゃ。喧嘩など、早々に止めさせんか」
いーえ、無理ですね。
ここまで拗れてしまったら、とことんやるしかないでしょう。
それで生まれる『何か』があるかも知れませんし。
そういうわけで、私はただの傍観者です。
「というわけで、創造神様もどうですか?」
「何を呑気な事を…… とにかく仲裁が先であろう」
いやですよ。
せっかくカルキノスが美味しく上手に焼きあがったのです。
食べるタイミングを逸する訳にはいかないじゃないですか。
創造神様も遠慮なく……
「むう、これはこの辺りに住むカルキノスの王であるな」
「そうなのですか?」
「大きさを考えてみよ、あれほどの個体は他におるか?」
言われてみればその通りすね。
量産型というか、普通の個体は赤瓜くらいの大きさです。
それに比べて、これは軽自動車クラスですから。
でも甲羅が厚いですね。食べるところがあまり……
「普通のカニとて、4割もあれば良い方じゃ。こいつはもっと少なかろう」
でも、あの甲羅の厚さから考えると仕方がありませんかね。
なにしろ、私の手の幅よりもあるのですから。
よくもまあ、あれで地上であれだけの動きが出来たものです。
「あの2人の声が聞こえなくなったようだの」
「ちょっと様子を見に行ってきますね」
……わはは。
どちらも体力切れで動けなくなっています。
「判定、ドロー! ……運動が終わったら、食事にしましょうか」
鍋の中に放り込むのは、あたりに転がっているもので充分です。
テッポウユリは根の部分が美味しいし、栄養もあるのです。
食肉植物はきっちり毒抜きをして。
トゥゾイアは海に逃げ戻りましたか。あれはあんまり食べられる所が無いからどうでもいいや。とにかくカルキノスはメインの具材です。鍋の中身は、それぞれ山の幸、海の幸。そして両方を使ったものの3種類。
食べ比べてもらえば、私の言いたい事は分かってもらえるでしょう。
アダーマーは難を避けたつもりでしょうけれど、ちょっとだけ損をしたかも知れませんね。あとで何か……
「そろそろ終わった頃だっぺかね」
「……ずいぶんとゆっくり登場したものね、アーダマー」
「あれらが、ああなったら、変に近づかねー方が身のためだで」
そろそろ体力切れで動けなくなっている頃だと思って、迎えに来たのね。
ふふふふ。
それが出来れば上出来です。
食べ物を用意したから、皆で食べ比べてみなさい。
そして、私が何を言いたいか、少しで良いから考えてみてね。
今日の聖典
ある時、神は言われた。
私は山に住むもの、海に住むものを等しく作り出したが、あなた達はなぜ、
片方のものを嫌うのか。姿かたちを理由に、罪や穢れを定めてはならない。
神は天へと帰り、地上は夕となり、また朝となった。
神はエラー無しを見て、良しとされた。
カニ抜きのカニ鍋。野菜抜きの野菜鍋。全部入り。
あなたなら、どれを選びますか?(笑)
次回更新は2月25、26日の予定です。




