海の幸 vs 山の幸
食べもので生まれた争いは、食べ物で収めれば良いのでは。
たしかに、私はそう言いましたよ。
言いましたけれど……
「百合ちゃん、やっちゃいなさい!」
ぶどどどどど……
かかかかかんっ!
ハヴァの命令で…攻撃を始めたのはロギフロラ。
って、よくもまあ言う事を聞くまでに仕込んだものですが……
どちらにしても、あれは植物が出すような音ではありません。
腰くらいの高さの植物ですが、茎は私の太ももよりは太いですね。
全身にびっしり生えた細かいとげを使って動き回るだけでも厄介なのに。
「無駄無駄無駄だお! トゥゾイアの身体には通用しないんだお」
……とっても硬い種を勢いよく飛ばすのです。
そのスピードも音速の3割ともなれば、当たれば痛いでは済みません。
当たり所が良ければ、硬い木の幹にも食い込みますからねぇ。
でも、リリートゥのペット? には効かないようです。
「くっ、行きなさい、双葉ちゃん!」
「仲間を乱入させるのは卑怯だお!」
「なんとでも。1対1なんて誰も言っていなかったわよねぇ?」
双葉ちゃんって… セファロタスじゃないですか。
創造神様が最初に誂えてくれたメイド服を駄目したのも、こいつです。
これは食肉植物ですね。以前、私も食べられかけましたけれど……
朝顔の双葉のような大きな2枚貝のような葉のふちにあるトゲには、超がつくほどの強力な麻痺毒が仕込まれています。そうして動けなくなった獲物を葉っぱで挟み込んだら消化液を出して、ちるちると……
うぶぶぶぶ、やだやだやだ…… 思い出しちゃったじゃないのよぅ。
「しゃぎゃあああ」
思った通り、トゥゾイアの殻から煙が出ていますね。
かなり苦しそうという事は、消化液で殻に穴が開きましたね?
あ~あ、あれだけ大きな穴が開いているなら、中に消化液が流れ込みましたね。
早く海に返してあげないと……
「ポチ! トゥゾイアを助けるんだお!」
「MASH……」
のっそりと現れたのは、今やお馴染みのカルキノスです。
それにしても大きいです。軽自動車くらいはありそうですね。
「GYWM……」
大きなハサミを振り回しながら食肉植物に襲いかかると、あっという間にバラバラにしてしまいました。
普通サイズのカルキノスだって、ヤシの実くらいなら一発ですからね。
所詮は植物です。物理には弱いですね。
びきっ。
おおっと、ロギフロラの攻撃が当たりましたか。
硬い殻を持ったカルキノスですが、関節なんかは齢ですからね。
片方のハサミが…… どこかに隠しておいて、あとでゆっくりと… じゅる。
「GAAAA!」
おおっと、カルキノスも捨て身の攻撃ですか。
遠くから種を飛ばすロギフロラが、カルキノスの動きを止めるのが早いか。
それとも機敏に動き回るカルキノスが、ロギフロラにとりつくのが早いか。
「ポチ、頑張るんだお!」
「百合ちゃん、双葉ちゃんの仇をとって!」
んんんんん。
右に左にと、さかさかと場所を入れ替えながらの攻防戦が続いています。
おわ、あぶなっ!
「流れ弾が飛んでくるのは仕方がありませんかね」
玉のお肌にキズが付いたら大変です。
治癒魔法を使えば傷跡も残りませんけれど、身体に食い込んだ種子まではどうにもなりません。治癒魔法は生物体のエネルギーを活性化させる働きもありますから、身体の中で発芽でもした日には……
ちょっと……考えたくないです。
あの2人はどうするのかって?
まあ、どうにかするでしょう。
アダーマーもいる事ですから。
「そう言えばアダーマーはどこに行ったの?」
「畑で雑草取りをしてますけど」
仕事熱心で何よりですね…… と、いうか。
逃げたな?
父には、おかしなクセがあるというか、なんというか……
父:海の幸せ…… ふむ。
私:ひょっとしてまだ考えていたの?
父:反対語は…… 山の不幸…… つまり山岳遭難か。
私:やめれええええええ!




