人類史上最初の喧嘩
不穏な空気がグ・エディン・ナを支配しています。
ハヴァとリリートゥが仲たがいをしたのですが、こういう時はアダーマーは役に立ちませんね。
理由を聞いてみると、どっちもどっち… なのですけれど。
「なるほどのう。食べ物の問題は根深いからのぉ」
今日のオムライスは、ちょっと手が込んでいます。
いつも同じレシピで作るのにも飽きてきましたから、たまには変わったオムライスを作ってみたいというか。
そこで考え付いたのはオムライスの炒飯バージョン。
このレシピが確立した頃にはオムチャと呼ばれていたようですね。
豆を発酵させたものを使ったチャーハンの出来が、味を左右するようです。
ハヴァも面白がって手伝ってくたのは言うまでもありません。
「ヘルマの苦労は無駄ではなかったようじゃの」
良かった… どうやら創造神様は満足してもらえたようで。
発酵について、かなりの経験を積む事も出来ましたが、無駄にはならなかったようです。というより、発酵には無限の可能性がありそうです。
時間だけはありますから、極めて見るのも面白いかも知れませんね。
「で、グ・エディン・ナの問題は、いささか厄介であるのう…
ハヴァとリリートゥの仲たがいは何が原因なのじゃ」
「海の幸と山の幸問題です」
ハヴァは、海産物なんか無くても生活できると言います。
リリートゥが海産物にハマったのは、カルキノスの味を知っているからですね。
誰が最初に食べさせたのかは分かりませんけれど。
「うむむむむ…… どちらかを選べという問題じゃな」
ぶっちゃければ、そういう事になりますかね。
創造神様の名において、諍いを収めよと命じるのは簡単です。
でも、それで解決できるようなモノでもないでしょう。
お互いに、骨のズイから尊いと信じ込んでいるのですから。
この問題をこじらせると、どちらかが滅びるまで対立を続ける事になりかねません。そうなれば最後で最大の宗教戦争とも言われた30年戦争の再来です。
神聖ローマ帝国で発生したカトリックとプロテスタントの宗教戦争に端を発した小さな火事は、ヨーロッパ全体を巻き込む大規模な政治戦争となりました。
ヨーロッパの歴史の中で最も長く、最も破壊的な紛争の一つですね。
全面戦争の結果、ヨーロッパ全土が廃墟になる前に戦争が終わったのは、運が良かったの一言なのです。
でも、今回はハヴァとリリートゥしかいませんからね。
アダーマーは空気だし。
「うむ、あながち間違いではないな。それなら、このまま行き着く所まで……」
「えぇえええ? 創造神様って、そんな冷酷な神様だったので?」
創造神様の暗黒面が顔を出しましたね。
天地創造というのは、とても大変な作業です。
こればかりは経験しなければわからないでしょうね。
時には大胆に。その中には過剰なまでな繊細さが要求されるのです。
今回で4回目の天地創造ですが、そこまで至る前に何度も失敗を繰り返しているのです。でも、ようやく人類創造に成功したのですよ。
それなのに、あっさり捨て去るなんて……
創造神様の血は何色なんですかね!
「でも、ここまでこじれたら修復は容易ではないぞ」
「神様というのは、慈愛に満ちた存在だと思っていましたよ」
せっかく芽生えたかもしれない信仰心が、どうにかなりそうな気分です。
ねえねえ、創造神様。なにかイイアイデアはありませんかね。
「ぶっちゃけると5回目の天地創造が面倒なだけじゃろう?」
「……はい」
創造神様の権能と言うか、ほんの一部を借りることが出来るまでになりました。
だから、ある程度までは天地創造が出来るのですけれど……
それが、とってもメンドクサイとか、そういう背景も無いわけではありません。
……たぶんきっと絶対に。
ふたりともアダーマーの仲裁を受け入れませんし、私が下手に介入する訳にはいきません。
ヒトに対する神の介入は、方法を間違えれば致命傷となりかねないのです。
特に、ねじくりかえった螺旋階段よりも訳が分からなくなったこの状況では。
だから、創造神様。
何かいい方法はありませんかね。
今日の聖典
神は言われた。
海のものを嫌う者は幸いである。なぜならば海の幸はあなたのものである。
山のものを嫌う者は幸いである。なぜならば山の幸はあなたのものである。
互いを讃えあう心広き人は、幸いである。彼らは神を見るであろう。
ゆえに人を罪に定めてはならぬ。人をゆるせば、自分もゆるされるであろう。
その日にきたらば喜びおどれ。天においてあなたがたの受ける報いは大きい。
海の幸と山の幸は背中合わせの存在です。
父:海の幸の対語は…… ふむ。
私:どうしたのよ、シュークリーム片手に変な顔をして。
父:失礼な! 海の幸の対語を考えてただけだ!
私:シーフードの対語って…… そういえば何でしょうね。
次回更新は2月18、19日の予定です。




