山のものも美味しい
リリートゥが海の怪物を食べていたけど…
女神様が言うには、あれも食べることが出来るものだとか。
カルキノス、だったかしら。
「畑の作物を食い荒らすんですよね」
「んだな。棒でぶっ叩いても棒の方が壊れっかんなぁ」
畑に忍び込んだカルキノスはアダーマーが追い払ってくれるけど、とっても大変なのよ。長い棒で突いて、海岸まで追い払うのが精一杯。
道に大きな石で壁を作って、あいつらが歩きにくくしたけれど。
今度は私たちが海岸に出るのがね……
「しょうがあんめぇ。畑の作物を食い荒らされるよりはよがっぺ」
神様は言ってたわよ。
『全地のおもてにある種をもつすべての草と、種のある実を結ぶすべての木とをあなたがたに与える。これはあなたがたの食物となるであろう』
たしかにそうよね。
米の世話は大変だけど、私たちのお腹をいっぱいにしてくれる。
赤瓜やヤシの実の中身は甘くておいしいの。こういうものは他にも沢山あるわ。
でもね、赤瓜だけは用心しなくっちゃ。
「タコは赤瓜を狙ってるし」
海から来たものは、畑の作物を狙っているの。
特にタコ。女神様もお気に入りの大切な赤瓜を食い散らかすのよ。
あのぐにゃぐにゃした体は、アーダマーが思いっきり棒で叩いても堪えた様子もないし。
「しょーがあんめ。神様も言ってたべ」
『すなわち命あるものには、食物としてすべての青草を与える』って。
青草はね、別に食べてもかまわないのよ。
でも、草の実を食べるのは駄目でしょ?
神様は与えるなんて言ってはいないわよ。
だから、タコは赤瓜を食べちゃダメなの。
「でも海には甘めぇもんがねーべよ」
「そうなの?」
「海の水を舐めてみればわがっぺよ。すんげー塩辛い味がすっぺ」
薄めた海の水を使うと、ご飯も美味しくなるけど…
そのままでは、たしかに塩辛いわよね。
でも、タコって薄めていない海の水の中で暮らしているんでしょう?
変な生き物だと思うのは、私だけじゃないと思うのよ。
「そりゃあそうだけんどもよ……」
「あんな所で暮らさなくてはならないなんて、何か悪い事をしたからよ」
だから神様に怒られて、あんな所で暮らすようになったんだわ。
あんなぐにゃぐにゃの身体も、神様の罰を受けたからに違いないと思うの。
私たちは、そんな事は絶対にしないから。
って、どうしたの、リリートゥ…
「タコに喧嘩を売ったら、海の中に引きずり込まれそうになったんだお」
これもタコの仕業ですか! 赤瓜ばかりかリリートゥまでも。
リリートゥをどうにかしていいのは、私だけなんです。
それなのに、それなのに……
タコを許すまじ!
「アーダマーにだっこしてもらったら、身体が暖かくなってきたお」
「それは良かったわね」
さっきまでは身体の色も青白かったのですが、血の気が戻ってきたようです。
カチカチと歯を鳴らすくらいに震えていた身体も、今では落ち着いてきたようですね。
アーダマーに温めてもらったのが良かったのでしょう。
「じゃあ、私は米を煮てくるわね」
身体が暖かくなってきたら、元気になってきたようだけど。
だからと言って、弱った身体はすぐには戻らないのよ。
……仕方がないわね。
今日だけはアーダマーをひとり占めしても良いからね。
帰ってきた今日の聖典
神は創った人を連れて行ってグ・エディン・ナに置かれると、見て美しく、
食べるに良いすべての木を土からはえさせられた。
神はまた言われた、「わたしは全地のおもてにある種をもつすべての草と、
種のある実を結ぶすべての木とをあなたがたに与える。
これはあなたがたの食物となるであろう。そのようになった。
神はエラー無しを見て、良しとされた。
タコやイカなどは、体の大きさに比べて脳の割合が、かなり大きいそうです。
そのせいでしょうかね。タコは道具を使う事が出来るし、遊ぶ事も覚えます。
人に助けてもらったタコがお礼に来たなんて話もあるそうです。
その寿命は数年ですけれど、タコが長命ならば海洋の覇者になっていたかも。




