外典:果実をつける樹は
ヘルマです。
この前、コンピューターが暴走してからは色々とあったのですが……
とにかく天地創造のやり直しです。
「再々創造も、ここまでは順調に進んでいますね」
それでも、今のところは順調です。
前回は太陽の核融合反応に勢いがつき過ぎたのが原因で、いくつかの岩石惑星が上手にきれいに焼けてしまいました。不幸中の幸いとでも言えるのは、焼けたのは内惑星だけだという事。
外惑星系はすべてガス惑星。燃え移ったら大爆発ですからね。
けど、今回は大丈夫だと思いたいです。
「お、お、お……」
そっ、創造神様ったら、何を遊んで……
軌道に配置した残りの惑星を片付けていたのは知っていましたけれど、よりによって地球になんてモノをぶつけてくださりやがりましたかね。
「あああ…… せっかく作った巨ブナの森が……」
創造神様、台所から大きなざるを持ってくると、お気に入りのカウチにどっかりと腰を下ろした。
彼が左手に抱えている大きなザルには、かなり大きな木の実が入っている。
ザルからは、ほかほかと湯気が立ち上っているところを見ると、木の実を煮るか蒸すかをしていたのだろう。
「あの品種は却下じゃ」
ザルから取り出した木の実を掴み出すと、右手だけで器用に殻を割った。
ふわりと漂い始めたのは木の実の香りだろうか。
野球のボールほどもある大ぶりのドングリから漂うのは、どこかアーモンドを思わせるような甘い香りだ。
「いやいや、これはこれで悪くはないかも知れんかのぅ」
なんでですか?
ブナの実には栄養がぎっしり詰まっているのです。
次のサイクルで生まれた動物たちが、地上進出を果たした暁には……
ごん!
「あいたー」
「いきなり何をするんですかっ!」
ザルの中から取り出した木の実をぶつけてきましたよ。
ノーモーションで、先っぽの尖った所が私に当たるように。
おでこに穴でも開いたらどうするんですか。
「ヘルマも食べてみるがよい」
「へいへい……」
よっ…と。 けっこう固いですね。
ぐぬぬぬぬ・・…… こんなはずでは…
私の握力じゃ無理ですから、道具を持ってきますね。
この何でもかみ砕くトノサマバッタ人形なら……
ぱき。
ほうら、割れましたよ。
クルミよりは柔らかいと思います。多少、割るのにコツがが……
「!?」
ふわりと漂う香りが気にはなっていたのですが……
この匂いは… ちょっと拙いですかね。
いや、腐っているとかそういうのじゃなくて。
「なんじゃ、食べんのか」
創造神様は、どんな料理でも美味しく召し上がるでしょうけれど。
この匂いは危険な香りというヤツではないでしょうか。
本能がターボ全開で警告を出しています。
「まあ、食べずに済むなら、それが1番であるな」
椅子から静かに立ち上がった創造神は、そのままヘルマに近づいた。
ヘルマの手の中にある木の実を無言で抜き取ると、そのまま庭先に出て……
どぽん、と池の中に放り込みました。
「流石のそなたでも、腹のひとつも壊そうというものじゃ」
「え? え? え?」
寝室の扉が閉まるぱたん、という音を聞きながら、ヘルマは眼前の風景から目を離せないでいた。
ヘルマの視線の先にあったもの。それは、カルキノスの群れ。
それらは、すべて息絶えていた……
身近な所で毒性のある植物と言うと、毒キノコとか毒草ですかね。
中米には、ギネスブックが世界で1番危険な木と評した木があります。
雨の日に木から落ちた水滴が身体に付いただけで、ヤバい事になるとか……