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闇夜の転校生:Rebuild  作者: 飛鋭78式改
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第七話

 闇夜達がカスタムバイクで明治神宮の本殿前まで辿り着くと、そこには地獄絵図が待っていた。何人もの極桜会の兵士達が様々な場所に死屍累々と倒れており、木の枝に引っかかっている者までいた。

 闇夜達はひたすら倒れている兵士達に声をかけて回ったが、うめき声を上げるのがやっとの兵士がいるのがせいぜいであった。

 その中で闇夜はようやく少し話が出来る兵士を見つけた。

「どうした? 何があった?」

「……わからない……見えない敵が……鋭い……爪で……」

「鋭い爪だと!?」

 闇夜は猛烈に嫌な予感がした。

 その瞬間、兵士の背後に陽炎の様なものが現れ、その兵士は胸をカマキリの様な鋭い爪で胸を貫かれ、その兵士は鮮血を吐き出した。

闇夜は、陽炎の様なものが現れた瞬間に本能で危険を察知し、その場から離れたので難を逃れた。

極桜会の兵士を貫いた爪はブンブンと大きく左右に揺れたかと思うと、貫かれた兵士を勢いに任せて乱暴に引き抜いた。

引き抜かれた兵士は明治神宮の建物の壁にグシャっと叩きつけられ、そのまま血の跡が残った。あれではもう助からないだろう。

一方爪の方は、亜空間に飲み込まれるかのように消えてしまった。

「おいおいおい、まさか全滅ってわけはないだろうな?」

 闇夜は迫りくる恐怖と興奮のはざまで心理戦を繰り広げながら口にした。

「こちらアルファ。ブラボー、聞こえるか? ブラボー、誰かいね―のか? 誰か返事しろよ!」

「……」

「……」

「……」

「………………こちらブラボー。隊長の命令通り、半数は生き残っている。ただ、あとの半数は命令を無視して……いやその半分、つまり四分の一は不意をつかれてやられた。神殿内部に入ると奴に襲われて。逃げようとしても逃げられず隠れるのが精一杯で……」

「了解。これより敵勢力の排除にかかる。こちらは情報がほしい。敵勢力の規模は? 攻撃方法は? なんでもいい。とにかくわかることを教えてくれ」

「敵はおそらく一体のみ。ただ神出鬼没だ。こちらに出てきたと思ったら向こうにいたりする。おそらくこいつが例の『カースドーズ』とやらを使って呼び出したあやかしと思われる。しかも複数人のヘイフォス構成員によって制御されている。見ての通り、それくらい攻撃力が高い。あとの手の内は不明だ」

「そうか。わかった。とりあえず、安全なところに隠れていてくれ」


 本隊の生き残りのリーダーからの状況説明を聞いた闇夜はカスタムバイクのアクセルを開いて、5人が捕まっていると思われる本殿の入り口に相対する位置取りをした。あの見えない敵はそこを突破させまいとするはずなので、必ずそこに来ると察したからである。

 すると明治神宮の全方位からおぞましい声がカスタムバイクに乗る三人を取り囲んだ。

「クックック、月島闇夜の死に損ないじゃないか! 警告どおりじっとしてれば良いものを……」

 不意に名前を呼ばれた闇夜は度肝を抜かれた。

「何!? お前ら、なんでオレの名前を!? 『死に損ない』とはどういうことだ!?」

 するとまわりの木々を揺らしながら不気味な声が響き渡った。


「左足だけでは飽き足らず、せっかく生き延びたのにわざわざ殺されに来たのか!」


「!」


 その瞬間、闇夜には全てが氷解した。

「そうか……やっぱりお前か……ククク……ハーハッハッハッハッハ! おいスケキヨ、聞いたよな? オレがこの時をどれだけ待ちわびたことか!」

「あんや、こいつってもしかして?」

 スケキヨはもう既に状況をわかっているようだった。

「そうだよ、スケキヨ! こいつだよ!」

 闇夜は普段まわりに見せたことがない程ハイになっていた。

「闇夜、何? どういうこと? わけがわかんないよ!」

 裕子が怪訝そうに闇夜に尋ねた。

「おいお前、えーと、名前は……名前はなんでもいいや。これからお前をぶちのめしてミンチにして燃やしてこの世に何も残らないようにしてやるわけだが、ちょいとばかし、昔話をする時間をくれないか?」

 闇夜は見えない声の主に呼びかけた。

「ハハハ……冥土の土産といったところだが……まあいいだろう。せいぜい吠えるがいい」

 闇夜は興奮状態だったが、裕子に可能な限り冷静を装って話しだした。

「裕子、これはスケキヨやおやっさんはうんざりするほど知ってる話なんだ。あのさあ、裕子はいいやつだよ。だって一度もオレの左足のこと聞かねえんだもん。気を使ってくれてたんだろうな。でもそんなことはもうしなくていいんだぜ?」

「闇夜の動かない左足に関係する話なの?」

「そうさ! オレの両親はな、科学者だったんだよ。父親が日本人、母親がノルウェー人。それで二人で共同研究していたわけなんだが、世界で初めて『念』や『呪い』の瘴気を除染するシステムの構築に成功したんだ。ところがな、『念』や『呪い』といったもので利権を得ている奴らってのもいたんだ。兵器で儲ける死の商人さ。聞くところによると、『念』や『呪い』を兵器に転用する計画があるらしいんだ。そいつらにとっちゃあ、『呪い』ってのはうなるほど金を作ってくれるエネルギー源だったわけさ。その性質上、核に似ているのだが、兵士が持つ戦術的兵器から、ABC兵器を凌ぐ戦略的兵器まで応用ができるとのことだ。でもそういう連中にとってはオレの両親は目の上のたんこぶだ。だから奴らはオレたち家族を呪いで消しにかかった。そのときにオレの左足は傷を負って使い物にならなくなっちまったんだ。オレは生き延びたからまだ良かったが、オヤジやおふくろは助からなかった。」

「なんてことを……」

 裕子は他人事とは思えないように悲しそうな顔をした。

「それを実行したのがこいつらだったんだよ!」

 闇夜は敵が見えなかったので天を指した。

「考えてみれば『カースドーズ』なんて呪いの軍事転用の第一歩とも言えるから妙にうなずける話だし、あのカマキリの鎌みたいな爪を見た時デジャヴュを感じたんだよな、オレたち家族を襲ったやつだって。オレはずっとオヤジとおふくろの仇を探し続けたさ。でもそれをやっつける手段として『呪い』を利用する仕事についちまったってのは皮肉な話さ。おれはおやっさんに拾われて来る日も来る日も修行したさ。オレの両親の仇、そしてオレの左足をダメにしたやつをぶち殺すためにな!」

「あの藤原さんって方とはどういうつながりがあるの?」

「うちの両親が殺されたのはオレが5歳のときだったんだけど、その頃からオヤジ代わりに面倒見てもらってた。オレのオヤジの弟子とか言ってたな。オレもよくわかんねーんだ。聞いても話はぐらかされて教えてくれねーし」

「『呪い』のクリーン化はもう無理ってことなの?」

「さあな。オレの両親のライバルの研究チームがそれに成功したとか言う話をちらっと聞いたことがあるが、『カースドーズ』なんてものが出回ってるのを聞く限り、中途半端なものな気がするな」

 闇夜は一通り自分の生い立ちを喋ったが、怒りで腸が煮えくり返っているのは相変わらずだった。

「そして! 警告ってのは、あの釘バット男の件だよな? 関係ない人間まで呪術をつかあって巻き込んでつくづくきたねぇ野郎だぜ。そういう手合には容赦しないって決めてるんだよ、オレは」

 闇夜が啖呵を切った。

すると境内全体全体から声が聞こえてきた。

「貴様はゴキブリが部屋に出てきても安心して眠れるタイプの人間なんだな?」

 闇夜はその言葉に奥歯をギリギリと噛んで堪えた。

「おっとっとっと。おしゃべりが過ぎたようだな。そろそろてめえぶっ潰してやる。お偉いさんからはてめえには聞きたいことがたくさんから生け捕りにしろと言われてっけど、あいにく今のオレにはそんな冷静さは残っちゃいないからどうなるかわからないからな、覚悟しとけよ? スケキヨ、運転代わってくれ」

「わ、わかったよ!」

 スケキヨは改めて闇夜の怒りの重さに圧倒され、素直に言うことを聞くしか選択肢が見つからなかった。

「スケキヨちゃん、バイク運転できるの?」

「へん! あたりきしゃりき、車引きよ! あんやほどじゃないけど、あんやが攻撃に集中できるくらいには運転できるのさ!」

「そういうことだ。よし、スケキヨ、本殿に向かって突撃だ! 道満・晴明(ドーマンセーマン)!」

 闇夜が先程のミニガンと化した杖を左手に抱え、右手の人差し指と中指で五芒星を描きながらそう唱えると、二本の高出力レーザーブレードと化した。明治神宮内は広いといえど、本殿に5人が捕まっていることを考えると飛び道具は得策ではないということを鑑みての武器の選択である。

 そして闇夜達が乗っているカスタムバイクは本殿に向かって突撃していった。闇夜、裕子ともに臨戦態勢をとった。

 もう少しで賽銭箱というところで、案の定、先程のように巨大な何かの生き物のようなものの陽炎が見えた。そして亜空間から爪が出現して闇夜達を襲った。

 しかし、これはもう予想されていた攻撃だったので、すぐに彼らはこの爪の攻撃をよけ、先程の陽炎が見えた位置に攻撃を仕掛けた。

「やったか!?」

 しかし、どうも手応えがない。

「どういうこと?」

「光学迷彩のような技術を使っていて、攻撃時のみ爪が見えているだけだと思っていたんだがどうも違うようだ」

 スケキヨは賽銭箱へ続く階段の直前でアクセルターンをかけて、反対方向を向いた。辺りは水素バイクの効果音しかない。

「スケキヨ、大丈夫か? あとどれくらい耐えられる?」

 スケキヨの体には紫色に光るひび割れができている。

「伝七親分が付けてくれた瘴気キャパシターがあるからかなり持つよ。まだ僕の体に負担は溜まってない。ちょっとまわりの音がよくわからないから、エンジン音切るね」

 スケキヨがエンジン音を切ると、辺りは全く音がしなくなった。その静けさは異様で、見えない敵と戦う恐怖を煽るにはぴったりなシチュエーションであった。

 裕子は、この静寂の中耳をそばだてた。あの鋭く大きな爪が襲ってくるとしたら、完全な無音で、ということは不可能だと思ったからである。

 しばらくすると、裕子の8時方向に粘液がニチャニチャと音を立てているのが耳に入ってきた。

「8時方向!」

 その声に闇夜とスケキヨも反応して8時方向を見た。するとその瞬間、亜空間より鋭い爪が振り下ろされたので、スケキヨはすぐにバイクを発進させて、事なきを得た。

 その瞬間、闇夜は謎が溶けた。

「次元だ」

「え?」

「やつは4次元にいて、3次元空間を飛び越えてる。」

「なるほど、そういうことね!」

「3次元空間にいるオレたち人間が、二次元平面上の2点、例えば正方形の折り紙を2つに折ることによって、2つの頂点をショートカットしてくっつけることができるということを考えてみれば、4次元以上の世界では3次元空間をショートカットできるはず。こいつはそういう能力を持っているのかもしれない」

「でもそれがわかったからって、どうしようもないじゃない」

「いや、本体はどこかに隠れているはずなんだ。だからそれを引っ張り出す」

「どうやって?」

「どうしよう? そこまで考えてなかった」

「バカ!」

「なにアホみたいな夫婦漫才やってんのさ。あんやなら知ってるでしょ? 呪い返しの法則」

「あ、それがあったか!」

「なに? その『呪い返しの法則』って?」

「『呪い』ってのは現実では不可能なこともできるけど、リスクが大きいんだ。呪いの現場を見られたら、『呪い返し』といって、その呪いが自分に返ってきたりする。で、『呪い』で呼び出したあやかしが、もし一部切り取られたら、その切り取られた部分を回収しないかぎり、呼び出したやつが死ぬことになっているんだ。これも『呪い返し』。だから、こいつの爪を切り取ったら何が何で爪を取り返しにかかるはずだ。もし取り返しにかかるとなると、こんななまっちょろい方法じゃなくて本体を見せて全力で取り返しにかかるはずだ。その時が狙い目だ」

「でも、どうやってこいつの爪攻撃に対抗するのよ?」

「でもとかどうしてとかうるさい女ね。少しは自分で考えなさいよ。こいつが攻撃してくるのはぼくたちだけでしょ? だからあんたとあんやが背中合わせになって、お互い180度ずつ受け持って爪が現れたら叩き切る、って作戦にすればいいでしょ? ねー、あんや?」

「そういうことだ、スケキヨ」

「いちいちムカつくつるぺたっ子ねえ。わかったわよ!」

「つるぺた……! ……カチーン!」

「こら! こんな時にケンカするな! 行くぞ」

 この緊張状態でいつものバカなケンカが始まってはかなわんと思い、早々とその種火を鎮火させた。このケンカを止めるのも板についてきた感じで闇夜はそれが逆に情けなかった。

「オホン! もう戦い再開していいかな?」

 例のあやかしはどうやら待っていてくれていたようである。

「あれ? 待っててくれたんすか? 律儀っすねー。でもオレの怒りは収まりませんよ? 戦い、再開してください」

 闇夜と裕子は先程のスケキヨの作戦通り陣取った。あの作戦を実行するには下手に動かない方が良いので、スケキヨは運転を止め、闇夜のバックアップにまわった。

「どっちから来るのか?」

 闇夜と裕子は身じろぎもせず、ただひたすら音を感じる耳や、体や気配を感じる肌の感覚を研ぎ澄ませ、首から上だけを動かした。

 そして次の瞬間動いたのは闇夜だった。

「そこだ!」

 闇夜の頭を狙うがごとく、真上の亜空間の隙間から出た直後の鋭い爪を、闇夜は青白く輝くレーザーブレードが火花を散らしながら根本から切り落とした。そしてその切り口からは青黒い体液が流れ落ちてきた。そしてすぐにその亜空間の扉が閉まった。

 すると神宮の森全体から地を揺らすような禍々しい声が響き渡った。

「貴様ぁあああぁぁぁあああ。この死に損ないのくせにィィィぃいいいいいい。よくも俺に! 俺の爪を切り取りやがったなぁぁぁああぁあ!?」

 闇夜達はバイクから降りた。

「どうだ? これから死にゆく気分は?」

「貴様ぁ! 貴様貴様貴様貴様!! 貴様なに調子に乗ってるんだ!? 貴様など『カースドーズ』を使った我々からしたら路傍の石同然だぞ!? これから貴様のはらわたを引きずり出して貴様の肉を切り刻んでソーセージを作ってやる!!」

「おう、予想道理下品だな。それになかなかの猟奇趣味だ。それなら早く出てこいよ。こんなチンケな爪じゃあオレたちは倒せねーぞ?」

 次の瞬間闇夜の後ろに亜空間の扉が開き、例の鋭い爪が襲った。

 しかしそれは闇夜も裕子も察知しており、闇夜のレーザーブレードと裕子の青白い炎をまとった木刀でその爪も叩き折った。

「ギャー!!!!!!」

「お前は動物か? 言ったろ? 『こんなチンケな爪じゃあオレたちは倒せねー』って。一回の失敗で学べよ。そんなこと犬だってできるぞ? ほら、早く出てこいよ」

 闇夜はそのあやかしを精神的にも肉体的にも追い詰め、挑発していった。

 すると、5人が捕まっていると思しき本殿の目の前に陽炎が現れたかと思うと、他次元にいたと思しきそのあやかしはいよいよ本体をあらわにした。

 その姿は非常に巨大で、頭は象のようで、ヒンズー教のガネーシャの外見に近いものがあったが、首から下はハエのようで羽根が二枚あり、足が六本ありその先に爪が付いていていて、胴体が非常に大きかった。合成動物(カイメーラ)型のあやかしではあるが、非常に禍々しい。爪は既に二本折ってあるので残りは四本である。

 地面に降りていた象バエは羽根を高速で動かして、宙に浮かんだ。ハエのようにその位置取りはランダムで、微妙に上下左右に動いていた。

「クソ! あいつ、また本殿を背にしてるから飛び道具がつかえねー」

「それだったらあたしが近い事ができるわ。ちょっと時間がかかるからあいつの相手してて」

「了解」

 裕子は手印を結び聞こえるか聞こえない程度の声でひたすら呪文を繰り返し唱え始めた。そして次第にトランス状態に入っていった。

 すると、その象バエはなんの攻撃モーションもなく残った4本の爪の先端からいきなりレーザー光線を放った。

 その攻撃範囲は狭かったが、あまりにも突然だったので、裕子とスケキヨには当たらなかったものの、闇夜は左肩と脇腹に食らってしまった。

「クッ……畜生!」

 闇夜は苦悶の表情を浮かべた。左肩はまだしも、左の脇腹の傷が堪えたらしく、手で抑えた。

 すぐにスケキヨが布袋から新しい花を闇夜に投げてやり、傷を塞ぐ呪文を唱えだしたが、一人の力では傷が深すぎて傷の広がる速度に追いつけない。

「ヒヒヒ。脇腹は致命傷か? あんだけ吠えてたのに残念だったな! おまえ、つくづく左側にはツイてないみたいだな。おまえ、そんなに左側に縁がないんだったら、左腕と左足切り取ってやろうか? まあこれから死ぬやつがツイてるだのツイてないだの気にしてもしょうがないだろうな。」

「い……言ったろ? ……」

 闇夜は苦悶で顔を歪め、脂汗を流しながらも強がった。

「なんだって?」

「そ……そんな……つ、爪じゃ……オ、オレた……ちは倒せねー……ってな……」

「ハ、ハハハハハ! そんな状態でまだ強がってるのかよ? 俺はそういうイキガッてるガキが大嫌いなんだよ! 次にお前の脳天に撃ち込んで即死させてやろうと思ってたけど、やめたわ。可能な限り苦しんで死んでもらおう!」

 すると、その象バエはまた、爪からレーザーを発射し、闇夜の体を貫通させた。

「ぐわーー!!!!」

「ハハハハ、どうだ? なぶり殺されていく気持ちは? こうやって俺たちや、俺たちの先祖は迫害されてきたんだぞ。まあおまえがやってきたことじゃねーがな! まあそういう奴らに肩入れしている時点で同罪だな。ハハハハ」

「お……お前……」

「なんだ? もうお前がイキガッてるセリフは聞き飽きたぞ?」

「お前……オレの……相手だけしてて……いいの……かよ?」

「あぁ?」

 その時、裕子の呪文詠唱が終わった。

「龍よきたれ!!」

 裕子が地面に向かって掌底を向けると、手のひらから紫色の炎が放たれ、地面に潜っていった。するととてつもない地震が起こった。

 そして、地面が波打ち、その波が裕子のところから、象バエの方に向かった。

 そしてしばらくすると、象バエの飛んでいる真下から、小さな龍のようなエネルギーの波が真上に向かって四筋昇っていった。そのエネルギー波は象バエの左の爪、右の爪、左の羽根、右の羽根をそれぞれごっそり削って飛んでいってしまった。

 羽根を失った象バエはコテンと地面に転がり、爪も全て無くし、身動きが取れなくなってしまった。

「ギ」

 裕子はすぐに闇夜のところまで行きスケキヨとともに闇夜の傷の回復を手伝った。脇腹の致命傷で、麻のローブは真っ赤になっていたが、裕子によって強力にブーストされたスケキヨの回復呪術で、闇夜の傷は、体中にできた傷も含め、すぐに回復した。

「畜生。畜生。畜生。畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生!!!!!!!!! せっかく『カースドーズ』を使ってまでして追い詰めたのに! お前らガキに何がわかるんだ!? 今まで迫害されてきた民族の気持ちが!」

 象バエはただひたすら寝転がってジタバタして恨み言を口走っていた。

 そこへすっかり回復した闇夜がやってきた。

「あー、わからんね。俺にわかること、って言ったら、5歳という幼いときに左足の自由をもぎ取られ、父親も母親も家畜みたいにぶち殺されて、それ以来、国に保護され、その国に強制的にいろんな呪術や魔法の修行をさせられ、友達も作れず、その目的を仇討ちのためというふうに無理やり自分で納得させて我慢してきたやつの気持ちだけだな」

 闇夜はとうとうと他人事のように語った。

「ひぃ」

 その時、象バエは余りの恐怖に他次元に移動しようとして部分的に半透明になったが、素早く闇夜はレーザーブレードを象バエの体に突き立てた。

「ぎゃーー!!!」

「そして今! その時が! やってきたんだから……」

 闇夜はレーザーブレードを両手に構え、地面に転がる象バエを見下ろした。

「よ!!!!」

「あばばっばばばばばばっっばばあっっばばあばっばばあああががっはっ!!!!!!」

 闇夜はとにかくレーザーブレードを象バエの体に突き立てた。突いては抜いて突いては抜いて。突いてそのまま動かしたりもした。生きているとか死んでいるとかはもはや彼にはどうでも良くなっていた。さきほど彼が言っていた通り、ミンチにしていた。

「道満・晴明(ドーマンセーマン)!」

 彼がそう唱えると、レーザーブレードは火炎放射器へと変化した。

 闇夜はそこにあった肉片を火炎放射器で燃やし尽くした。

 どの工程からだったか彼は覚えていなかったが、闇夜は泣いていた。泣きながら親の仇を処理していた。見てたスケキヨと裕子は辛かったが、もう十分だ、と止めることができなかった。

 灰にしたあたりで気が済んだのか、闇夜はインカムに話しかけた。

「こちらアルファ。ブラボーチーム、聞こえるか? 敵勢力の殲滅に成功。繰り返す。敵勢力の殲滅に成功。ポイントエコークリア。オーヴァー」

「……」

「……」

「……こちら本隊。了解した。これより人質の確保に取り掛かる」

「隊長」

「なんだ?」

「お疲れ様です」

「ありがとう」

 闇夜は、象バエの残骸をこれ以上見るのは嫌だったので、カスタムバイクのところまでヨロヨロと歩いていき、バイクのサイドカーにもたれる形で地面に座り込んだ。

「あー、つかれたー。なんか美味いもん食いて―な」

「あんや、おつかれ」

「おー、スケキヨ。お前がいなかったら死んでたところだぜ。よくやってくれたな」

 闇夜はスケキヨの頭をなでてやった。するとスケキヨは猫のように喉をゴロゴロ鳴らした。

「闇夜、がんばったね」

「裕子、裕子があんなことできるとは思いもしなかったぞ。あれは反則技だろ。アレがなけりゃオレたち負けてたぞ。感謝してるよ」

 闇夜は裕子の頭をポンポンと軽くなでてやった。すると裕子は顔を赤らめた。

「そ、そういうことは人を選んでやりなよ。勘違いしちゃうよ?」

「?」

 闇夜には裕子の言っていることがよくわからなかった。

「それに、言ったでしょ?」

「何が?」

「『お荷物なんて思わないで』ってね」

「バカヤロ。最初からそのつもりなんてねーよ」

 闇夜と裕子はお互いに拳を突き合わせた。

しかし、これで任務が終わりだと思うと、闇夜は非常に複雑な気持ちになっていた。裕子の処遇についてどう決着をつければいいのか?

 裕子のことを友達と言ってしまった手前、問題はとても込み入ったことになってしまったのである。

 裕子にしても、これで闇夜が任務を全うできて、それのお手伝いができた、と言うのは喜ばしいし、誇らしいとは思っていたけれど、闇夜からは任務が終われば転校する、ということは聞いていたのでとても複雑な気持ちでいた。

「闇夜」

「なんだ?」

「転校しても、会えるよね?」

「……そうだな」

「……」

 ブラボーチームが神殿内に到着すると、本殿の二階に数十人の人の抜け殻が横たわっているのを発見した。おそらくそれは『カースドーズ』を使ったヘイフォスの成れの果てだろう。

闇夜と裕子の思惑とは全く関係なくに、明治神宮の境内にバタバタという音と下降気流が発生していた。ヘリが降りてくるサインだ。

 そのヘリには見覚えがあった。闇夜達がさっき極桜会のハンガーで見たものと同じだ。

 ヘリが境内に降りてきて、扉が開くと、そこからはさっきと同じ情景が目に飛び込んだ。

 藤原権兵衛がやってきたのである。

「おやっさん! 何やってんだよ! おせえよバカ! 二時間ドラマで崖の上の告白が終わって1時間45分あたりで来るパトカーかよ! もうほぼ全部解決しましたよ―。ヘイフォスの連中は殲滅して、あとは本隊が5人を確保するだけっすよ」

 闇夜はわざと中学生みたいな悪ノリした言い方で藤原を挑発した。

「おい! おまえ、ちゃんと捕まってる5人を確認したのか?」

 藤原は妙に慌てているようだった。

「いや。別に」

「バカはお前だ!!」

 闇夜は藤原のテンションに驚嘆した。

「ちょっとまずい事態になったかもしれない。俺の悪い予感が的中しなければいいのだが……」

 その時、明治神宮の入り口の方から大勢の人が来る気配がした。極桜会の本隊の人たちだった。

「藤原さん、本隊の奴らが来たから、5人がいるかわかるんじゃないっすか? 大体、5人は鍵を持ってて、それはなかなか取り外せるものじゃないって伊右衛門のじいさんが言っててそれでその鍵を探知してここを特定したんじゃないっすか? その鍵って何すか?」

「鍵の利用法は田宮氏にもう少し詳しく聞かんとわからんが、どうも手の甲に埋め込んであって、特殊な設備でなければ探知することができないレアアースでできたチップらしい」

 藤原はいつの間にか火を点けていたタバコを右手の指にはさみながら、自分の左手の甲を差して言った。

 極桜会の本隊の生き残りが到着しそのうちの半数が神殿内部に入り、残りは外で警戒にあたった。

 するとしばらくすると、妙な声が神殿内部から聞こえた。

「なんじゃあこりゃ!?」

 そして一人の兵士が神殿から外に出てきて叫んだ。手に何か持っている。

「隊長! ヘイフォスの亡骸はありますが人質がいません! その代わりこんなものが5つ置いてあります!」

 闇夜はその兵士が持っているものを見た。しかし小さくて、遠くから見てもわからないのでその兵士に近寄ってみた。するとその兵士の手には、更に別の人間の左の手のひらがあった。その手のひらはまだ血が滴り、暖かい新しいものだった

「おやっさん! 手のひらですよ! まだちょん切られて時間が余り経ってません!」

「あちゃー!」

 藤原は両手で頭を抱えた。


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