逢鬼 その一
投稿されている素敵な作品を読んでいるうちに、書きたくなりました。不勉強ですがよろしくお願いします。
GREEにて一度掲載したものを、修正して投稿しようと思います。
Twitterアカウントも作成しましたので、よろしくお願いします。
掲載のイメージイラストは、RIMAさんより頂いたものです。
戦があった。
それは長い歴史を持つ国の、百の鬼と人間達の戦いだった。
その戦は熾烈を極め、三日三晩続く。最後に残ったのは、侍の総大将「桧守 出雲」と、頭に九つの角を持ち、小山の如き体駆を誇る鬼の頭領「九角丸」だった。
人間は死闘の果てに勝利を納めた。
出雲が手にした霊刀は、九角丸の体を両断し魂を切り裂いた。そして、その場に鬼の体と魂魄を封印し、霊刀と共に鎮めた。しかし出雲はその直後に力尽き、この戦で生き残ったものはいなくなったのであった。
およそ、二百年前の事である――。
都から離れた山間にある、のどかで小さな村は、秋の収穫をあらかた終え、これから農閑期に入ろうとしていた。
まだ日は昇り始めたばかりだが、村のあちこちで村人が冬支度のために忙しなく働いている。
小高い丘の上にある、村で一番大きな屋敷の玄関から、少女のさわやかな声が響いた。
「いってきまーす! 日暮れ前には帰りますから」
見送りする中年の女性が、少女の肩に手をかけて言った。
「最近はこの辺りでも妖が出るって聞くから、暗くならないうちに帰るんだよ」
「ちょっとおばさんやめてよー! わたしが苦手なの知っているでしょ。もう!」
少女はむすりとして頬を膨らませるが、次の瞬間には朗らかな笑顔を見せた。
「大丈夫、今日は早く帰ってきます。だっておばさんの四十の歳祝いですもの。それじゃあ、いってきます!」
草履の紐を、ほどけないようにしっかりと結び、包みを背負って少女は屋敷を出た。
少女の名前は千里。歳は今年で十五を数えた。千里は幼い頃に両親を亡くし、子供がいなかった村のまとめ役夫婦の屋敷に引き取られた。
はつらつとした性格で気立てがよく、真面目に働くと村人からの評判は良い。
今日の仕事は山を二つ越えた先の隣村、その村に一包みの反物を届ける手伝いを頼まれたのだった。
千里は小さな村の真ん中を通り抜ける。
ついこないだまでは収穫作業で忙しく、久しぶりに村の外まで足を伸ばせるお使いは、楽しみの一つでもあった。
雲ひとつもないほど晴れ渡り、進む足は軽い。
道すがら山菜などがあれば採って帰り、夕食に出してもらおうなどと考えて、ついついほほが緩んだ。
まだ早朝だがちらほらと働く人が見え始め、いつも通りの挨拶を交わしながら村を後にした。
隣村までの道のりは、険しい山道ではないが、木が鬱蒼と生茂り朝日を遮る。
そのため薄暗く気味が悪いので千里はここを通るのがあまり好きではなかった。
村は都から遠く離れた片田舎にある。時々来る行商以外に、村を訪れるものはほとんどいない。そのため、誰かとすれ違う事もなければ、山道の途中にある休憩小屋を利用する者も少ない。
だが今日は珍しく小屋の前にある長椅子に寝ている者がいた。
男のようで、柄は派手だがあまり仕立ての良くない着物を身に着けていることから、おそらくは浪人だろうと千里は予想する。
それならば近づかない方が身のためと判断して、うつむき加減で少し足を速めた。
(めずらしい。こんな田舎に何の用かしら……)
横目に通り過ぎようとした千里に気が付き、寝ていた男は横になったまま、かすれた声で千里を呼び止めた。
「……おい、そこのわっぱ」
千里は一瞬体を強張らせ、ゆっくり振り向く。
「なんでしょう?」
男はやっとの様子で半身を起こして、千里に向き直り、伸びすぎてうまくまとまらない髪を手櫛で整えた。
「申し訳ないが――」
用件を言い終わる前に、腹の虫が盛大に鳴り響いた。
「何か食い物を分けてはもらえんだろうか?」
もはや虫ではなく、獣の唸りだった。
「呆れた……わたしが通らなかったら、あなた飢え死にしてたわよ?」
事情を聞いた千里は、椅子に腰掛ける。
背負っていた包みを解いて、中からおにぎりを一つ取り出し、男に分けてやった。
男は、それを受け取ると千里などそっちのけで、夢中になってかぶりつき、あっという間に食べ終わる。
千里の見立てでは、男の歳はおそらく二十の半ば。
少々派手すぎる柄の着物や、ボサボサで伸びたきりの髪で正直印象が悪い。だが目付きは柔らかく、朴訥とした雰囲気は、どこか憎めない男でもあった。
「うまいっ! 久しぶりだ、まともな飯は! 生き返った気分だ」
たかがおにぎり一つで大げさに感動し、千里はそれを見て呆れ顔をする。
男の話しによると、数日前までは山のさらに向こうの町にいたが、朝起きてふと思い立ち、山菜を取りに山に入ったらしい。
しかし、いきなり熊に出くわして逃げ回っているうちに帰り道を見失い、丸一日歩き続けてここまで来て、疲れ果ててここで寝てしまったのだという。
「助かった……。わっぱよ、お前は命の恩人だ。この通りしがない浪人風情なんで、なんにも礼はできねぇが……」
そう言いながら、男は残ったもう一つのおにぎりに手を伸ばそうとする。
「駄目! それはわたしの!」
それに気が付いた千里は男の手を叩いて、さっさと包みを結びなおした。
「それはすまんかった。それにしてもうまい握り飯じゃったなぁ」
「え? そ、そう? ありがと」
仕事は出来ても、料理が全く得意ではない千里は、おにぎりすらまともに作れない。
それをからかわれることはあっても、褒めてもらえることなど今までなかったため、男の言葉はとても嬉しいものだった。
「まるで鞠のような不細工な形じゃったが、これはこれで食いでがある」
「ちょっとあなた! 鞠とはなによ!」
千里は立ち上がってすごむ。
「おぉ、すまん。そう怒らないでくれ、悪気はないんじゃ。わしはただ正直な感想を……」
「あ! こんなゆっくりしてる場合じゃなかった! わたし急がなきゃならないの、町へは向こうへ行けば日が暮れる頃には着くと思うわ。じゃあね!」
千里は男を残し、小走りで小屋を後にした。
(あの人……また迷ったりしないわよね?)
長編ではありませんが、小分けにして連載作品として投稿します。およそ三万字ほどかと思われます。
完結まで読んでもらえたら嬉しいです。




