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第9話 ハモりの共感ダイナマイク

 また、です。


 以前、生のエネルギーの素である、チョコレートの風味に気が付かなかった・・・という事件が起き、「生のエネルギーと共鳴し始めてるのかも知れない」などと脅されて以来、内心、恐れていた事態が再来してしまいました。


 奇しくも・・・あの日と同じく、海老名先生の授業を受けている時。


 あの歌声が聴こえて来たのです。


 それは、私が知らない歌でした。


 初めは遥か遠くで歌っているようだったのに、次第に音が近付いて来て、椅子に・・・机に・・・教室全体に響いて行き、気が付いたら、教室に居た全員を眠らせていたのです。


 私を除いて。

 

 ・・・つまり、私は、「生のエネルギー」によって守られているわけです。


 「随分、理解が早いじゃないか。」


 例によって、白い悪魔が現れましたが・・・それどころでは無いのです。


 「チョコレートの風味に気が付かない=生のエネルギーと共鳴し始めている」という、仮説が確かならば・・・私はどうなってしまうのでしょうか。


 現在、被害に遭われている人々には申し訳ありませんが・・・暫く、気持ちを整理する時間が必要です。


 「事件現場が、音楽室でもかい?」


 ナズナの言葉の意味を理解するよりも速く、私は事件現場に向かっていました。


 何故なら、今、音楽室で堀先生の授業を受けているのは・・・!


 「ハルナちゃん!」


 一年二組だからです。


 他の生徒が眠っている事から、昨日と同じように、桔梗ちゃんは「生のエネルギー」によって守られている・・・という事が判ります。


 そして、今回の被害者が堀先生である・・・という事は、一目瞭然・・・と言うか、一聴瞭然でした。


 「堀先生が急に歌い出したんだよ!」


 何かに取り憑かれたように歌っています。


 まぁ・・・実際に、取り憑かれているのですが。


 桔梗ちゃんに地球を征服しようとしている宇宙人の被害が及んでいないのは喜ぶべき事なのですが・・・白い悪魔の魔の手から守る事は出来ていないので、複雑な気分です。


 桔梗ちゃんを出産少女にしようと企んでいるのかも知れませんが、そうは行きません。


 昨日と違って、鞄を持って来ているのです。


 堀先生を救出するべく、「エッグ・スクランブル」から「黄色いスピーカー」を取り出して・・・堀先生に話しかけました。


 しかし、です。


 堀先生は、一向に話を聞いてくれませんでした。


 「黄色いスピーカー」が効かないなんて・・・いえ、私は大変な間違いを犯していたのです。


 「ククク・・・何でもかんでも、『黄色いスピーカー』で解決できると思ったら、大間違いだよ。」


 「くっ・・・!」


 図星です。


 最近、「黄色いスピーカー」で事が足りていたから・・・とか、そういう言い訳は通用しません。


 文明の利器が有るからといって、操られた人々の人間性に目を向けず、流れ作業のように事件を解決しようとする・・・そんな人間の言葉が、人の心を動かせる筈が無いのです。


 厚顔です!


 無恥です!!


 痛恨の極みです!!!


 「ハルナちゃん!!大丈夫!?」


 ・・・そうです。


 気を確かに持たないと・・・堀先生を助けられないばかりでは無く、桔梗ちゃんが出産少女にされてしまうのです。

 

 「ナズナアプリ」を起動してみると、「出産の必要、アリ」と表示されています。


 「産め!産むんだハルナ!」


 「言われなくても産みます」と、白い悪魔に反論しようとした時、ナズナの背後に居る桔梗ちゃんの姿を見て、私は心を打たれてしまいました。


 彼女は、目を背けていたのです。


 私が出産少女であるという事実を知っても以前と同じように接してくれる桔梗ちゃんの寛大さに、出産しようとしている私から目を背けてくれている桔梗ちゃんの優しさに、昨日の今日なのに出産少女としての私がすべき事を理解してしまっている桔梗ちゃんの賢さに・・・私は、涙を流しながら卵を産みました。


 「『ハモりの共感ダイナマイク』・・・歌い続ける呪いに掛かってしまった被害者とハモれば、共感が得られ、被害者の負の感情は消滅する。」


 なるほど。


 負の感情が消滅するなら、喜ばしい事です・・・って、えぇ!?


 「歌は!歌だけは勘弁して下さい!」


 「そうかい?僕は、是非とも、君の歌声を聴いてみたいんだけどね。」


 相変わらず、顔は無表情ですが・・・声が笑っています。

  

 私の歌声を形容しなければならない時・・・誰もが、優しくオブラートに包むのです。


 その優しさは、私の傷を癒す事は無いのです。


 「自分が音痴だと解っているのなら、直せるのよ。」と、堀先生は仰っていましたが・・・。

 

 ・・・これは、いけません。


 私までもが、負の感情に呑まれそうになってしまいました。


 我に返らなければ成りません。


 「とりあえず、ハモればいいんだよね?」


 我に返るや否や、桔梗ちゃんが「ハモりの共感ダイナマイク」を手にしているじゃないですか!


 「駄目です!そんな物に触れたら!」と言う間も無く、桔梗ちゃんは歌い出してしまいました。


 そして、その歌声に魅了されました。


 素晴らしい歌唱力の持ち主である堀先生は、「巧く誤魔化してるけど、一部の天才以外は誰だって音痴なのよ。」とも、仰っていましたが・・・堀先生だけで無く、桔梗ちゃんの歌声も、その、一部の天才としか思えないようなものでした。


 「呪」という字は「祝」という字と似ている・・・という事を誰かが言っていて、「確かに、そうだけど・・・それがどうかしたのかな?」と思った事が有りましたが、堀先生と桔梗ちゃんによるハーモニーは、まさに、呪いの歌を祝いの歌に変えてしまったのです。


 全てが終わった時、二人に拍手を送っていました。


 ・・・まぁ、堀先生は気を失っているのですが。

 

 「いやぁ・・・ツイてたよ。知ってる歌で良かった。」


 なるほど。


 知らない歌なら・・・歌が巧くても、ハモれませんものね。


 私は存じ上げない歌だったので・・・どの道、桔梗ちゃんが居なければ、解決は不可能でした。


 「えっ!?ハルナちゃん、知らないの!?」


 言われてみれば、何処かで聴いたような・・・。


 「・・・懐メロ番組で・・・」


 「ハルナッ!!!」


 「ふぇっ!?」


 珍しく激昂したナズナが、ヒートアップしたまま言葉を続けます。


 「平成の・・・二十一世紀の名曲を、懐メロ扱いとは・・・!そんなんだから・・・そんなんだから、駄目なんだ・・・!」


 思いの外、新しい楽曲だったのですね・・・いや、そんな事よりも。


 「『駄目』とは何ですか!?『駄目』とは!!」


 歌を知らなかっただけで、人格否定までされる筋合いは無いでしょう?


 「そんなんだから、チョコレートの風味にも気が付かないんだよ!」


 「それは・・・どちらかと言えば、あなたのせいでしょう!?」・・・と返そうとすると、桔梗ちゃんが口を挟みました。

 

 「えっ?ハルナちゃんって、チョコレートの風味に気が付いてないの?」


 桔梗ちゃんが「生のエネルギーと共鳴」していない・・・という事実は、朗報と言えましょう。


 「そうなんだよ。授業に集中しちゃっているんだねぇ。」


 ・・・?


 「生のエネルギーと共鳴」というくだりは、桔梗ちゃんに伏せておく・・・という事なのでしょうか?


 ナズナにとって、何のメリットが有るのか。


 私が理解に苦しんでいると・・・。


 「『チョコレートの風味に気が付かないのは生のエネルギーと共鳴し始めているのかも』なんて脅したら、本気にしちゃってさぁ・・・。」


 ・・・!


 「・・・どういう事ですか!?」


 「どういう事も何も、そのままの意味だよ。」


 ・・・。


 「冗談が通じないねぇ・・・ハルナって。」


 ・・・確かに、あの時も授業に集中していました。


 「もっと、柔軟に成らないとね。」


 ・・・何故、説教を受ける流れに成っているのでしょうか。


 「『黄色いスピーカー』だって・・・アイテムの力でゴリ押しているだけで、君の言葉だけで共感を得てきたわけじゃないんだからね!勘違いしないでよね!」


 ・・・。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・コイツとは、一生、共感出来ないような気がします。

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