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第7話 七草同好会

 「・・・で、『七草同好会』って、なんなん?」


 尾花君が投げかけたのは、当然の疑問でした。


 桔梗ちゃんの「桔梗」、尾花君の「尾花」、萩原君の「萩」、芹澤の「芹」。


 「名前に七草が入っているという共通点を活かして、『七草同好会』と名付けよう。」と、提案したのは萩原君です・・・が、「七草同好会」とは、一体、どのような活動をする会なのでしょうか。


 「そんなん、どうだっていいじゃん。」


 「・・・そ、そうですよね!」


 桔梗ちゃんの一声に賛同した私を見て、萩原君は満面の笑みを浮かべました。


 「流石、女性陣は頭が柔らかいね・・・それに引き替え、隣のクラスの学級委員長さんときたら・・・。」


 「・・・またや、また悪者扱いや・・・。」


 一年二組の問題だからと桔梗ちゃんの件を背負い込んでいた尾花君は、いつもの調子を取り戻していました。


 もっと早く、私たちに相談してくれれば良かったのに。


 一人で背負い込もうとするのは、尾花君の悪い癖です。


 やっぱり、尾花君は頭が固いのかも・・・でも、今日の幸せは願っても無い事なのです。


 「盗聴心器」と「黄色いスピーカー」によって齎された、僥倖・・・偶然に得た幸せである事は、私も理解しています・・・が。


 「名前なんて、どうでも良いんだよ!」


 「・・・お、おう。」


 「四人で楽しく過ごす!!こんな幸せな事が在るか!?」


 「・・・せ、せやな。」


 「そんな事より、鯉に餌あげようぜ。」


 昨日は桔梗ちゃんのお宅にお邪魔したので、今日は誰の家で遊ぼうか・・・という話になり、「ハルナの家には大きな池が在って、錦鯉たちが泳いでるんだよ。」という萩原君の言葉に桔梗ちゃんが興味を示したのが、お昼休みの事です。


 「七草同好会」の提案は、その時でした。


 その時は納得していた筈の尾花君が、錦鯉に餌をあげようとしたタイミングで冒頭の言葉を発した為・・・錦鯉たちは、数分間、餌を待ち続ける破目になったのです。


 正直、「七草同好会」の詳細については、私も気になっていますが・・・。


 「それぇ」・・・と、水面に餌を投げ入れる桔梗ちゃんの愛くるしい姿を眺めているだけで、そんな事は些末な事であると断言できます。


 「あと三人くらい集めるん?」


 「お前は何を言っているんだ。」


 「『七草同好会』やからさぁ・・・『七』に拘るんやったら・・・」


 「要らねンだわ。」


 「・・・なんで、そんな真顔なん?冗談やんけ・・・。」


 「似非関西人よ、『七』なら君が居るじゃないか。」


 「えぇ・・・?」


 「おめでとう。」


 「・・・何が?」


 「尾花七之助君、『七草同好会・会長』就任、おめでとう。」


 「・・・いやいやいやいや、なんでやねん!」


 「全ての『七草同好会』におめでとう。」


 「・・・それ、わかれへんねん、俺。」


 二人のやり取りを見て、桔梗ちゃんが拍手しています。


 その意味は解りませんが、私は嬉しい気持ちになりました。


 昨日と同じように取るに足らない話をして・・・桔梗ちゃんが「会長」の似非関西弁に慣れた頃、「七草同好会」は、お開きとなり・・・ナズナが現れました。


 「秋一君は優しいねぇ・・・。」


 そんな解りきった事を言われましても。


 「ハルナの為に、『七草同好会』を作ろうだなんて・・・。」


 「・・・どういう意味ですか?」


 「解りきって無いじゃないか。」


 ・・・。


 「来週から、スイミングスクールが再開するだろう?」


 氷室先生事件の影響で、一部の設備が損壊してしまったのです・・・が、確かに、来週から営業再開の予定です。


 「君が・・・週三回、スイミングスクールに現を抜かしている間に、帰宅部の桔梗ちゃんは隣のクラスの子と仲良しになってしまうかも知れない。」


 現って・・・私は、真剣に水泳に取り組んでいるんですけどね。


 そもそも、桔梗ちゃんに友達が出来るなら・・・。


 「願ったり叶ったりじゃないですか?」


 「ハル『あたしと水泳、どっちが』・・・!?」


 ・・・!?


 「・・・・・・・・・。」


 虚空を見つめたまま、動かなくなってしまいました。

 

 「あの日ばかりは・・・君も、虚空を見つめたまま動かなくなっていたけどね。」


 ・・・ショッピングモールの件でしょうか。


 「『出産少女』にも慣れてきたようで、何よりだよ。」


 ・・・慣れたくて慣れたわけでは無いのですが。


 「しかし、我々、『七草同好会』の一員に似非関西人が居るという不祥事を放置してはならない。」


 「・・・ちょっと、待って下さい。」


 「生まれも育ちも埼玉なのに・・・」


 「それは、どうでも良いのです。」


 「『なんでやねん!』・・・!?」


 ・・・?


 「・・・・・・・・・。」


 また、です。


 今日は、本当におかしいです。


 「・・・ハルナが、かい?」


 明らかに、何かを誤魔化そうとしています。


 勿論、それで誤魔化される私ではありませんし、ナズナも解っているはず・・・と思っていると、


 「『桔梗』・・・『尾花』・・・『萩』・・・『芹』・・・そして、」


 想定していた展開になったので、間髪入れずに応戦します。


 「『ナズナ』を入れる気は無いですからね!」


 「ふっふっふっふ・・・そう、言っていられるのも、今のうちさ・・・」


 「どういう意味ですか?」


 「やがて『ナズナちゃ』・・・!」


 ・・・。


 「・・・・・・・・・。」


 三度目の長考に入ってしまいました。


 昨日までは無かった展開に狼狽えつつ、どんな言葉にも対応できるように備えていると、


 「・・・今日は、興が乗らぬ。さらばじゃ。」


 そんな言葉で消え去る始末。


 まるで、時代劇のような言葉を残して。


 ・・・一昨日と同じです。


 あの日、ナズナが躊躇った理由には、何か意味が有る筈です。


 そして・・・今日。


 三度、ナズナとは違う声が聴こえたような気がしたのですが・・・残念ながら、その声は明瞭ではありませんでした。


 ナズナは、何を誤魔化そうとしているのでしょうか。

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