試練
「東山は?東山は、 どこだよ。 今から金子と戦うって言うのによ」 「東山さんは山中さんのところにいったきり戻って来なくて」 「あの野郎何やってんだ」 俺はぎこちないまま試合を開始した。 「君が望くんだね。」 「あ?俺の事しってんのか?」 「ああ、 日向と君は山中さんが要注意人物って言っててね」 「ほーう。 それは光栄じゃねぇか。」
「山中さんが言った通りだ。 君達は ここまで勝ち上がった。 新人王戦では君達二人を警戒しなくちゃね。 特に日向は」
「そうか。 たが日向とは違って俺はそう甘くねぇぞ!」 俺は日向の怒りをこの試合に全力でぶつけた。 「大塚くん、 早い。 行ける。 倒せる」
「ほっほーお。 あの少年動きが格段によくなってる。 東山、 お前の動きが混ざってる。 どんな練習をしたんだ?」
「いや別に、 ただ私がやってきた練習をあの少年にやらしただけだ。 たが」 「ん?だがなんだ?彼はとても良い動きをしているぞ?」 「まだ経験不足でね。 あの勢いじゃあ」 「んー」
「おい、 日向見ろ。 前の動きと比にならねぇくらい成長してるぞ」 「…あんなに飛ばしてたら後半もたなくなる」
2時間後
「今日は残念だったな少年」 そう言って、俺に缶コーヒを手渡した。 「あの金子って奴全く攻撃が当たんなかった。 当たっても全く効いてる様子じゃなかった。」 「それは間違いだ。 少年、 お前は後先考えずに飛ばした。 相手はまだ体力があるのにな。
そして、 お前が疲れ動きが鈍くなった時相手はその隙を見逃さなかった。 疲れていればいるほど攻撃を喰らえばダメージは大きくなる。 まだ経験不足だな少年。」
そう言って、 帰っていった。 「コツん」 「おっとと」 東山はつまずいた。 「大丈夫かよ」
「ハハハ気にするな少年」 「ここは控え室ですよ。 出口はあちらです」 「ああ、 あっちか」 「本当に大丈夫かよ」 東山はアホだ。
「くっそー」 俺はそう言いながら倒れ込んだ。 あの野郎他の奴とは何かが違う。 あいつの対策しないと日向に勝つどころか日向と戦えねぇ。
ボクシングジム
「いやー、 今日は大塚って野郎の良い成長を見せてもらったぜぇ。」 「大塚くんは今まで頑張ってましたからね。」 高梨と奥寺さんが話ながらジムに戻ってきた。 「今日、 一杯どうだぁーん?」 「お、 大塚くん?」
俺は大会が終わってすぐにジムでイメージトレーニングをしていた。 誰が教えたわけでもなく。 「オメェ、 やる気満々じゃねぇか」
「大塚くん今日はもう疲れてますから。 寝たほうが」 「…」 「ハハハ。 あいつ聞こえてねぇぞ。」 「「大塚くん」 「良いじゃねぇか。 きっと日向も同じ用な事をいつもの公園でやってんだ。 あいつも負けてられねぇと思ってんだ。 高梨、 若い東山に似てんなぁ」
東山の家の近く。
東山は自分の家に帰ろうと道を歩いていた。 東山は何かに気づいた。 「ん?」 誰かがパンチの練習をしていた。 音だけはする。 よおく耳を澄ました。 「んー」 「東山何野○村みてぇな真似してんだ。」 声する方向に目を向けた。 そこには日向がいた。
「おー、 日向何をしている。 散歩か?」
「こんな格好で散歩なんかするわけないだろ。 トレーニングだ」 「そうか。 今日の金子の対策をしてるのか?」 「いや、 あんな奴は眼中にない」 「負けたのにか?」
「分かってるよ。」 「日向、 今日なぜ金子に負けたと思う?いやもう気づいているか。 それよりもお前は」 「俺は金子より大塚だ。まだ一年も経ってないのにあいつは」 「あの少年に…いや、 大塚に負けじと頑張ってるさ日向は。 大塚に負けるなよ」 「東山」
東山が初めて少年ではなく大塚と呼んだ。 「あと3ヵ月で新人王戦だな。 頑張って王者になれ日向。 努力すればきっとお前の夢もかなう」 東山はそう言って帰っていった。 日向は小声で東山に向かって言った。 「あいつ、 なに考えてんのか全く読めねぇ」 日向はそう言うと横目で東山をにらんだ。 そうやって、 二人は対立をしたがお互いに目標に向かって進んでいった。 次の日
「やべー、 身体中が痛てぇー」 「だから言ったじゃないですか。 昨日は休んで今日から始まる練習に備えておけと」 すると、 日向もジムにやってきてサンドバックを殴った。 大塚は何事もなかった用に立ち。日向に負けじとサンドバックを殴り始めた。
「あ~、 大塚くん無理しないで」
日向も身体中が痛かったが負けじとステップを踏み。 サンドバックを軽快に殴り始めた。 「おい、 日向。 体痛いんじゃねぇのか」
大塚は日向を睨み。 サンドバックを力任せに何回も殴り、 跳び蹴りをした。
「うん。 大塚くんそれボクシングじゃない」 二人が対抗心で高梨と奥寺さんが手がつけられなくなった時だった。 「なんと。 素晴らしいライバルの誕生たな。」 「と、 東山さん!?どこがですか。 もはやボクシングの域を外れてますよ。」 「ハハハ。 私も現役の時にこういうライバルが欲しかったな」
高梨と奥寺さんは東山の横顔を見てなぜか安心した。 「高梨、 奥寺さん。 今日、 話す時が来てしまった」 「…」 「…は、 早くないですか。」 「私は歳はとっているが中身は若いらしい」 高梨は涙ぐんでいた。
「やんのか。 テェメェ」 「それはこっちの台詞だ」 「おい、 日向と大塚」 「あ?」 俺と日向は振り向いた。 しかし、 俺は呼ばれて、違和感を感じた。 「え?今何て?」 「君達に話がある。 私は少しばかり入院することになった。」 「おい、 どこか悪いのかよ」
「なぁに、 すぐに治る。」 「すぐに治るじゃねぇよ。 急過ぎんだろ。」 「大塚、 私はすぐに戻ってくるから安心しろ」 「おいおいおい、 大塚って止めろよ」 東山がどっか行ってしまう気がした。 「まだ日向に勝ってもねぇぞ。 そんな…うっ、 そんな呼び名で呼ばれたら。 な、 なんかさびしいだろ!」
「…」 「…」 「…」
みんな黙っていた。
「おい、 さっきっからみんな黙ってっけど知ってたのかよ。」 「大塚くん落ち着いて、 」
「こんなんで落ち着いてられっか」 「大塚黙ってろ」 「日向はどうなんだ。 知ってたのかよ」 「初耳だ。」 「お前、 何でそんなにも気にせず練習してられるんだよ」 日向はトレーニングの続きをしていた。 「大塚。 お前はまだまだ経験不足なだけだ。 もう私が教える事は全て教えた。 あとは自力でプロボクサーになれ。 それが私の最後の課題だ」 「何寒いこと言ってんだよ。」 「今日ここに来たのはこの事を言うためだ。」
「東山まて。 話は終わってねぇぞ。」 俺は東山を必死に追いかけた。 「大塚くん」 「高梨、 止めても無駄だ」
「待てよ東山」 「私はそろそろ病院にいかなくてはならない。 今はお前にかまってる暇はないんだ。」 「だったら、 俺をぶっ飛ばしてから行けばいい!」 「ほー、 面白い。 私の最後の戦いがお前か」 「最後って、 やっぱり大丈夫じゃねぇんじゃねぇか。」 俺は思いっきり東山を殴った。
しかし東山の動きは早く簡単に避けられた。 初めて東山と一対一をした。 「やるじゃないか大塚、 俺は弟子とやりあえるなんて嬉しいぞ。 だが、 パンチはまだ甘い」 そう言うと、 見本と言わんばかりの勢いで右手で俺の顔を殴った。 俺は避けようと思った。 しかし、 間に合わなかった。
東山のパンチはとてつもなく早く、 その一発がとても重かった。 「大塚くん!」 「痛って」 俺は悔しくすぐに立ち上がった。 しかしあいつは背を向けていた。
「大塚、 いつかちゃんとしたリングで戦おう。」 「は!?まだ終わってねぇぞ。」 「大塚、 日向に約束はまた今度と言ってくれ」 そう言うと車に乗り込んだ。 「待てよ! 人の話聞いてんのかよ! おい東山! 東山ー!」 俺は車の中にいる東山に必死に叫んだ。 「…」 「テメェ、 逃げんのかよ。 おい、」 車は走り出した。 「ふざけんなよ。 なんか言えよ。 俺は…俺は、 あんたがいなきゃ」 「大塚くん一端落ち着きましょう。」 俺はそう言いながら東山の車を睨んだ。 そして不安と悔しさ、 怒りが俺の中で交差した。 暴れたかった。 あのアホに怒鳴りたかった。 「なぜこんな時に」 心配という二文字が体の中で大きくつまっていた。
高梨は全て話した。 東山の事を。 俺はそれを聴きながらガラス越しに海をずっと眺めた。 「あの野郎、 落ち着いたか。」 「はい」 日向はトレーニングをまだやっていた。 「日向くんは表に出さないタイプですね。」 「日向の野郎、 黙りこんじまった。 あいつもあいつで驚いてんだろ。」 「なんかさびしいです…。 東山さんがいないと」 「あいつら二人は成長したな。 俺は東山と違って、 ボクシングしか教えられねぇけど。
あいつは昔っから多くの事を教えてくれた。」
あいつがまだ16歳の時だ。 俺はまだジムを経営して間もない時だ。 あいつは金が無いからタダで教えてくれってな。 その代わりトイレ掃除、 洗濯。 なんでもするって。俺はその時人手を借りるお金がなかった。俺はちょうど良いと思って、 提案を承諾したんだ。 俺はそいつが日本ボクシングの王者になるなんて思ってもみなかった。 フッ、 本当は俺があいつに色んな事を教えなきゃいけねぇのに気づいたらこっちが教えてもらってた。 多くの栄光ももらったしよ。 たいしたこと教えてねぇのにあっという間に身も心も大人に成長しやがった。
そしてあいつが新人王になって、 ほとんどここでトレーニングしなくなった時はさびしかった。 あいつが新しく行き始めたトレーニングジムに行って見た。 そしたらテメェが良いように東山にコキ使われてた。」
「ハッハハ、 懐かしいですね。 初めて私は東山さんにあったのがそこですよ。 ジムのアルバイトしていた時、 誰かが声をかけてきて私の元で働かないか。 その代わり、 休みは無いがって。 それが東山さんでした。 僕はその時目を疑いました。 あの新人王が目の前にいて、 夢でも見てると思いました。 もちろん働かせてもらいますと答えました。 それからは忙しい毎日で、 試合中に怪我したら処置また処置と繰り返してそのあとはマッサージをするような毎日でした。 東山さんは私がここまでこれたのはみんなの支えがあったから私は恵まれているとあの人は謙虚で人柄が良かったです。 だから私もここまでついてこれた気がします。 そして、 柊さんもいて奥寺さんもいて楽しかったです。 ずっと続けば良いと思ってたんですけどね。」 「世代交代だ。」 二人は東山の変わりになろうと、 日向と大塚を支えるために。 思い出しては不安を感じていた。
少年よ泣くな立ち上がれ
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