少年
俺は人生と言う名の道に迷っていた。 仕事はしてなく、 学校もろくに行かなかった。 そんな俺は毎日が遊びで、 お酒を浴びるほど飲んでは喧嘩をしまくった。 俺はこの町の中では強い方だった。 朝、 ボロボロになった姿で家に帰る。 まだ町中は静けさが残る朝に。 こんなグレた俺を親はソファーに寝て待っていた。 起こさないように俺はそっと自分の部屋に戻ろうと階段を上った。 「おー、 望帰ったのか」 俺は、 ビクッとした。 「おお、 親父起きたのか」 俺は目を合わさずに言った。 「おい、 望顔を見せてみろ。 おい」 「何でだよ」 俺は頑なに見せようとしなかった。 「また喧嘩したのか?」 「いいだろ! ほっといてくれよ!」 「ほっといてくれよはないだろ?」 俺は親父の手を振り払った。 そして逃げるように自分の部屋に戻った。 「なんだよ。 向きになって」 親父は、 俺が物心つく前に事故で亡くなった母代わりをしてくれていた。
親父は毎日のように仏壇の前で俺の事を話した。 俺はそれが嫌だった。 「望、 あいつ毎日毎日帰り遅くて帰ったと思ったら喧嘩して帰ってきやがるだ。 俺は大学行ってたが望は中卒だ。 あいつの将来が不安だよ。 もう二十歳だって言うのにな。 少しでもやりたいことが見つかればなあ。」 話し声も俺の部屋までに聞こえてくる。 期待されるのが怖かった。 弱かった。 弱いから自分でトゲを張っていた。 そのストレスを夜の遊びで解消していたのだった。
そんな暑い夏の夜。 俺はいつものように悪い仲間と一緒にバイクで隣町に出かけた。 その道の途中、 少し古い車が前を走っていた。 その道では左は岩の壁。 右は崖でガードレールがしかれていた。 俺と仲間はそれが邪魔で煽った。 そして、 反対車線に入り抜かそうとしたその時だった。 前から大型トラックがきた。 俺は慌ててハンドルを左に切った。
しかし、 トラックも同じ方向に避けようとしたのだ。 仲間はそれに反応できずにトラックに正面衝突した。 俺は避けようと逆に切った。 しかし俺はトラックのサイドミラーに頭をぶつけた。 勢いでバイクから振り落とされた。 俺は一瞬気を失ったがきずいたらガードレールの脚を両手で掴んでいた。 「はっ!」 俺は崖に落ちそうになったいた。 落ちたら確実に死ぬそんな高さだった。 全身激痛が走っていた。 しかし俺はなぜか親父の事を考えていた。 このままじゃ死ねないと親父を悲しませてばかりだと。 意識がもうろうとしながら必死にガードレールの脚を掴んだ。 すると目の前に男が現れた。 俺はその男が親父に見えた。 「俺の手を掴め少年」 「親父」
俺はその手を力強く握りしめた。 その男はにやけた。 「良い力だ! 少年。 踏ん張れ!」 俺はびっくりした。 俺を軽々しく両手で持ち上げたのだ。 俺はそのまま気が緩み気を失った。 そして、 夢を見た。 俺は車の中の後ろの座席に座って泣いていた。周りは誰もいなくて、 ただ寂しいという感情だけがあった。 そのあと俺は目を覚ました。 「うっうう。」 「おい望大丈夫か?待っとけ先生を読んでくるからな」 ここはどこだ?病院か?全身の痛みと空腹が混じって気持ち悪かった。 「望さん大丈夫ですか?私の声聞こえますか?聞こえたらまばたきしてください。」 医者が俺の様子を見て驚いていた。 なぜなら、 俺は全身の骨を折っていて死んでもおかしくなかった。 致命傷である頭はヘルメットが守っていたがここまでの重症を受けていて生きているのは奇跡だと医者が言っていた。 全治半年。 俺は4日間も眠っていたらしい。 「良かったな望。 きっとお母さんが守ってくれたんだな。」 俺は黙ったままだった。 仲間は死んだのに悲しくなかった。 その事に俺は悲しくなった。 いっそうのことあの事故で俺も死ねば良かった。 今の自分が昔の自分とどこか違う気がした。 「望。 お前をな助けてくれた人にお前の事を話したんだよ。 その人はお前の話を聞いて興味を持ったらしくて、 ボクシングを教えたいと言ってきた。 お前やりたいことないならボクシングやってみないか?」 俺は無視をした。 「何か言ったらどうだ」 病院の静けさが妙に長くさせた。 「まぁ、 すぐに決められないよな。 今日はもう遅いからまた今度返事を聞くよ。 じゃあな」 親父とまともに話ができなくなっていた。 その日、 俺はまたあの夢を見た。 そしてまた同じ所で目が覚めた。 するとすでに来客者が来ていた。 「おお、 目が覚めたか少年。 私は歳なのかこの頃早く目が覚めてしまう。 早く来すぎたかな?」 「あんた誰だよ」 「覚えてないのか?少年。 まあ無理もないか。 死にかけていたのだからな。」 「だから誰だよ。」 「そう急かすな。 今は急ぐ必要がないんだからな。 あの時は、 急かすから事故ったのだ。 周りの状況を見て判断しなくてはな。 少年。」 「あ?」 最初はイライラした。 奴は俺をバカにしてるようで。 「私は君の命の恩人とでも言おうか。」
「あー、 お前がそうかよ」 「ん?少しは感謝してほしいものだ。 あの時、 少年達に私は煽られた。 おまけにその中の少年一人を救ったんだからな。」 「別に助けてくれなくても…」 「少年。 ボクシングをやる気はないか?」 「さっきっから少年少年って、 少年じゃねぇよ! どう見ても青年以上だろ!」 「私はこの目で見えてるままを述べてるだけだが」 「ちっ、 あまり調子乗るなよ。 俺が今動けないからって。」 奴はにやけた。その時、 俺はそのにやけを見てあの事故をはっきり思い出した。 手を差し伸べてくれた時にも同じにやけをしていた。 「良い闘争心だ少年。 怪我が治ったらここに来なさい。」 奴は名刺を俺に渡した。 「いらねぇよ」 「持っとかなくても良い、 私がまた少年の所を尋ねる。」 「コツン」 奴は段差につまずいた。 「おっと」 俺は名刺を見ていたが音に反応して奴を見てしまった。 「おっ?良い反応だ少年。」 「うるせぇよ。」 奴は帰っていった。 「そこ出口じゃないですよ」
「あっ、 出口あっちか?」 大丈夫かよ! 俺があいつを心配した。 それから俺は退院するまであの夢を見ることが多くなった。そんなある日、 俺は一人で立てるようにまで回復していたので病院のテレビを見に行った時だった。 テレビで引退会見が報道されていた。 詳しく見たらボクシングだと書いてあった。 何だよ! 興味ねぇよと思っていた。 しかし、 俺はテレビを見て驚いていた。 そこには、 2~3ヶ月前に俺の所に来ていたおっさんだった。 何であいつがプロボクサーだったのか?すると隣にいた患者の話し声が耳に入ってきた。 「東山はもう年だからなぁ。 30代で良くやってたもんなぁ。」 「ボクサー辞めて、 指導する人になるらしいぞ」 「ついこの前までボクシング界のレジェンドって呼ばれてたのに時間が過ぎるのは早いな」 俺は驚いていた。 あんな凄い人が俺にボクシングを?すると親父から電話がかかってきた。
「おい望。 今大丈夫か?」 「ああ」 凄い慌てた様子で親父が話してきた。 「て、 テレビ。 テレビを観てみろ!」 「観てるよ。 あの人ボクサーだったんだな」 「そうか、 観てたか。 お父さんびっくりしちゃって。 こういうの鈍いから全然知らなかった。」 「俺も今驚いてるよ」 俺はテレビを呆然と眺めた。そして、 名刺の事を思い出した。 しかし、捨てた事を思い出した。 俺はもったいないことをしたと思った。 けど俺がボクシング何てできないか。 俺は諦めた。
それから俺は、 5ヶ月で退院できた。 「大塚さん凄い回復力でびっくりしましたよ。 本当はもう1ヶ月入院予定でしたがもう大丈夫ですよ」 「ありがとうございます。 望も何か言いなさい。」 「ありがとうございます」 俺は無愛想に言った。 親父が運転する車で一緒に帰った。 「久し振りに望と一緒に車で帰るな。 いつ振りだったっけ?3年前かな?」 「知らねぇよ。」 「あの時は…中学の卒業式だっけ?」 「それは5年前だ。3年前のわけないだろ」 「ああ、 そうだったな。あの時はお前が俺より少し背が低くかったな」 「もう昔の事なんて覚えやてないよ。」 「えー?まだ若いのに覚えてないのか。 確か3年前だったような。」 「もういいよ。 遠い昔だから」 「お父さんはつい昨日のように感じるけどなぁ?お前がこんなにちっちゃい頃だって、 ついこの前のようだ。」
「親父、 それは小さ過ぎんだろ」 「そうか?そうだな小さ過ぎたな。」 親父は笑っていた。 「何も面白くねぇよ。」 たわいもない会話が続いた。 すると親父からあの話を出してきた。 「望、 ボクシングの事どうだ?やってみる気になったか?」 「やらねぇよ」 「そんな事言うなよ。 お父さんなあれからあの人の事調べたんだ。 名前は東山高彦っていうらしい。 凄いぞ東山さんは。 防衛戦は世界記録を持っていてな。 日本のボクシング界のレジェンドって呼ばれているらしいんだ。 あの人の元で鍛えてもらえばプロボクサーだって夢じゃないぞ。」 「だからやらねぇよ」 俺は見栄を張ってしまった。 本当はやってみたいのに。 「望が言うなら仕方がないな。 けどなやれとは言わない。 ただ行ってみるだけでもどうだ?」 俺はまた黙りこんだ。 素直に慣れない自分がいた。 「まぁいい、 これはお前の人生だ。 お前が決めろ。」 そうして家に着いた。 それからは、 全く親父と話さなかった。 そして、 また親父は仏壇に向かって話していた。 「俺があいつを育てるのが下手だったかな。 お前がいなくなってから俺は寂しいよ。 親らしくできてるかな?…」 そのあと少し黙りこみこういった。
「母さん」
俺はまた夜遊びに出ようと外に出た。 しかし、 バイクが無いことに気づいた。 その時だった。 「また夜遊びか。 懲りないなあ。 少年。」 あの小バカにしたしゃべり方。 俺は声する方向に振り向いた。 やはりあいつだった。 「何だよ。 何でここが分かった。」 「知らないのか。 君のお父さんがお礼にと果物や私の好きなプリンを色々送って来てくれたんだ。 それで君の住所が分かった。 お父さんは良い目をしてるよ。 営業マンだったのか?」 「ああ、 何のようだ。 俺はボクシングやらねぇぞ。」 「おい少年。 お父さんから聞いたぞ。 仕事もなにもしてないそうだな。」 「それがどうした」
「そのままでいいのか?チャンスだと思うがな」 また俺は素直に慣れなかった。 そして、 黙りこみ足早に去ろうとした。 「ずっと少年のままでいいのか。 親に迷惑かけっぱなしでいいのか。 気づいた時にはもう遅いんだぞ」 俺は足を止めた。 「黙れ。」
俺は拳を強く握りしめた。 「おっ?やる気になったか?少年」 「俺は少年じゃねぇ!」 俺は東山に殴りかかった。 しかし、 東山は華麗にかわした。 そして俺の顔にビンタしようとした。 俺は慌てて避けようと後ろに重心を傾けた。 避けたは良いもののバランスを崩し後ろにひっくり返った。 「痛って、 クソ」 「ほー?なかなか良い反応じゃないか。 最初見た時と同じだ。 少年、 私の動きが遅くみえたか?」 「あ?ごちゃごちゃうるせぇよ。」 「やはり私の目に狂いはなかったな」 またあの時と同じように奴はにやけた。 「だからお前は何を言ってるんだ。」 「少年! お前をプロボクサーにしてやる。 いやお前ならなれる。」 「は?」 「才能があると言ってるんだ。 さぁ、 車に乗れ。」 「は!?いまから!?」 「ああ、 そうだ。」 「待てよ! 何にも用意してねぇぞ!」 「何も用意しなくて良い。 こちらが用意する」 「分かったよ。 けど行くのは明日にしてくれよ!」 「良いぞ少年! では明日だ。 明日の朝9時と言うのはどうだ?」
「お、 おう。」 「逃げるなよ少年」 「逃げねぇよ!」 「そうだな。 男なら逃げてはダメだ」
「うるせぇよ。 早く帰れよ。」 「分かった少年。では、 明日を楽しみにしているぞ少年…逃げるなよ」 「だから逃げねぇよ!」 そうして、 奴は笑いながらさろうとしたが 「所でどこに行けば私の家があるか少年知ってるか?」 「知る分けねぇだろ! 携帯とかで調べろよ」 少しアホなようだ。
それから俺は必要な物を用意した。 昔の事を思い出しながら。 「懐かしい。 おっ?母さん。 親父若いな」 気持ちが溢れた。 しかし、 俺はあることに気づいた。家族一緒に写った写真がない。 俺が産まれてすぐに亡くなったとしても親父と母さんが一緒に写った写真ぐらいあってもいい。俺は家中のアルバムを探したがなかった。
しかし、 違う写真があった。 それは母さんが俺をだっこしていた。 それだけじゃなかった。 隣に知らない男もいた。 「なんだこれ?」 俺は明日親父に聞こうと寝ることにした。 次の日、 親父はいつものように朝早く仏壇に手を合わせていた。 「親父。 俺、 あの人の元でボクシング教えてもらう事にしたよ。」 「望。 本当か!」 「いや、 あいつがしつこいから」 「父さん嬉しいよ。 お前がやる気になってくれて。」 「いや別に…そうだ。 昨日さぁアルバム見てたんだけど家族一緒に写った写真ねぇの?変な写真ならあるんけど。」 そう言いながら昨日見つけた写真を渡した。 「親父が写った写真がないだ。 しかも隣の男は友達か何かか?」
親父はその写真をただ見つめていた。
「おい親父なんか言えよ。」 その時、 俺は嫌な予感がした。 「親父?」 「ああ、 これなこれは…」 親父唇を震わせていた。 「これはな。 望いつかは、 いつかは言おうと思った。 けどお前が夜遊びに行くようになってから言うのが怖かった。」 「おい待てよ。何が怖いんだよ。 何を言うんだよ。 止めろよ。」 「すまない」 親父は泣きじゃくっていた。 「お、 親父?俺の親父だよな?な?」 「そうだ。 当たり前だ。 19年もお前を育てたんだ。 一人で。 けど」 「けどって何だよ。 おい! 血が繋がってないって言うなよ?」 親父は土下座をしながら首を横にふった。
俺は悲しくなった。 親父に裏切られたような気がした。 血が繋がってなくても育ててくれたことに感謝するべきなのに。 俺は親父に怒鳴るように言った。 「ああそうか、 やっと分かったよ。 親父と俺がこんなにできが違うのが。」 「望。 それは違う」 「何が違うんだよ! 親父は大学行ってんのに俺は中卒だろうが! 俺は頭悪いよ。 親父は頭良いのに、 だって」 言っちゃいけないことを親父に言ってしまった。 「血が繋がってないもんな!」 俺は荷物を持って、 家を飛び出した。 「待ってくれ望。 話を、 話を聞いてくれ!」 親父が泣きながら必死に俺を呼び止めているのに俺はまた無視をした。 その後、 俺は家の近くの公園で東山にもう迎えに来てくれと頼んだ。 「いいのか?まだ7時だが」
「ああ、 もう覚悟はできてっから」 「…そうか少年。 では、 30分ほどで着く。」 「…」
俺はもう家に帰らないと決めた。 プロボクサーになると決めたから。
「東山さんはあの大塚望って子のどこが良いんですか?無理矢理誘っても成長しませんよ?」 「高梨、 それは違う。 彼は成長はさせない。」 「え?それどういう意味ですか?」 「ハハハ。 まあ見ておけ。 彼は私の全てを引き継いでもらう。 新人王者に輝かせてやる」 「いや。 東山さん、 いくらなんでも無理ですよ。 あなたにかなう人なんて、 50年に一人ですよ」 高梨は笑った 「高梨、 それが今だ!」 「え!?じょっ、 冗談でしょ?」
東山はまたにやけた。
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