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エッセイ

となりの仙人

作者: 久賀 広一


今日は一日オフだ。


何をしようかな。

「おっ。となりの家の人は、庭からつづいた裏山で、草むしりしてるのか」

段差の高い隣家を見上げると、そこには腰を曲げて、黙々(もくもく)と土に向かう老人がいた。

まあ、私はいつものように、休みは録画しておいたドラマを見ることにする。


今期はけっこう面白いのが多い。

刑事ものや、女子狙いの恋愛ものの配分が多かった近年では、一番気分転換できるシーズンだ。

「ああ・・・『後に生まれただけの僕』も、『明後日あさっての約束』も、同じ学校舞台なのに観れる・・・」

ちょっと『明後日』は内容が重いが、しっかりした作りで楽しめる。


むしりむしり。

隣の人は、それらを見終わってもまだ除草作業をしていた。

「頑張ってるなあ・・・田所さん。じゃあ私は何をしようかな・・・」


とりあえずお茶を入れ、ホッと一息入れながらお菓子を食べる。


ポリポリ。


むしりむしり。


次は読みかけの本を取り出して、一章だけ読むことにした。

一章とは言っても、私はとても読むのが遅いので、昨日までに読んでいた章の終わりからフニッシュまでの少しだけだ。


それでも時間をかけて、ゆっくりと一語一語を朗読するような速度で読む。


ーーお前は学習障害かって?

いや、まあどうでしょう。

とにかく人より進みが遅いのです。

月に100冊とか200冊とか、私にはさっぱり理解できません。


それでも面白いと定評のある本を読んで、それなりに余韻を感じていた。


「おお・・・田所さんすげえ。まだ草むしってるよ」

茫洋ぼうようとした読後感のなか、パキ、パキ、という枯れ枝を踏むような足音が聞こえてきた。

だいぶ森の方へ近づいているみたいだ。


ジャンルはバラバラだが、何作かを視聴して、私はもう脳がいっぱいで動く気にもなれなかった。


音楽も言語として聞こえてくるため、歌のないCDも聴くことができない。


「そういや、またここのところ運動不足になってるよな・・・」


汗をかくような動きをほとんどしないため、年がら年中、運動不足のようなものではあるが。


一年ほど前からジョギングを始めたので、小説のアイデアなんかを考えるためにも、ときどき一時間ほど走ることにしている。


「着替えを終えて、と。さて、また忍耐力のいる六十分の始まりだ」


ボーッとしてたらあっという間にバテてしまうので、集中して低スピードを維持する。

せっかちな私には、ほとんど拷問だ。

それでもトテトテと、なるべく姿勢を保ってラストだけは上げて走り切る。


「うおー・・・。キツい。もう当分運動はいいや」


坂道を上がり、やがて家にたどり着いた。

そのまま、ヨロヨロと風呂場に入り、汗を流す。


のどからびた時のポカ◯スウェットが、また異様に美味いんだよな~」

安上がりの粉をカップにぶち込み、水を注いで氷を入れる。


思った以上に染みて、「かーっ」とおっさんみたいな声が出てしまった。

いや、ほんとにおっさんだろうけどさ。

ーーその時だった。


むしりむしり。


「えっ!?」

むしりむしり。

「た、田所さん、まだやってたの!?」

老人の忍耐力ーー


まあ、勤めてきた職業にもよるんだろうけど。

とにかく、その日も子供のように適当な時間の使い方をした私は、孤独仲間である老人のマイペースに、け反らずにはいられなかったのだったーー。




(名前など、多少フィクション入ってます)













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