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日常断片  作者: 藤野 羊
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ある呪具商

 いらっしゃい、お客人。

 なに、おれは人じゃあ無いって? そんなの只のご挨拶。決まり文句みたいなものだよ。細かいことはお気になさるな。

 さて、ご用向きをうかがおうか。何せこんな偏狭な商いをお求めなんだ、既に『目当て』がお有りだろう? 狭間通りは広しといえど、呪具商なら掃いて捨てるほど――、……


――「死体をあがないたい」。そうか、承知したよ。

 紹介は弐番かな? 違う? ……へえ、伍か。それはそれは。

 いやなに、次に会うのがたのしみだなあと思っただけ。


 きみ、銃の類を扱ったことは?

 銃というのは、弾丸たまを込めない限りは金属かねの塊だ。

 呪具というのは、言うなれば空の拳銃。自らが蓄える不可視の力を、目に見える現象として出力する為の装置――人がその執念から生み出した、手製の銃。

 それぞれ口径が違う。弾の装填数が違う。威力が過ぎれば銃が壊れることもある。一弾ごと丁寧に火薬を篭めるものがあり、前の主が込めたままの弾が残るものもある。

 銃と違って出鱈目なのは、寛容な奴と気難しい奴がいるってことくらいかな。口径の違う弾丸を受け容れてくれる奴もあるし、在るべき手順をひとつ間違えた途端に暴発する難し屋もいる。

 まあ御託はいい。

 こちらから言えるのは――「きみに適合して」「要望に添えそうな」ものを、可能な限りで提供する。それだけだ。


 なに。よく喋るね、と?

 ……己のことを他で漏らされないか不安。なるほど道理だ。

 商いは信用が命だ。ここいらでは特にね。であれば当然、取引先の情報を漏らすようではいけない。しかしながら、せーるすとーくも肝要だ。

 だからね、意味の無いことをべらべらと喋り続けるくらいがちょうどいいのさ。そうすれば、仮にうっかり口が滑っても誰も気に留めやしない。


 大店おおだなであれば、店の構えに相応しく胸を張る。そうでない店は「うちは知る鬼ぞ知る店だ」、「商品は全て、これという逸品ばかり」と唆す。みな揃って、我こそが一等だと喧伝するさ。そういうものだ。


 ああ、もちろんまことの一等はうちだよ。

 なんだいその顔、信じていないな? かまわないけどさ。

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