ぱっとしない
冬部と棗(冬部視点)
「不味いからやるよ」
棗から放り投げられたペットボトルには、きらきらと透き通る朱色の液体が揺れていた。
水音を立てて冬部の手に収まったボトルの中身は、八割以上残ったまま。
ほんとうに一口飲んだきりという風情だ――代わりに飲めという意図は察せるものの、とりあえず幼馴染に確認する。
「お前のその、たまに不味いもん寄越してくるのは何なんだよ」
「朔は馬鹿舌だから気にせず処理するかなって」
「てめえ」
「僕は微妙でも、君には好みかもしれないし。美味しく飲める人間に消費される方がこいつも本望でしょ」
「適当なこと言いやがって……」
薄いプラスチックのラベルには疲労回復と銘打たれ、どうやら身体によいらしい小難しい成分が羅列されている。
「スポーツドリンクか。何の味だ? これ」
「パイナップルとアセロラ」
「何だその組み合わせ」
「僕に聞くなよ」
それはもっともなのだが。
とりあえず蓋を開けた冬部は、その不審なドリンクをがぶりと一口に飲みこんだ。わりと喉が渇いていたので。
ベースはアセロラの酸味と甘味だ。だが薄い。
かなり遠くに、パイナップルの丸っこい甘さを感じる。缶詰入りの果物はこんなもんだったかと、冬部は記憶をあらためた。
全体的に酸味よりも甘みが優って舌に残る。
やけに人工的な甘さの既視感は、かき氷のシロップだった。けれどーー注釈を入れるなら、シロップの中でも最後の最後。溶けきった氷にだいぶん薄められた、半端に甘いだけの色水の味。
どちらをも味わえるが、どちらの味もぱっとしない。
「……不味い」
「だろ?」
「だろ? じゃねぇよ。責任もって飲みきれ」
「やだ」
「てめえ」
※実在しない商品です
仮に似た飲料が存在したとしても、当該製品を中傷する意図はありません




