めずらしい遊戯
榛名、冬部、紫乃、棗、風見(冬部視点)
「お疲れさま隊長さん。紫乃を迎えに来たんだけど、いる?」
隊室を尋ねてきた研究員――榛名の言葉に刀を置く。
冬部は迷わず彼女を手招き、部屋の奥を指した。
「風見と陽と、三人でトランプやってる」
「トランプ……?」
榛名が怪訝に顔を曇らせた理由は、遊戯よりも面子だろう。
紫乃と同じ高校生かつ友人でもある風見はいいのだ。問題は残りの一人。
副隊長の棗は対策部内でも武力衝突を起こすことが多い。加えて紫乃側からは個人的な怨恨があり、棗を「悪魔」と呼称する間柄だ。紫乃の姉である榛名の心配はもっともで、冬部は閉口するしかない。
保護者の心情も理解しつつ「いくら陽でも学生に手ぇ上げるほど外道ではねぇよ」とも思うのだが説得力は無いので言わない。なにせ日頃の訓練から、生理的に無理と公言する学生隊員をボロ雑巾にしているので。
榛名のアイコンタクトで手頃な木刀を貸し、祈りながら三人の様子を眺めに行った。
紫乃は無事だった。絶望的な量のトランプを抱えて戦意を失いかけているものの、手札で顔を隠しながら棗を睨みつけている。
「悪魔に全押し付けしたいから絶対に諦めない」
「はっ、やってみなよ。無様晒して手札増えてくだけだと思うけど」
「棗サン、ダウト。ですよねー……お、よっしゃ当たり!」
「……風見。お前どっちの味方?」
「いやこれチーム戦と違いますって。オレはオレの味方っすから!?」
榛名が木刀を構えるのをやめたので、冬部はほっと息をついた。こんな経緯で備品破損の報告書をしたためるのは御免だ。
「……もし万が一マズくても、風見がいりゃ大丈夫だと思うぞ。ダメか?」
「……そうね。……風見君がいるとはいえ、それなりに仲良くしてるのは意外だったけど」
「……ベタベタされねぇ相手は気楽なんだろ。学生の頃からあいつ、つきまとわれたり騒がれたりで苦労してたからよ」
「、……構われたくないなら、外面だけ優しそうに振舞うのやめたらいいじゃない」
「…………それは俺も言った。知らねぇけど、なんかあるんだろ」
榛名から回収した木刀を背に隠し、楽しげな三人に声を掛けた。
「遊んでるとこすまねぇ。紫乃、榛名が来たぞ」
紫乃がぱっと振り向いた。険しかった表情に光が差していく。
冬部の手にひとかたまりのトランプを握らせ、矢面に立たせた。
「選手交代! たいちょっさん、あとお願いします! 悪魔にひと泡ふかせて!」
「ちょ、っおい紫乃!」
「次会ったとき結果おしえてくださいね、悪魔の泣きっ面写真も欲しいです!」
「ふーん。負け犬がキャンキャン吠えてんな」
「うるせえ次は泣かす!!」
榛名姉妹は帰ってゆき、冬部の手には大量の手札が残された。
ちらと二人を窺ったものの、紫乃が抜けたためか継続の意思は薄そうだ。
風見が手札を伏せながら「どうします?」と笑いかけてきた。
「たいちょが入ってくれんなら続けますよ。オレもヒマしてるんでー」
「暇ってお前……最近サボってんの報告来てるからな。訓練だからって、あんま蔑ろにするんじゃねぇぞ。いざって時に怪我するだろうが」
「げ、……っいやまあ、お説教はゲームの後に聞きますって……」
誤魔化し笑いでトランプに逃げた風見と対照的に、次は棗がカードを伏せた。
棗の意図は説教の継続ではなく――交代要員の冬部への苦情。
「……いや、人選ミスにも程があるでしょ。読み合いなんか朔にやらせたって分かりやすすぎて話にならないの目に見えてんだろ」
「そのケンカ買ってやるからルール教えろ。風見、」
「よし来た! 数字の順番にカード出してくだけっすよ。手札に無ければ別なカードをしれっと置いてー、オレらにコールされなきゃセーフ。たいちょもオレらが嘘ついてると思ったらコールしてって、最終的に手札が無くなった奴が勝ち! 簡単っしょ?」
「、……嘘をつくゲームってことか」
「そういうこと!」
棗から刺さる哀れみの目は「やめとけ」と言っていた。けれど、紫乃から任された手札は多い。しばらく嘘をつく必要は無いだろう。
その前に二人の嘘を見破ればいい。勝算が無いとは言いきれない――
「……あのさぁ朔、僕も弱いものいじめの趣味は無いんだけど。降参してくれない? ……六。はい次」
「! 陽、今のカード開けろ」
「、……ほんっとよく見てんねーお前。死ぬほど引っ掛けやすいっていうか逆に引く……はい六、ハズレ。場にあるカード全部お前の手札」
「あのさーたいちょ。失敗すっと、コールした側のペナルティになるからって言ったじゃん?」
「うるせえ、分かってんだよそんなことは……!!」




