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日常断片  作者: 藤野 羊
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無様なあなたの甘えかた

 ゆらゆらと、揺れている。


 夢と現の境のような、地に足のつかない浮遊感。酒気に掠れた意識が微かに浮上する。ゆるやかに流れる夜の景色、点る灯りがぼやけて霞む。

 どうやら僕は運ばれている。

 背負われていることは分かった。薄らと甘い体臭も、骨じみた細さも、よく知っている――使い慣れた代行だ。酒に酔った頭でも、そいつだと解る。

 霧雨に濡れ冷えた外気の中で、触れ合う箇所から体温が伝わる。ぬるい熱が心地好い。

 忍び寄っていた眠気は、些細な気付きに妨げられた。


 歩調に合わせて、頭にこつこつ当たる――傘。


 僕を背負いながら、肩に傘の柄を引っ掛けて、そいつは器用に雨をしのいでいる。

 畳まれたまま腕にぶら下がるもう一本は、多分、僕が使うはずだった傘なんだろう。

 水音が聴こえる――川が近い。

 飲み屋街の外れ、眼下に川を見下ろす遊歩道。岸辺と道とを隔てる柵には灯りが見える。

 点々と続く、規則的に並ぶ燈籠が、川に沿う歩道の曲線を照らしている。

 灯りの側を通り過ぎるたび、大きな影がゆらめく。

 軽やかで気まぐれな歩調より早足な影法師が、何度も、何度も。飽きもせず僕らを追い越していく。


 代行がゆるりと立ち止まった。

 飲んだくれを無闇に揺らさないように。お人好しなほどの柔らかさで、僕を背負いなおす。


 あいつには気取られないくらい。ほんの少しだけ、縋る腕に力を込めた。隙間をなくす。

 傘が小さいから。

 この細腕が頼りないから。

 酒で朦朧としているから。――その程度でいい。下策で無様な言い訳は、僕の心に留めるもの。僕だけに必要なもの。


 そんなことで構わないのだ。

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