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日常断片  作者: 藤野 羊
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夜に潜る

 夜更けの部屋は深海に揺蕩たゆたう。


 陰影に溶けた部屋の中、薄手のカーテンから外の灯りが透きとおる――ぽつりぽつり、素朴な光がまばらに点る星空の街と、大きな月からそそぐ夜明かり。

 ぼうっと光る夜色が、暗く沈みこんだ部屋に射している。

 見上げた天井に、ほの白い反射光がちらちら揺らぐ。


(海の底にいるみたいだ)


 水面を見上げる魚のように。光も届かない深海から、遠くあかるい宙を仰ぐように。

 吐息が泡と変わる。

 無音の耳鳴りの中、柔らかな泡が揺らめきながらのぼっていくのを見つめている。


 水面がさざめく。

 深海に漂う。

 水底から、亡霊に似た光を眺めている。


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