直感に従え
「けっさくなことにな。その店で、べつの店で仏壇を買って高くついた、って愚痴ったら、買った後に見に来ても後悔するだけだから見に来ないほうがいいですよ、って言われたらしい。そういう人が多いんだ、って。そのとき、その人は、むしろ直感が、頭で考えたこととどちらが正しいかをぜったいに後悔する形でわからせるために、そんな経験を自分にさせたにちがいない、っておもったんだってさ。仏壇を見るたびに、直感に従え、って自分に言い聞かせることができるから。失敗も、そう使えば、無駄どころか宝になるわけだ」
へー、とサユリは無意識にうなずいていた。
が、青年は嫌そうな顔をする。
「失敗は、できればしたくないなぁ」
「なら、もう一周してみろ。マインドじゃなく、ハートに訊くんだぞ」
「はい」
何がちがうのだろうか。
さっきの話からすれば、頭で考えたことと直感のちがい、という気がする。
直感教、とか?
五感とは別の、第六感、とかなんとか聞いたことはあるかもしれないが、それを崇めたとして、いったい誰が得をするのやら。
よくはわからないが、失敗さえ役立つとは、なかなかお得な宗教ではないか。
そうおもったとたん、サユリの中でぴくっ、とどこかが反応する。
失業したことも、考え方次第で、役に立つだろうか──
そんな発想が、どこからともなく湧いた。
そう、自分は人生に失敗したのだと、サユリは自分自身を情けなくおもっていた。
失敗するなんて不甲斐ないと、自分を責めていた。
でも、それが必要な経験だったんだ、とおもえたら……
他でもない、自分自身が、自分を許してやれるのではないか、とおもった。
許してやりたかったし、許して欲しかったのだ。
自分で自分を責めるのは、苦しいから。
ロボットの方がマシ、だなんて。
ならば、いったいなんのために自分は生きているのだろうか、とおもう。
「『喜び』を味わうためだから」
ハッ、とサユリは顔を上げた。
男性は、金仏壇の列を見ながら歩く青年に向かって、ことばを継いだ。
「『喜び』を味わうために必要なものは、おまえのハートだけが知っているんだ」
こっくり、と青年がうなずく。
なぜか、サユリの心臓も、ドキドキ言っていた。
まるで、自分にも『喜び』を味わわせてくれ、とせがんでいるように。