並行現実とワープ穴
「俺がおもうに、ああいう神棚を祀るっていうのは、エレベーターに乗るようなものだな。神社にこちらから出向くのは、スピードとしては、エレベーターに乗っても用もない階でいちいち停まってるように、少々効率が悪いという気がする。エスカレーターをのぼって行く方が、案外速いかもっていう」
「なるほど」
「たまに高次な場所に立ち寄るより、毎日振る舞い、自分のいる空間の波動を高次にする方が、ぜったい効率はいいはずだからな」
「はい」
「っても、何かをめぐんで下さい、って言うんじゃ、意味がない。喜々として振る舞うきもちこそが、高次なんだから。そういう自分を日々味わうことに、価値があるし、効果もあるんだ。──効果は、ちゃんとある」
はい、ともうひとつ青年はうなずき、商品である三社宮の神棚から黒檀の仏壇へと視線を戻した。
「神棚がエレベーターなら、仏壇って、いったい何ですか?」
青年の問いに、男性がいたずらっぽい笑みを浮かべる。
まるで、とっておきの秘密をおしえてやる、と言っているような顔だった。
「仏壇っていうのは、買うといっしゅんで異次元に行ける。今いるより、高次な次元にな」
「並行現実、ですか」
「そうそう。……そういえば、おまえが言ってたアニメ、おもしろかったよ。異次元とか並行現実が、すんなりわかるな。SFアニメっていうのはすごい。わかってるやつが作ってるからだろうが、ほんと、エンターテイメントにして真理を伝えるってのは、般若心経なみの発明だ、って感心するよ。表現方法はこれからもっと増えて、どんどん伝わって、ばんばん悟っていくんだろうな」
宗教だったかとおもえば、SFアニメだ。
サユリには、話についていけない。
「この仏壇が自分の家にきて祀られた瞬間にな、そこはもう、それまでの部屋とはちがう、ってぜったいにわかる。空間が変わるよ。その感覚を味わうために、仏壇っていうのはあるのかもな」
「空間が、変わる?」
「そうだ。いっしゅんで、高次にジャンプできるっていう」
男性が、ぴっ、と人差し指を立てた。
「つまり、仏壇っていうのはな、ワープ穴みたいなもんだよ」