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ぶつだんはワープ穴☆  作者: 有羽妃
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無償の愛

「ただ、これにはちょっとばかし、愛が必要だな。愛とは、あなたの喜びはわたしの喜び、だとか言うだろ。愛のない人間には、このすいすい上昇は、まずできない。まあ、できるようになったら、それは上昇した、と言えるわけだが」


愛とは、あなたの喜びはわたしの喜び──

背筋が、震えた。

どちらが損したとか、得したとか、同じだけ返せだとか、人間関係に利害を持ち込むサユリには、まったく異次元におもえることばだ。

無償の愛、なんて、ことばだけは知っている。

でも、ただのきれいごとだとおもっていた。

できるとしたら、それはもはや人間ではない、と。

無償とは、ただで与える自己犠牲だとおもっていたから。

与えるばかりで何も受け取れないのだと、思い込んでいた。

誰かの喜びで、自分が喜べるだなんて、そんな発想自体がなかった。

なかった自分に、がくぜんとする。

他人に振る舞うというなら、プレゼントをした経験くらいはある。

けれど、お返しがあるとおもうから、贈るのだ。

相手が喜んでくれたらうれしいけれど、それだけで十分で、お返しなどなくてもいいのだとはおもえない。

エスカレーターには、乗ったのだろう。

でも、自分の足は止めてしまっていた。

いや、エスカレーターに乗るのでさえ、ためらって老人のようなおどおどした足取りだったにちがいない。

軽やかな足取りでぴょんと飛び乗り、駆け上がっていってしまう人間を、うらやましく、ねたましく、うとましく、おもっていた気さえする。

自分の『喜び』にさえ惜しむ金を、他人のために喜々と出せるはずがない。

出せないから、いくら喜んでくれても、『喜び』には感じられないのだ。

どうすれば、それが変わるというのだろう。


できるようになったら、それは上昇した、と言えるわけだが──


男性はそう言った。

それなら、上昇すればいいのだ。

上昇、するしかないのだ。

一歩ずつでもいいから、地道に、こつこつと。

でも、いちばんの近道も、あるという。

そこに、手を出したくなるきもちも、わかりかけた。

だって、エスカレーターをすいすいとのぼるより、さらに速いと言うのだ。



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