アセンションの装置
「それで、どうだった? やっぱりこれがいいか?」
「はい。これだな、って気がします」
問われた青年が、神妙な顔でうなずいた。
黒檀の仏壇、というだけなら、他にもある。
サユリには、他とどうちがうのかがわからない。
もちろん、形がちがうことくらいはわかるが。
彫刻やら、細工の凝っている方が手が込んでいて高いのだろうな、ともおもう。
ところが、値段を見れば、そう一概にも言い切れないようだ。
サユリに、どこで造ったかとか、値段のちがいだとかを訊かれてもまったく答えられない。
その点で言えば、ハートだか直感だかで選んでもらえるのは有り難かった。
解説を求められないのは、本当に助かる。
「何かこの、中の扉のここんところの彫刻がツボです」
「そうか。これって、普段はこうやって、戸はたたんで開けたままで置いとくわけだけど。まあ、内側だけ閉めたっていいさ。どっかの宗派で祀るわけじゃないし、罰とか祟りとか、そんなもんねーからな。おまえが、アセンションの装置として、こいつにいかに貢ぐかってだけの話だ」
「わかっています」
またもや、知らない単語が出てきた。
アテンション、プリーズ、的な。
どういう意味か、見当もつかない。
ただ、サユリにも、こいつというのは仏壇のことで、つまりは仏壇を何かの装置だと言ったのだということだけは、わかった。
「アテンションって、何ですか」
素直に訊いてみたら、男性が振り返った。
「お嬢ちゃん、いい質問だ。アテンションじゃなくて、アセンションだけどな」
「…………」
大したちがいではないではないか、とサユリはおもった。
注目の装置、ではたしかに変だが、仏壇という物体がやたらと目を引くことはたしかだ。
「アセンションってな、上昇って意味。ここでいうアセンションとは、波動の上昇だ。低次から高次へ。高次な波動を持つものほど、目には見えない。目に見えないものに、少しでも近づこうっていうのがアセンション。悟りを開くとか、神に近づくとか、まあひと言で言うなら、そういう境地をめざすこと」
「は、あ……」
「いっしょにいて安らぐ人っていない? ぱっと見、好感が持てる人とか。高次な人を、けっこう直感で見分けてるとおもうけど」
サユリは男性を見た。
ひと言で言うならオジサンだが、会話を避けたいとおもうようなオジサンでないのはたしかだ。
どんな職場にしろ、こんなひとが上司だったら、嫌な気はしないかもしれない、ともおもう。
それが好感だ、と言われれば、わかるような気はする。
それに、頭で考えているというよりは、なんとなくそう感じるのだ、という方が正しかった。
そういうのを、直感と呼ぶのだろうか。