アジト壊滅
(……見張りが三人か。こんな奴等なら三人でも余裕か)
アジトの入り口には、三人の見張り役がいる。
鑑定してみた結果、最初に戦った二人と同等程度の強さだった。
やはり三人共、殺戮者の称号が付いており、容赦はしないつもりだ。
俺はお得意の奇襲を掛け、そのまま一人の盗賊を瞬殺する。
「てめぇえっ! なにもん──がはぁっ!」
喋る間も与えず、もう一人の盗賊の腹を蹴ると、男は10メートル程吹き飛び、倒れる。
そして、三人目の男は短剣を抜き、斬りかかって来るが、俺に擦る事もなくそのまま殴り倒し、俺はアジトへと侵入する。
アジトの内部は至って単純で、一本道が通っており、途中で右と左に道が分岐していた。
俺は右の道から、微かに声が聴こえたので、右へと向かってみる事にした。
「今日は宴だっ! お前等っ! 朝まで、飲み潰すぞっ!」
「「「「うおおおおおお!!」」」」
何やら、盗賊共が宴会を始めているみたいだ。
人数は……十九人か。
呑気な奴等だな、と思いつつも俺は、気付かれないよう全ての盗賊共を鑑定していく。
やはり、レベル12から14程の雑魚ばかりだ。
ただ一人だけを除いて。
名前:クーズ 性別:男 38歳
職業:戦士Lv21
HP:186/186
MP:24/24
物攻:77(+15)
物防:71(+15)
魔攻:21
魔防:28
敏捷:35(+5)
<スキル>
剣術2 手加減
<剣術技>
スラッシュ
<パッシブ>
身体強化(小)
HP増加(小)
<装備>
ツーハンデットソード
ライトメイル
敏捷の指輪
<称号>
殺戮者
(……あいつが、ここのボスか)
他の奴等と比べるとかなり強いが、俺には及ばない。
一対一なら、まず負ける事はないだろう。
ただ、この数が厄介だ。
今まで俺は、確実に相手を倒す為に、人や魔物であろうと奇襲を掛けていた。
だが今回は、奇襲を掛ける事は出来ない。
「なあ、ボス! そろそろ、あの女と遊んできてもいいだろう? あの女かなりの上玉だし、俺達もうたまんねーよ!」
「……ったく、仕方ねえな、おめえらっ! でも、奴隷商に売る商品だ。あんま無茶すんじゃねえぞっ! おめえらが遊ぶと、いつも売り物にならなくなっちまうからなぁっ!」
相変わらずの、下衆な笑い声がアジト内に響く。
(救いようがないな……殺るか)
今の俺なら、真正面から突っ込んでも、勝てると判断し、 両手に異空間倉庫に入れていた石を握り締め、俺は一気に宴会ムードの盗賊達の元へと走り出す。
盗賊達は、俺の存在に気付くが、大量に酒を飲んでいた事もあり少し反応が遅れた。
俺は不意を突く事に成功し、一番近くにいた盗賊二名を、殴り倒す。
(……残り17)
心の中で、ゴミの数をカウントをしていく。
「てめぇえっ! 誰だこらぁあっ!」
目の前の一人の盗賊が、剣を振り下ろしてくる。
だが、盗賊が振り下ろすよりも速く、俺は男の腹を蹴り飛ばす。
(……残り16)
「ちっ。せっかくの宴が台無しじゃねえか。おい、おめえらっ! 相手はガキがたったの一人だ! 全員で掛かって、早く片付けちまえっ!」
ボスがそう叫ぶと、盗賊達は剣や短剣などの武器を持ち、一斉に仕掛けて来る。
まず、三人の男達が同時に斬り掛かって来るが、俺は難なく躱す。
躱した場所の目の前には、斬り掛かって来た男達が直線上に並んでおり、一番手前にいた男の横腹を、力を込め殴りつける。
すると、背後にいた男共を巻き込みながらも、派手に吹っ飛んだ。
殴られた男は、完全にアバラ三本は逝ったと思う。
(……残り13)
「おらぁああっ! ──がはぁっ」
(……残り12)
「死ねやこらぁあ! ──ぎゃぁああっ」
(……残り11)
それから残り十一人まで倒し、その後も襲い掛かって来るゴミ共を俺は蹴ちらし続けた。
ぐはぁあっ!
(……4)
ぎゃあぁあっ!
(……3)
ごほっ!
(……2)
がはっ!
(……1)
ここで全ての、ゴミ掃除を終えた。
残りは、盗賊のボスであるこの男のみ。
「まさか、この人数を倒すなんてな。なかなか、いい腕してるじゃねえか」
盗賊のボスは、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、大剣を肩に担ぐ。
仲間が全て倒されたにも関わらず、よっぽど腕に自信があるみたいだ。
「でも俺は、こいつ等とは『御託は、いいからさっさと掛かって来いよ。ゴミ』違、なんだとぉっ!」
俺の挑発が癇に障ったのか、物凄い勢いで大剣を振り下ろしてくる。
俺はすかさず、後方へと飛び回避する。
振り下ろされた大剣の足下には、僅かに亀裂が入っており、広場には砂埃が舞い上がっている。
(……流石に、攻撃力は高いな)
少し感心していた所、砂埃の中から男が飛び出して来る。
「おらぁああっ! 死ねやぁああっ!」
ボスは、袈裟懸けのように斬り掛かって来るが、力はあっても所詮はこの程度の速さ。
敏捷値に大きな差もあり、俺に当たる筈もなく、そのままボスの顔にカウンターを叩き込む。
勢い良く吹き飛んだボスの唇は切れ、歯は欠け、鼻の骨なども折れており、醜い顔が更に醜くなっていた。
「……ぅうっ…だ、だのむ……だずげ『グチャッ』……」
助けを懇願していたが、俺は握っていた石をボスの顔面目掛けて投げつけた。
かなり嫌な音が聞こえたが、取り敢えずはこれでゴミ掃除は完了だな。
──広場には、大量の武器と金が無造作に置かれている。俺は使えそうな装備は回収し、それをゴミ掃除の代金とし、異空間倉庫へと納めた。
金に関しては120万メルと、ゴミ掃除にしては結構な金額を稼いだ。
その後、広場を後にした俺は、もう一つの分かれ道へと向かうことに。
すると、牢屋が見えてきた。
他に、盗賊がいないか警戒したが、牢屋の周りには見張り役もいなかったので、俺はアジト内の全ての盗賊を倒してたみたいだ。
牢屋内に照らす松明に、俺の影が伸びる。
そして牢屋の中には、一人の女性がこちらを見てかなり怯えているのが分かった。
カギがないので、鉄格子を純粋な腕力で壊すと『ひっ! いやぁ…』と怯えた声が聴こえるが、そのまま中へと入る。
「──もう大丈夫だよ。盗賊共は全て倒しから」
かなり怯えていたので、俺は優しく声を掛ける。
「ぁ……あなたは一体?」
「ひとまず、ここを出よう」
俺はそう告げると、捕まっていた女性とアジトを後にする。
☆
アジトを出ると、既に外は暗く、 夜中を回っていた。
時間も時間なので、今日はアジトから少し離れた森で、朝まで過ごす事にする。
魔物除けの為、結界を発動し、焚き火の用意をする。
そして、異空間倉庫から、おっちゃんが作った料理のスープを水筒に入れているので、それをコップに入れ彼女に手渡す。
「あっ……あの……たすけてくれて…ありがとう」
彼女はそっとコップを置き、頭を下げた。
アジト内では、暗くて良く見えなかったが、この時初めて彼女の顔を見た。
身長は160センチ程だろうか。
腰まで伸びた、長くてサラサラな髪。
更に、それを強調するかの様、綺麗に輝く金色の髪。
目鼻立ちも整っており、耳が長ければ完全にエルフを思わせる程の、超絶美少女だった。
──そして何よりも、頭を下げている彼女の目のやり場に困る程、立派な物をお持ちの方だった……。
「いえいえ。俺の名前は、アラン。偶々、旅をしている途中、盗賊共を見つけたんで。運良く助けられて良かった」
「私は…リアラっていいます……ぅぅっ……ほんとうにっ、ありがとう……」
リアラは安堵と父親の事もあり、綺麗な大粒の涙を流しながら俺に抱きつき、泣き崩れた。
ワンワンと泣く彼女の背中を、俺は優しく撫でるかのように摩る。
──しばらくすると、リアラは精神的に疲れていた事もあり、俺にもたれ掛かるように眠っていた。
(胸が……)
俺は空を見上げ、燦々と輝く星を見ながら、煩悩を退散させていくのであった。