話
追いついた僕に対して「危ないです」と気遣った言葉を彼女は投げかけてきた。
それを聞いただけで僕は嫌悪感に駆られてまた走った。追いつかれると分かっていても・・・
僕は話せないんだろうけど、それとは別の不安が胸によぎった。
そんなモヤモヤを吹っ切る為にまた走る。今度は頭が不安の正体を探ろうと仕出した。
答えが頭によぎる前に叫んだ。叫びながら走ってないとこの不安の正体にきっと気付いてしまう。
それは嫌だ。
さっきの痛みがぶりかえしてきたのか身体が揺れて道から転がるように落ちた。
空を見ようと仰向けになると今度は森が遮っていた。
それはまるで僕に対する当てつけのようだ。
意識がゆっくり飛んでいくのを感じる。
これでいい。何も知らないで済む。
安堵するように意識を落とした。
目が覚めた。白い天井・・・きっと病院だ。
そうか連れて行かれたのか。
ベッドの横には先程の彼女がいた。
時計を見るまだ日をまたいでないけど当初付く時間から大分過ぎた。
そんなことはどうでもいいただ問題は僕には入院代を払えるほど金があるとは思えない。
僕を治療した医者と彼女には悪いが抜け出させて貰おう。
僕はベッドの横に畳んである服に着替える。
服に着替えカバンを背負い出る準備を整えると病室を後にした。
病室を出ると女医さんと目が合う。
女医さんが何か話そうとする前に僕は走り出した。
その後後ろで声が聞こえたが耳を貸すことなく走り出す。
普通の階段じゃ捕まる可能性が高くなる。非常階段を使おう。
非常階段に出てそのまま駆け降りる。
偶に足を踏み外して転がるがそんなこともおかまいなしで降りる。
非常階段にも何人か人が集まってき僕のいるホールを挟まれる形になった。
ここまでか嫌ここは三階だ飛び込めば何とかなるか?
そんな時運がいいのか悪いのかこの病院の送迎バスが非常階段近くを通ろうとした。
僕はタイミングを計るとバス目がけて飛び込んだ。
バスは僕を乗せて出発した。正直振動でバレると思ったよ。
バスが進んで行くと標識が見えてきたので標識にしがみつくように飛び込んだ。
バスが通りすぎるのを確認すると腕の力を抜いて落ちた。
尻もちをついたがこの程度の痛みなんてことないさ。
僕は立ち上がると歩き出す。
目的地なんて分からなくなったけど歩いていればいずれ着くだろう。
先程いたところと比べると幾分か都会らしくいくつか店も見当たる。
駅はないのだろうか、駅さえあれば場所が分かるのに・・・
しかし場所が分かっとしてそこに行くのか?
そもそもなんで行くのか。アイツ等が行けって言った事だぞ。あそこに行くって事はアイツ等に従うって事だ。それでいいのか?
じゃあ何をすればいいんだ。
何も分からないし誰かと接したくもない。
僕は公園に入ってベンチに腰掛けた。
休もう疲れたその結果どうなろうと知らない。
そういえば本を買ったんだよな。
僕はカバンを漁って本を取り出し読むことにした。
本の内容はロボットが冒険するといった内容だった。
まだ最初だけどロボットである彼の方が僕よりよっぽど人間らしい。
そんな僕の前に人影が見えた。誰だろう?
顔を上げるとそこには先程の彼女がいた。
僕は口が開かなかった。何を言って良いか分からなかった。
彼女は僕を見ながら「良かった」と安堵の表情を浮かべた。
不思議な気持ちになった。嬉しいはずなのに悔しさが湧き出てきて何故だか悲しくなった。
僕はただ彼女の言葉に涙を流すしかなかった。
彼女は僕の隣に座ると「あなたの話を聞かせてください」と聞いてきた。
僕は嗚咽混じった声で一生懸命に口を動かしながら話した。
彼女が理解していようがいなかろうがどうでもよかった。
ただ誰かに話せるだけで良かった。