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短編

サンタはいません(「冬の童話祭2016」参加作品)

作者: 伊藤大二郎

 このお話はフィクションです。

 サンタクロースを、皆さんは知っていますか?

 クリスマスの夜、鈴の音と共にトナカイが曳くソリに乗ってやってくる、赤衣白髭のおじいさん。

 えんとつから入って、良い子の所には、プレセントを置いて行く。

 地方によっては、悪い子にお仕置きをしたりもする。

 そんな伝説の人。

 きっと知っていますね。

 そして、だれもが大人の階段を上る第一歩目は「サンタさんはいない」ということを知ることです。

 靴下にプレセントを入れてくれるのは、身近なあなたのことを大切に想ってくれている人だと、皆が知っています。

 サンタさんは、夢の存在なのです。

 そう、サンタはいません。

 そういうことに、なっているのです。



 紀元400年代。

 海の彼方のとある町に、あるおじさんがいました。

 神様への信仰の厚い人で、立派な人物になるために勉学に励み、体を鍛えていました。

 強く優しくたくましく。誰からも好かれる立派な人で、誰に対しても分け隔てなく接し、太い筋肉で服が内側から盛り上がっていました。

 クールでタフで、時折見せる優しさに、老若男女問わずメロメロでした。

 しかし彼は少し恥ずかしがり屋のきらいがあり、良いことをしてもそれを人に言うことを嫌がりました。

 ある時は、貧しさのために娘を身売りしなければならなくなった家のために、家財道具を売っ払って用意した金貨をその家の中に投げ込みました。家に唯一あった仮装パーティ用の服で正体を隠していましたが、その隆起した筋肉でもろわかりでした。

 ある時は、子どもを誘拐し、商品として売ろうとしているマジモンの殺人肉屋のアジトを見つけ出し、飼っていた四足獣に引かせた戦車チャリオットで突入し、子どもたちを救出しました。帰りの戦車の荷台で子どもたちにしかと口止めしたのですが、そんな約束を子どもたちが守るはずありません。

 ある時は、無実の罪で死刑に処されようとしていた人のために処刑場に殴りこみ、剣を奪い処刑されようとしていた人の縄を斬り、悪党の企てた謀略による冤罪であることを突き止め、無実を証明してみせました。正体を隠す為に付け髭をしてみましたが、そんな無茶苦茶をするのは彼しかいないと、大体バレバレでした。

 その時の無茶のせいで、牢獄に捕えられた友達を助けるために、国の皇帝陛下の寝所に天窓から忍び込み、彼を釈放して欲しいと直談判もしました。もちろん正体は隠していましたが、10割10分、彼です。流石にこれはまずかったのですが、たった一人の男に城の警備が破られたとなると、そっちの方がまずいので青少年への影響を考え黙秘されたのです。

 そんな感じで、好き放題に善行を積んでいましたが、彼とて人間。

 いつかは寿命が来ます。

 最後の日。たくさんの友人に見守られながらベッドの上で息を引きとる準備を始めた彼は、遺言を残します。

「私は自らの信仰に従い、生きてきた。何の悔いもない。私の生きる世界をよくするための努力は、少しくらいはしてきたつもりだ。これから先の人々がどのような世界を作っていくかは、まあ、自己責任だ。頑張ってくれ」

 そして最後に言い放ちました。

「これからは、『三』国一の『タ』フな男が【サンタ】を名乗るといい」



 ある夜のことです。

 火事で今にも焼け落ちそうな民家がありました。

 突然、鈴の音と共に空から現れた男が煙突の中に入りこみ、一分もしないうちに窓から飛び出てきました。

 家の中から抱えてきた、逃げ遅れた子どもを両親の方にぽいと渡し「ほらよ、プレセントだメリークリスマス」とか言って、足の火傷もものともせずに、突然現れた八頭のトナカイに曳かせたソリに乗るや、どこかへと走り去っていきました。以来、彼がまたいつ来てもいいように、その地域では一年に一度、枕元に彼に渡す為の靴下を吊るす習慣ができました。


 ある夜のことです。

 とある清涼飲料水販売会社のトラックが人気ない道を走っている時に、鈴の音と共に、空から男が一人落ちてきました。

 男は着陸すると、トラックの運転手に「最近人気のその飲み物を、あるだけ売ってくれ。クリスマスにそれ一本も買えないような奴らに配ろうと思う」

 荷台に積んであるだけの瓶入りジュースを袋に詰め込み、後を追うように降りてきた機体の側面に「メリークリスマス」と書かれたヘリコプターに積んで、どこかへと消えてきました。空気との摩擦熱で赤色に光る男の姿は印象的で、それ以来その会社のイメージキャラクターは赤い服を着ています。


 ある夜のことです。

 警察署の前に、空から、大量の袋落ちてくるという事案が発生しました。

 袋の中身を調べると、なんと最近街の治安を脅かしていた犯罪組織の主要メンバーがこぞって簀巻きにされて入っていたのです。袋にはカードが添えられていて「メリークリスマス」と書いてありました。

 悪人達を締めあげて何があったのかを説明させても、ただ鈴の音が聞こえたと思ったら突然アジトに侵入してきた謎の男に一網打尽にされたことしかわかりませんでした。


 ある夜のことです。

 北アメリカ航空宇宙防衛司令部は、毎年その時期になるとレーダーに謎の機影が映る現象に悩まされていましたが、ある年から上層部よりそれについて調査をしてはならない、という通達がありました。司令官の脳裏には、アメリカ空軍がある特定の人物に最新鋭の機体を提供しているという根も葉もない噂がふとよぎりましたが、同時に世界中でこの時期に人々を無償で援ける謎の赤い服の男の情報を思い出しました。そして、貧しい子ども時代に、枕元に誰が置いたかわからない謎のプレセントがあったことも。


 ある国では、12月24日の夜には、良い子にしていた子供の元へプレセントをもってきてくれる、赤衣の老人の伝承があります。

 その伝承にあやかって、夜中子どもたちが寝静まった頃に、お父さんやお母さんが枕元にこっそりプレセントを置く習慣がありました。それは、お父さんやお母さんが子供だった頃に、そのお父さんやお母さんにされたことだからです。

 それを遡って行くと、果たして最初にプレセントをこっそり置いたのは誰だったのでしょうか。


 ここで挙げられた人達は、皆違う時代の人達ですし、国も違います。

 わかっているのは、皆が真赤な服を着ていて、何か乗り物乗って空から現れること。

 いつしか、世界中の人達が知るようになりました。

 そういう、皆のために何かをする人がいることを。

 時代が変わっても、どこかの誰かが引き継いで、子ども達のために、世界中を飛び回っていることを。

 こぞって、皆が真似をしました。

 良い子のところには、こっそりプレセントを置いたりして、そして彼の名前を真似て「きっとサンタさんが来たんだよ」なんて言ったりして。


 

 サンタクロースを、皆さんは知っていますか?

 あるおじさんの命日に、鎮魂の鈴の音と共に、その時代最強の乗り物に乗って現れる、赤衣白髭のマッチョマン。

 良い子の所にはプレセントを置いて行き、悪党の所には御仕置きをプレゼントする。

 その時代、最も強く、最も暖かい心をもった、12月24日の夜にプレセント配りのためにちゃんと予定を空けておける男。

 きっと知っていますね。

 え? そんな奴は知らない?

 でしょうね、秘密にしていますから。

 だれもが大人の階段を上る第一歩目は「サンタさんはいない」ということを知ることです。

 靴下にプレセントを入れてくれるのは、身近なあなたのことを大切に想ってくれている人だと、皆が知っています。

 何故か、代々のサンタさんは恥ずかしがり屋が多くて、自分がプレセントをもってきたと言いたくありません。サンタなんていないと、空から降ってきた本人が、固く親御さんに口止めするのです。

 サンタさんは、夢の存在なのです。

 だから、大人は皆口裏を合わせています。世界中の大人が、自分達を守ってくれる、彼を守ると決めているのです。

 今年も近未来サンタ工学を駆使して開発された無音垂直離着陸機【SORI-1】を駆って、世界中にプレセントを配っていることでしょう。

 そう、サンタはいません。

 そういうことに、なっているのです。

 このお話はフィクションです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初代サンタさんが、超サンタさんなのですね。映画のジングルオールザウェイのシュワちゃんが思い浮かびました。 「三国一のタフな男」の略がサンタの意味だったとは(笑) 決まった時期の善行を全部ひ…
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