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白い牙  作者: 犬井猫朗
第一章
8/14

評価してくださった方、ありがとうございます。凄い嬉しいです。頑張れます。





 …………寒くなってきたな。


 乾燥した冷たい空気が風に流され、俺の白い躯を通過する。

 どうやら季節は春ではなく秋だったらしい。

 恐らく今の風は(こがらし)

 俺が春と勘違いした暖かい初秋から、肌寒いカラッとした晩秋へと移行したわけだ。


 俺がこの世界に転生し、零となって一ヶ月が経過した。


 時間が経つのは、やはり速いもんだ。

 この一ヶ月で俺の躯も幾ばか成長した。

 毎日の鍛練もとい運動の成果であり、いい感じに引き締まっている。

 毎日、足場の悪い獣道を駆け回ってるおかげかな。

 顔付きもシュッとし、切れ長の目が似合う凛々しいモノになった。


 ……ここまでくれば俺にも判る。


 完全に狼だ。

 この躯は犬ではなく狼だった。

 何となくは感じていた――耳や首、尾の太さ、脚の大きさなんかも、今思えば犬のそれじゃない。

 それに姿勢も犬に比べると、頭を低く下げており、気持ち前のめりだ。

 そういえば、玲衣も同種だって言ってたな。


 何で俺は気付けなかったんだろうな。


 まあ、気にしても仕方無い……。

 気づけなかったもんは、気づけなかったんだ。

 犬だろうと狼だろうと、俺がやることは変わらない。

 それに、もう狼だってわかったんだ。

 悔やむ事なんかじゃない。

 さっさと気持ちを切り替えよう―――。




「っんぅ~~~!」



 躯を伸ばし、洞穴から出る。

 燦々と耀いている朝陽が、容赦なく俺を迎えた。

 起きたての目には少し眩しく、思わず目を細める。



「鬱になりそうだ……」



 相も変わらずの快晴。

 別に晴れが嫌いな訳じゃないが、たまには雨の日も待ち遠しくなる。

 雨は結構好きな方だ。

 ただ今日は、降らなそうだな。

 軽く空を見上げる。

 群青の空に、白雲が悠々と浮かんでいる。

 まあ、絶好の狩り日和であるのは確かだ………。



「行くとしますか………」





 俺は獲物を探しに出た。

 自らの気配を消し、獲物の気配を探す。

 これは毎晩の瞑想で収得した、偶然の賜物。

 気配とは、無意識に漏れでた感情的・身体的エネルギーの事である。

 俺が毎晩寝る前に行っている瞑想とは、簡単に言えば感情的・身体的エネルギーの制御。

 それを巧く制御出来れば、漏れることがない。

 すなわち気配が消えるという事。

 気付いたのは、ここ数日の話た。


 二十分程歩き、ゴブリンを見付けた。

 ちゃんと気配を消せているのだろう、ゴブリンはまだ俺に気付いていない。

 



「…………また、お前か」



 思わず苦笑がもれる。

 俺は自分ルールで、最初に出会(でくわ)した獲物を食べると決めている。

 そして殆ど毎日、ゴブリンを食べてきた。

 四肢に力をいれる―――。

 ゴブリンとの距離は、およそ十メートル弱。

 もう気配を消す必要はない。

 ゴブリンは無防備に背中をみせている。



「余程、俺に食われたいみたいだな!」



 殺気を放ち唸りながら、強く地面を蹴った。

 急に向けられた殺気に、ゴブリンが反応した時にはもう手遅れだ。

 次の瞬間、俺の大牙がゴブリンの首を喰い千切った。。

 ゴブリンが最期に視た光景は恐らく、切断された首から血を噴く己の胴体であろう。



「――――ガァッ…?」



 俺は咥えていたゴブリンの頭を放る。

 地面に赤い線をひきながら、コロコロと転がっていく。

 血に伏している己の胴体にぶつかり、ようやく止まった。


 また一つ命を奪った。


 その事実を忘れちゃいけない。

 食うか食われるかの、弱肉強食の世界だ。

 命は想像以上に軽い。

 今は奪う側だが、いつ奪われる側にまわるかわからないのだ。


 ………もっと強くならないといけない!


 そんなことを考えながら、食事を始めた。



「いただきます―――」









 ―――――――――――――――。







 食事を終え、川辺で食後休憩をとっていると。

 複数の気配が近付いてきた。


 …………誰だ?


 おっ、一つだけ知っている気配だ。

 匂いもそれを物語っているから、まず間違いないだろう。

 だけど、その他の小さな気配達が不明である。

 風が運んでくる匂いで、同種なのはわかった。

 もう現れる―――。



「―――久し振りね零。休憩中かしら?」



 現れたのはやはり玲衣だった。

 およそ二週間ぶりかな。

 三匹の子狼を引き連れていた。



「ああ、少しな。で、なにしてんだ?」


「みてわからない?」


「んっ、お()りってとこだろ?」


「まあ、そんなところね」



 玲衣がやれやれといった色を表情に浮かべた。

 俺はちらっと子狼の方へ、軽く視線を向ける。

 三匹とも黒毛の狼だ、三つ子だろうか。

 特徴を述べれば、メッシュと言うのだろうか、額の一房(ひとふさ)だけ色の違う毛が存在する。

 三匹ともそれぞれ違う色をしている。

 赤い子、白い子、黄色い子。

 まあ、識別しやすいと言えばしやすいな。



「玲衣の子供か?」


「違うわよ。頼まれたのよ、ボスに。この子達はボスの子よ」


「そういう事ね…」



 ボスとは、玲衣が所属する群れのリーダーの事。

 ちなみに俺みたいな独りで暮らす奴は、孤狼(ころう)と呼ぶらしい。

 子狼と孤狼――読み方は一緒だが、あまり関わりたくない。

 子供は苦手だ。

 だけど、自己紹介位はしとかないとな。



「えーっと……零だ」



 ちらっと、三匹の方をみやる。

 多少ぶっきらぼうになってしまうが、致し方ないと思う。



「おれは椿(つばき)だ、よろしくな兄ちゃん!」



 赤い子が、元気よく答える。

 随分と明るそうな子だ。

 疑うというものをまだ知らないのだろう。

 純粋で懐きやすい子なのだろう、初見の俺に尻尾をぶんぶん振っている。

 能天気な長男タイプかな。



(しゅう)…………」



 白い子が名前だけ答える。

 ぼぉっとしているな、何を考えてるんだろうか。

 いや、何も考えてなさそうだ。

 舞っている蝶々を、『おぉ~』と言いながら目で追っている。

 マイペースな末っ子だろうか。



「貴方が零さんですか。僕は(ひさぎ)です。宜しくお願いします」



 最後に真面目そうな答えが返ってきた。

 黄色い子だ。

 少し俺を警戒してるのかな…まあ、知らない奴だし普通はそんなもんだろう。

 上記から言うとこいつは、優等生の次男タイプだな。



「ああ、宜しくな椿(つばき)(しゅう)(ひさぎ)。それで、俺に何か用があったか、玲衣?」



 再び玲衣に視線を向ける。



「いえ、特にこれといったモノはないのよね。偶々、近くに貴方の気配がしたものだから会いに来たってところかしら」


「そっか、なるほどね。それで、森を探検でもしてたのか?」


「少し違うけど、そうね……うん、丁度良かったかもしれないわね」


「ん?」


「零、貴方今暇かしら?」


「まあ、特にこれといったモノは無いな」


「良かった、少し付き合ってくれない?」


「まあ、いいけど……何すんだ?」



 玲衣がにこりと笑みを浮かべる。

 凄い愉しそうだ。

 一体、何を?



「ふふ、探検よ♪――――」





 





 


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