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…………寒くなってきたな。
乾燥した冷たい空気が風に流され、俺の白い躯を通過する。
どうやら季節は春ではなく秋だったらしい。
恐らく今の風は凩。
俺が春と勘違いした暖かい初秋から、肌寒いカラッとした晩秋へと移行したわけだ。
俺がこの世界に転生し、零となって一ヶ月が経過した。
時間が経つのは、やはり速いもんだ。
この一ヶ月で俺の躯も幾ばか成長した。
毎日の鍛練もとい運動の成果であり、いい感じに引き締まっている。
毎日、足場の悪い獣道を駆け回ってるおかげかな。
顔付きもシュッとし、切れ長の目が似合う凛々しいモノになった。
……ここまでくれば俺にも判る。
完全に狼だ。
この躯は犬ではなく狼だった。
何となくは感じていた――耳や首、尾の太さ、脚の大きさなんかも、今思えば犬のそれじゃない。
それに姿勢も犬に比べると、頭を低く下げており、気持ち前のめりだ。
そういえば、玲衣も同種だって言ってたな。
何で俺は気付けなかったんだろうな。
まあ、気にしても仕方無い……。
気づけなかったもんは、気づけなかったんだ。
犬だろうと狼だろうと、俺がやることは変わらない。
それに、もう狼だってわかったんだ。
悔やむ事なんかじゃない。
さっさと気持ちを切り替えよう―――。
「っんぅ~~~!」
躯を伸ばし、洞穴から出る。
燦々と耀いている朝陽が、容赦なく俺を迎えた。
起きたての目には少し眩しく、思わず目を細める。
「鬱になりそうだ……」
相も変わらずの快晴。
別に晴れが嫌いな訳じゃないが、たまには雨の日も待ち遠しくなる。
雨は結構好きな方だ。
ただ今日は、降らなそうだな。
軽く空を見上げる。
群青の空に、白雲が悠々と浮かんでいる。
まあ、絶好の狩り日和であるのは確かだ………。
「行くとしますか………」
俺は獲物を探しに出た。
自らの気配を消し、獲物の気配を探す。
これは毎晩の瞑想で収得した、偶然の賜物。
気配とは、無意識に漏れでた感情的・身体的エネルギーの事である。
俺が毎晩寝る前に行っている瞑想とは、簡単に言えば感情的・身体的エネルギーの制御。
それを巧く制御出来れば、漏れることがない。
すなわち気配が消えるという事。
気付いたのは、ここ数日の話た。
二十分程歩き、ゴブリンを見付けた。
ちゃんと気配を消せているのだろう、ゴブリンはまだ俺に気付いていない。
「…………また、お前か」
思わず苦笑がもれる。
俺は自分ルールで、最初に出会した獲物を食べると決めている。
そして殆ど毎日、ゴブリンを食べてきた。
四肢に力をいれる―――。
ゴブリンとの距離は、およそ十メートル弱。
もう気配を消す必要はない。
ゴブリンは無防備に背中をみせている。
「余程、俺に食われたいみたいだな!」
殺気を放ち唸りながら、強く地面を蹴った。
急に向けられた殺気に、ゴブリンが反応した時にはもう手遅れだ。
次の瞬間、俺の大牙がゴブリンの首を喰い千切った。。
ゴブリンが最期に視た光景は恐らく、切断された首から血を噴く己の胴体であろう。
「――――ガァッ…?」
俺は咥えていたゴブリンの頭を放る。
地面に赤い線をひきながら、コロコロと転がっていく。
血に伏している己の胴体にぶつかり、ようやく止まった。
また一つ命を奪った。
その事実を忘れちゃいけない。
食うか食われるかの、弱肉強食の世界だ。
命は想像以上に軽い。
今は奪う側だが、いつ奪われる側にまわるかわからないのだ。
………もっと強くならないといけない!
そんなことを考えながら、食事を始めた。
「いただきます―――」
―――――――――――――――。
食事を終え、川辺で食後休憩をとっていると。
複数の気配が近付いてきた。
…………誰だ?
おっ、一つだけ知っている気配だ。
匂いもそれを物語っているから、まず間違いないだろう。
だけど、その他の小さな気配達が不明である。
風が運んでくる匂いで、同種なのはわかった。
もう現れる―――。
「―――久し振りね零。休憩中かしら?」
現れたのはやはり玲衣だった。
およそ二週間ぶりかな。
三匹の子狼を引き連れていた。
「ああ、少しな。で、なにしてんだ?」
「みてわからない?」
「んっ、お守りってとこだろ?」
「まあ、そんなところね」
玲衣がやれやれといった色を表情に浮かべた。
俺はちらっと子狼の方へ、軽く視線を向ける。
三匹とも黒毛の狼だ、三つ子だろうか。
特徴を述べれば、メッシュと言うのだろうか、額の一房だけ色の違う毛が存在する。
三匹ともそれぞれ違う色をしている。
赤い子、白い子、黄色い子。
まあ、識別しやすいと言えばしやすいな。
「玲衣の子供か?」
「違うわよ。頼まれたのよ、ボスに。この子達はボスの子よ」
「そういう事ね…」
ボスとは、玲衣が所属する群れのリーダーの事。
ちなみに俺みたいな独りで暮らす奴は、孤狼と呼ぶらしい。
子狼と孤狼――読み方は一緒だが、あまり関わりたくない。
子供は苦手だ。
だけど、自己紹介位はしとかないとな。
「えーっと……零だ」
ちらっと、三匹の方をみやる。
多少ぶっきらぼうになってしまうが、致し方ないと思う。
「おれは椿だ、よろしくな兄ちゃん!」
赤い子が、元気よく答える。
随分と明るそうな子だ。
疑うというものをまだ知らないのだろう。
純粋で懐きやすい子なのだろう、初見の俺に尻尾をぶんぶん振っている。
能天気な長男タイプかな。
「柊…………」
白い子が名前だけ答える。
ぼぉっとしているな、何を考えてるんだろうか。
いや、何も考えてなさそうだ。
舞っている蝶々を、『おぉ~』と言いながら目で追っている。
マイペースな末っ子だろうか。
「貴方が零さんですか。僕は楸です。宜しくお願いします」
最後に真面目そうな答えが返ってきた。
黄色い子だ。
少し俺を警戒してるのかな…まあ、知らない奴だし普通はそんなもんだろう。
上記から言うとこいつは、優等生の次男タイプだな。
「ああ、宜しくな椿、柊、楸。それで、俺に何か用があったか、玲衣?」
再び玲衣に視線を向ける。
「いえ、特にこれといったモノはないのよね。偶々、近くに貴方の気配がしたものだから会いに来たってところかしら」
「そっか、なるほどね。それで、森を探検でもしてたのか?」
「少し違うけど、そうね……うん、丁度良かったかもしれないわね」
「ん?」
「零、貴方今暇かしら?」
「まあ、特にこれといったモノは無いな」
「良かった、少し付き合ってくれない?」
「まあ、いいけど……何すんだ?」
玲衣がにこりと笑みを浮かべる。
凄い愉しそうだ。
一体、何を?
「ふふ、探検よ♪――――」
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