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白い牙  作者: 犬井猫朗
第一章
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「――――戻ったか、ルイス」



 地底から響くような重い声が、天幕に入ったルイスを出迎えた。

 若干後退している白髪混じりの短髪。

 厳つい風貌をした、筋肉隆々な御老体。

 身長は、2メートル程ある。

 僕の身長181センチでさえ、決して小さい訳ではないないのだが、並ぶと小さく見えてしまう。



「はい、今朝戻りました」



 この強面の偉丈夫こそ、我が盗賊“黒い霧”の頭、バルモス・ドグラである。 

 座っているだけでこの威圧感、本当に御老体か?

 六十代後半とは思えないな。



「うむ。それで捜し物は?」


「いや、全然ですね……まぁ、気長に捜しますよ」



 頭が静かに「そうか…」と頷く。

 僕が街に行った野暮用の件のことである。

 頭には行く前、伝えていた。

 野暮用とは、闇市へ行く事。

 闇市では、表では出回らない様々なモノが売買られている―――人、武器、麻薬、窃盗品、毒物、情報、奴隷、骨董品や曰く付きの品等、多岐に渡っている。

 僕はある武器を探しているのだ。

 腰に差す刃長一メートルの黒い刀、僕の愛刀“幻餓(げんが)”の柄を優しく撫でる様に触れる。


 …………この娘も一振(ひと)りじゃ、寂しいだろうね。


 僕はこの娘の旦那様を探している。

 早く見付かればいいんだけど、中々見付からないのだ。

 大体、刀の数自体が元々少ない。

 まあ此の世界の主流武器が、両刃の剣だからな。

 悲劇な事に今現在、刀は廃れており、刀匠自体がいるかどうかすら不明。


 …………どうにかならないかね。


 僕が刀を打てれば一番いいんだけど、技術自体知らないしな。

 やっぱり、地道に探すしかないってことだな。

 そんなことを考えていたら、頭が微妙な表情を浮かべていた。



「…………どうしました?」


「いや、うむ。何でもない………はぁ」



 ついには、溜め息までもらす。

 一体どうしたのだろうか?



「ところでルイス、アルヘド村を覚えとるか?」


「アルヘド村ですか……ええ、まあ一応覚えてますよ」



 頭の目が真剣になる、恐らく真面目な話だ。

 僕も気持ちを入れ換える。


 …………恐らくこれが呼ばれた理由だろう。


 アルヘド村、ケルウス王国北西部にある村だ。

 ウォークヘッド伯爵領で、人口五十人程の長閑な村。

 特産品のアクアオレンジを使った果実酒、アルヘド酒が有名だ。


 ……………僕は呑んだ事ないけど、頭達はこれは女が呑むやつだって言ってた気がする。


 去年の二月位に立ち寄ってから、一度も行ってないな。

 今は十月だから、一年半以上は行ってない事になるのか。

 それに――――



「僕の初仕事の場所でもありますから」


「…………そうであった」


「それで、アルヘド村がどうしたんですか?」


「先ずこれを見とくれ」



 頭が透明な小瓶を、机の上にだした。

 小瓶には【アルヘド酒 763】と書かれている。

 今は766年だから、三年前に造られたモノだ。



「三年モノのアルヘド酒ですね」


「うむ。数年前からケルウス王国の北部一帯が飢饉に悩んでるのは、ルイスお主も知ってると思う。そのせいで治安が悪化しつつあったことものぉ」



 ウォークヘッド領も、例外でなかった。

 ここ数年北部では、気候の変動が激しい。

 それが原因かはわからないが、北部の殆んどで不作凶作が続いていた。

 ウォークヘッド領でも、毎年百人近くもの餓死者が出ている。

 総人口五千人程であるウォークヘッドでは、決して少なくない数だ。

 そして、アルヘド村でも不作がつづいている。



「……この年以降のアルヘド酒はあまり出回っておらん」



 確かに、アクアオレンジがなければアルヘド酒は作れない。

 となるとアルヘド酒の売上げで生活していた村人は、生活出来なくなるな。



「村人が心配ですね?」


「心配は無用だ……」


「何故ですか、もしかしてアルヘド酒に代わる何かが――――」


「村が滅んだ!」


「えっ……?」


「三日前に、村人全員が殺されとるのを、視察に向かった伯爵の私兵が確認したらしいの」


「また賊ですか?」


「伯爵の私兵が言うにはの………しかしだルイス、何だかキナ臭いとは思わんか?」


「ウォークヘッド伯爵ですか……?」


「うむ、これで四つ目だ。その全てを伯爵の私兵が発見しておる。のうルイス、お主は魔力の無くなった魔石をどうする?」



 魔石とは、魔力の籠められた石であり。

 幾多の魔法具の動力源として活用されている。

 今の世の中、明かりや冷蔵庫、洗濯機や湯沸し器等の様々な生活魔法具が開発されており、その全てが魔石で動かしているのだ。

 そして、その魔石の殆んどが使い捨ての消耗品。

 魔力が無くなれば、ただの石ころ。



「それは普通に捨てまっ…っまさか」



 頭が何を言おうとしてるのか理解した。

 要するに、ウォークヘッド伯爵にとって領民は、税や食糧という魔力を生む使い捨ての魔石程度に思っており。

 そして、“税や食糧(魔力)”を生まなくなった“領民(魔石)”を処分してるんじゃないかと。



「うむ、恐らく口減らしだ。後は見せしめでもあるのだろう」



 ここまで続けば、勘づくものも出てくるだろう。

 その者達に『貴様らもちゃんと魔力を出さないとこうなるぞ!』と、警告しているのだ。

 それに、彼等が殺したという証拠もない。

 盗賊が殺したと罪を擦り付ければ、それで済んでしまう。

 更に、領主にはある程度の領民の生殺与奪の権利が与えられているのだ。

 いくら平民が嘆き訴えても、屑な貴族や無能な王族共が動く訳がない。

 動こうとすらしないだろう。



「っ?!」



 僕は沸き上がる激情に、言葉を詰まらせる。

 自分でも頭に血が昇るのがわかった。


 …………彼奴等は、今の情勢に気付かずノウノウと悠々自適に暮らしてるんだろうな!


 虫酸が走る。

 彼奴等は、本当に俺と同じ血が流れてるのだろうか。

 よく貴族共が言う『貴族には青い血が流れているのさ』は、ある意味正しくさえある。



「………さて、ルイス。お主を呼んだのは他でもない。新たな任務をお主に与えるためだ!ウォークヘッド伯爵家を叩き潰しその命も全て奪い尽くせ!」



 頭がここまで言うのだ、何かを掴んだ上の言だとは思うのだが、これが間違いであり、杞憂であってほしいとさえ願ってしまう。

 だが、恐らく………頭の言が真実に近い事は明白。

 だから、僕の返答は――。



「承知しました!」



 絶対に僕が、強奪してやる!



「話は以上だ」


「失礼します」



 一礼をし天幕を出ようとしたが―――。



「そういえばルイス、儂の可愛いセリナに怪我をさせたらしいのぉ、んっ?!」



 ドスのきいた重低音が、僕の脚をとめさせた。

 背筋が凍り、冷や汗が結露の様に浮かんでくる。



「いや、あ、あれは、その訓練を…………」


「覚悟は出来ておるか?」


「やっ頭ちょっとまっ、すみませんでしっっぎゃぁぁぁ…………」



 くしくも僕の嫌な予感が当たってしまったのだった。













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