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自信がない、駄文な気がする。
◆
僕の名前は、ルイス。
百人近くからなる盗賊“黒い霧”の一員だ。
ケルウス王国南辺境に広がる、ドルゴの森を拠点に天幕で暮らしている。
ドルゴの森は、世界五大死地の一つ。
原因は、終焉の樹である。
一度、樹の領域に踏みいれば、死から逃れる事は出来ない。
そう云われており、また事実でもある。
知らぬものは、数える程だと思う。
誰が好き好んで近付くか……いるとすれば、よっぽどの馬鹿か、自殺志願者だな。
後は、ウチの客だが……まあ、彼等も好き好んではいないからカウントはしない。
だからこそ、盗賊の拠点としては申し分ない。
死地に盗賊の拠点があるなんて、誰が想像するか……。
知ってるのは、ウチの客か同業者位だろう。
皆、ウチが捕まれば、自らも危うくなるのだから、口は重いだろう。
「―――ルイス隊長、頭が呼んでましたよ」
「わかった、今行くよ……」
秀頭の男――ドッポさんが報せを持ってきた。
二十歳の僕の 倍以上の年齢なのに、僕に対して敬語を使うのは、やっぱり慣れないな。
ドッポさんが、そうするのも理解している。
――――第三部隊隊長。
僕の肩書である。
僕には大層な肩書だと思う。
黒い霧に、隊長は五人しかいない。
位的には、頭の次に偉いと言えば解るだろうか…。
………荷が重すぎる。
僕の下には、十人いる。
言えば十人の命を預かっているのだ。
隊長になったのは一年位前、前隊長バンルさんが引退時に、冗談半分で僕を指名したせいだ。
………一生恨みますよ、バンルさん!
皆も僕みたいな若造に命を預けるなんて嫌だろうに、何故か反意は出てこなかった。
不平不満を飲み込んで、新隊長の僕を支えてくれている。
皆の優しさが目にしみるよ……。
そんな優しい部下の一人が、ドッポさんである。
黒い霧の古株で、第三部隊の副隊長を担ってくれているのだ。
任務の計画や助言等、色々助けられている。
隊長は威厳が大事だと、部下に敬語を使うな!と、教えてくれたのもドッポさんだ。
…………本当に、ドッポさんには頭が上がらない。
だからといって、今の生活に不満があるわけじゃない。
頭には拾って育てて貰った恩があるし、仲間もうまの合う奴ばかりだ。
魔獣を狩ったり、盗みを働いたり、傭兵の様なこともしている。
盗みに関しては、腐りきっている貴族の奴等がターゲットの大半だ。
だから、別に心が痛んだりはしていない。
僕は今の暮らしに、ある種の満足感さえ得ているのだから。
「…………う~ん」
仲間たちが住む幾多の天幕群の中を歩く。
此処に住む人間全員が、盗賊員って訳ではない。
引退した人や、盗賊員の家族等もいる。
此処に住む人間全員を数えれば、二百人位居るんじゃないかと思う。
だから天幕の数も、ゆうに百はある。
百の天幕が点在する光景は、実に壮観で圧倒的だ。
その天幕群の中を、思案顔で唸りながら僕は歩いていた。
僕は何故頭に呼ばれたのだろうか。
依頼だろうか?
それとも叱責か?
この間の訓練で、お嬢に怪我をさせちゃった件が頭に浮かぶ。
訓練に怪我は付き物、仕方がないことなのだが……頭はお嬢を溺愛し、甘いからな。
普段の厳格な頭からは、想像できないギャップだ。
…………その件は、大丈夫な筈。
お嬢も気にししないでと言ってたし、頭も理解してくれている……と信じたい。
今回呼ばれたのは、依頼の筈だ。
謎の寒気と嫌な予感がしたが、気のせいだよな?!
頭の天幕は天幕群の中央にある。
一際大きく、周りの天幕の五つ分程ある天幕が三つ。
家族と住む天幕と、仕事用、宝物庫。
三つ葉の様に隣接している。
そして、頭の天幕の周りは軽い広場の様になっていた。
僕は今、その広場についた―――。
此処に来たときに必ず飛び込んでくる者の姿を探す。
―――いた。
広場の芝生で双子の兄と遊んでいる、茶髪のショートが似合う美少女。
少女は、何かを察知したらしい。
バッ!と、顔を上げた。
瑠璃色の綺麗な瞳が、僕の姿をとらえる。
笑みを浮かべ、僕は手を振った。
少女は満面の笑顔を咲かせ、僕のもとに駆け寄ってくる。
「――――ルイスさん、おかえり!」
「っと! セリナちゃん、ただいま」
駆け寄ってきた勢いのまま飛び付いた少女を、受けとめ抱える。
勢いついていたとはいえまだ五歳、たたらを踏むこともなく楽に受け止める事が出来た。
少女の名前はセリナ、頭の愛娘である。
会うのは一週間ぶりだ。
僕は一週間、野暮用で街にでていたからな。
「リト君もただいま」
「ルイス、おみやげは?」
セリナちゃんを優しく地面におろし、ゆっくり歩みよってきた少年にも声をかける。
セリナの双子の兄、リト。
クールで無表情な、短髪の美少年君だ。
髪の色は、セリナと同じ茶髪である。
第一声でお土産をせがまれたが、人見知りな性格で、親い者以外口もきかないことから、これでも懐かれてるのだろうと感じる。
恐らくこれも照れ隠しだな。
「ちょっと待ってね………はい」
「うむ」
「セリナちゃんもはい」
「ありがとぉ~、ルイスさん!」
「ハハ、どういたしまして」
懐をまさぐり、大小二つの包袋をだす。
大きい方をリト君に、小さい方をセリナちゃんにそれぞれ渡した。
頷きながら両手で大事そうに袋を抱える兄。
袋を両手で掲げて、瞳をキラキラさせながらくるくると回る妹。
実に対照的だが、喜んでくれているのだろう。
リト君には本を、セリナちゃんには髪飾りを買ってきた。
リト君は読書好きだし、セリナちゃんにはこの髪飾りが似合うと思ったからな。
…………後であけるのかな?
二人は未だに袋を大事そうにしている。
どうやら、今あける気はないらしい。
二人の感想を聞けないのは残念だか仕方ない。
いつあけるかは二人の自由だ。
それに僕も頭に呼ばれていて、もう行かないといけないしな。
「くんれんしに来たの?」
「くんれん!ルイスさん、くんれんしてくれるの?!」
「ごめん今日は違うんだ。ちょっと二人のパパに呼ばれてるんだ」
「そっかぁ……」
「ふーん……」
「でも、後で時間があれば訓練しよっか!」
「……っ!うん!ぜったいだよ約束ね!また、あとでね!」
「しょうがないからおれもやる…………あとでな」
二人とも元気よく走り去っていった。
恐らく家で、袋を開けにいったのだろうな。
二人とも本当可愛いな。
何で頭からあんな可愛い生物が産まれるのだろうか、生命の不思議だ。
おっと!そろそろ本当に頭の元に行かないとまずい。
昇ったばかりの太陽を背に、頭のいる天幕の前で足を止める。
気合いを入れ、天幕の中に入った。
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