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白い牙  作者: 犬井猫朗
第一章
5/14







 玲衣と別れ、結構経った。

 一時間位だろうか……時計が無いから、感覚に頼るしかないのだが。

 月の位置からみて、恐らく大体はあってるだろう。

 俺は今、昨日見つけた寝床(大木の洞穴)で、座り息を調えていた。


 ……………さて、始めようか。


 空気を大きく吸い込み―――――。

 ゆっくりと息を吐きつつ、瞼を閉じていく。

 視界が黒く塗り潰され、暗闇の世界が現れた。

 同時に、雑多な思考が暗闇を塗り潰していく。


 ……………多いな。


 暗闇に流れ続ける文字列、明滅し幾重に切り替わる映像、聴こえてくる幾多の声や音。

 全て自分の内から発する、記憶や思考または空想。

 これ等全て、己が集中出来ていない証拠。 

 これでは外界――現実の情報が入ってこない。


 ……………落ち着け。


 もう一度、息を深く吸い込む。

 波風がたっていた心が、幾らか平静としていくのが解る。

 そして、未だに流れる文字列に意識を向けた。

 ある文字を選びとる。


 ―――融蛭(ユウビル)


 玲衣から教わった生物である。

 終焉の樹とともに、この森で警戒すべき存在。

 一センチ台で、半透明の赤色の蛭。

 その名通り、対象を融かし吸いとるのだ。

 ただ、一匹だけではたかが知れてる。

 融蛭が恐ろしいのは、その数である。



『一匹いたら、百はいると思って!』



 玲衣の言葉だ。

 映像と声が、勝手に再生される。

 融蛭は百前後の群で生息し、一斉に獲物に飛び付くらしい。

 俺ぐらいの大きさであれば、ものの数時間で食い尽くすとのこと。


 ……………怖ぇな。


 地球の蛭をあまり知らない故に比較は出来ないが、融蛭が怖ろしいのは確かだ。

 元気のない木に、棲息してるらしい。

 

 ……………木の体調ってわからないな。


 取り合えず、上も注意しとけばいいか。

 この件は、この辺でいいだろう。

 意識が逸れた……。

 暗闇に流れる情報は、この様なモノばかりだな。

 やはり脳内の整理がついていないか。

 咄嗟な集中は出来ても、意識的な集中は時間が掛かりそうだな。



「ふぅ………」



 三度(みたび)、深呼吸をする。

 余計な事を考えては駄目だ。


 ……………絞れ!


 少しずつ流れる思考を消していく。

 その隙間に、外界の情報を流し込ませる。

 視覚以外に神経を集中させていく。

 息を止める―――。


 ……………もっと深く!


 意識を潜在させ、感覚を研ぎ澄ませていく。

 余計な思考(モノ)はいらない。

 内から発せられるモノ、今は全て切り捨てる。

 全ての神経を意識を、外に向けていく。

 イメージは躰を空気に溶け込ませる様に………。


 ………………集中……もっと。


 止めていた呼吸を、再び始める。


 ……………後少し。


 ゆっくりと空気を吸っていく。

 そして、長く長く吐き続ける。


 暗闇が徐々に白けていく………。










 …………………………。









 暗闇が完全に白ける。

 漸く集中的瞑想状態に入る事が出来たみたいだ。


 …………ここからだ!


 集中的瞑想の段階に入ると、行き場の失った感情的・身体的エネルギーの暴発が起こる。

 者によっては、体の一部が突発的に動いたり。

 急に体が、燃える様に熱くなったりするのだ。

 ただ暴発させるのは勿体ない。


 …………制御しろ!


 制御下に置いたそのエネルギーを、瞳に向かわせれば、世界が遅く感じるのだ。

 これは試した事は、何度もある。

 じゃあ、鼻や耳等に向かわせたらどうなるのだろうか。

 前世では、ただ匂いや音がはっきり聴こえた位であった。

 だが、この聴覚や嗅覚が発達した今世ではどうなるか。

 予想では、世界が広がるのではないかと考えている。

 所謂(いわゆる)、心眼っていう奴だ。


 …………やる価値はある。


 躰中が熱くなってきた。

 その熱こそが、感情的・身体的エネルギー。

 それが動く道をイメージする。


 ……………ここまではいつも通りだ。


 耳や鼻が熱くなっていく。

 比例して、胴体などが冷えていくのがわかった。

 さて、どうなるか――――







 ――――――――――――――。








 柔らかな夜風が、俺の白毛を揺らす。

 風とともに、色々な情報が鼻に届いた。

 洞穴の周りに咲いている花達の甘い匂い、葉が色付いてきた木の渋い匂い、夜露に濡れた雑草の匂い等。

 鋭敏になった聴覚も、様々な音をとらえた。

 虫や鳥の羽音、枯れ葉の擦れる音、小獣が移動する音等。

 それらの気配を探し、世界を描いていく。


 ……………ムズい!


 白けた世界に、薄らとぼやけた周囲の景色が描かれた。

 今はこれが限界だ。

 確かに微かに見えたが、これでは使い物にならない。

 やはり、今まで視界に頼りきっていたのだな。

 集中だけの話ではない。

 世界は弱肉強食、このままでは目が潰されたときに何も出来なくなってしまう。

 それでは困る。

 俺は生き抜くと決めたのだ。

 そのためには絶対、心眼をてにいれないといけない。

 だが、急に出来るなんて思わない。

 なら、どうする。

 地道に鍛えるしかないだろう。


 ……………頑張るか。


 気合いを入れ直す。

 どうやら視力より、此方の方が燃費がいいらしい。

 まだいけそうだ。

 今日は集中力が切れるまでやるとしよう。

 寝るのはそれまでお預けだ―――。




 俺は再び、心眼の鍛練を始めた。






 そして俺が寝れたのは、三十分後であった。


 





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