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白い牙  作者: 犬井猫朗
第一章
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 ………落ち着け。

 一旦状況を整理しようか。


 俺はトラックに轢かれて死んだ。

 これは間違いなく現実だと言える……あの激痛は今も鮮明に思い出せる。

 だが、気付いたとき俺の姿は変わっていた。

 犬もしくは狼、純白の体毛を持った大型犬程の獣。


 それが今の俺だ。


 その姿で、此処に倒れていた。

 明らかに日本ではない……いや、地球ですらないかもしれない。

 見知らぬ巨大な木々に囲まれ、幻想的な蒼い月が全てを照らし、遠くには壁の様に聳え立つ山々。

 果てにドラゴンまで飛んでいた。

 俺は異世界にでも転生したのかもしれないな。


 …………考えすぎか?


 俺はもう一度川を見た。

 透き通った綺麗な水が、緩やかに流れている。




 パシャ!




 色鮮やかな魚が、水から飛び出し、蒼い月明かりの下、 綺麗に跳ねあがった。

 俺は、その光景を自然と集中して観ていた。

 世界が、時がゆっくりと動く。

 水飛沫の一滴一滴まで鮮明にみえる。

 何時もよりだいぶ集中したのか、まるで時間が停まっているように感じる。

 静かな世界、空を舞っている水滴が一つ一つ形が違うのもわかる。

 その水滴の一つが、俺の目の前にある。

 このままなら俺にかかるだう。


 ふと………俺の脳内にある考えが浮かんだ。


(この体なら、もしかして。)


 人間の時は動けなかったが、今は身体能力も動体視力も格段に違う体になっている。

 モノは試しだ。

 俺は目の前の水滴を避ける事にした。



「……………っん!」



 やはり、動けるようだ。

 まだ慣れてない故に多少ぎこちないが、確かに動ける。

 この躯は凄い、凄いぞ!

 脳内信号の伝達速度が速い、それに答えられる神経や筋肉がある。

 最初の水滴は微かに当たってしまったが、慣れて筋肉が適応したのか、それから普通に動けるようになった。

 これから熟練度を上げていけば、更に速く動けるだろうか。


 ただ、当たった水滴が微かにだが弾力が増していた気がする。

 恐らくだが、反発力や抵抗力も時の流れが遅くなっている分長くかかり、水の微かだった弾発力が増しているのだろう。


 …………ならば。


 俺の頭に浮かんだ考えが正しければ、水の上を走れる筈。

 水上を走る……それは大抵の者が憧れる夢。

 一度は試して、失敗したものは多いはず。

 俺もその一人であった。

 早速、俺は試すことにする。

 失敗しても、ずぶ濡れになるだけ。

 それに今宵は涼しい。

 凍える事もないだろう。

 俺はニヤリと口角をあげる。


 では早速――――――

















――――――――――――。

















「――――――ゲホッ!」



 結果は失敗も失敗だった。

 俺はすぐに沈み、溺れそうになった。


 ………深すぎたろ。


 俺はあまり泳ぎが上手ではないようだ。

 死にもの狂いで何とか川岸につき、ずぶ濡れになった躯の水滴を振り飛ばし息をととのえた。

 落ちた衝撃でか集中が切れており、魚も何処かにいってしまった。

 今は川辺の岩の上で、幽かに震えながら伏せている。

 いくら涼しい夜と言っても、濡れた躯に冷えた風が当たれば寒い。


 ………………だが、後悔はしていない。


 確かに弾力はあった。

 これから神経伝達速度や集中力、身体能力を鍛えれば走れるかもしれない。

 いや、確実に走れると信じよう。

 夢はもうすぐ叶うだろう。


 よし、もう一度――――






「…………………あれ?」



 ………おかしい。

 何度か集中しようと試みたが。

 いっこうに出来る気配がない。


 何故だ?



「う~~~ん」



 もしかして、集中力の限界?

 嘘だろ?!前までは静止した時間で、五・六分はいけたぞ。

 まだ、一分も使ってないぞ。

 でも、それしか考えられない。

 動けるぶん、集中力を大幅に消費するのかもな。


 そう自分を納得させる。


 今日はここまでにしとこう。

 どのみち夜も深いし、寝床を探さないといけないからな。



「見付かるといいが……………」











――――――――――――――。










 俺は、森を散策していた。

 蒼月の淡い光のなか、自然を満喫しながら歩いている。

 だが、地球で見知った動植物は見当たらなかった。

 ただ単に、俺が無知なだけかもしれないが………。

 さすがに、一つ目の赤い兎を見たときは「やっぱり 此処は異世界か……」と、そう噛み締めた。

 そんなこんなと探索し、数分後―――



「―――おっ!」



 良さげな場所を見付けた。

 大木の下にできた、洞窟(どうくつ)だ。

 いや、大木に出来た穴は洞穴(ほらあな)って言うんだっけ?

 まあ、どっちでもいいか。

 とりあえず、見付けたのだ。


 そっと、中を覗く……。


 いきなり入って、先客がいたら困るからな。

 それが、狂暴な類いの奴だったら尚更だ。

 気配は感じないが、一応な。



「………よし、誰もいない、な。てか、意外に広いな」



 大の大人が十人位入っても、窮屈に感じないんじゃないか?!

 それ位に、広い空間が出来ていた。

 奥の方は、真っ暗で何も見えないが大丈夫だろう。

 こんなに早く見付かるとは、幸先がいいな。

 早速中に入る――――。



「ぅおっ!」



 最初の一歩で驚いた。

 踏みいった脚が軽く沈むほど、洞穴の床が柔らかい。

 どうやら、枯れ葉等がたまったのか、床一面に敷き詰められている。

 まさに自然の絨毯。

 これなら、ぐっすり寝れそうだ。



「ぐっすりね………」



 昨日まで布団で寝てたというのに、そう思っている自分に少し驚く。

 自分が思ってる以上に、体に影響されているらしい。

 俺はこのまま人間の感覚から、離れていくのだろうか。

 そのうち、俺の中の人間が全て消え去り、完全に獣になるのだろうか。

 その時、俺という人格がどうなるのかはわからない。

 怖い反面、嬉しくも感じている。



「――――くっくく♪」



 明日が楽しみで仕方がない。

 こんなに明日を待ちわびた事は、前世でも余りないかも知れない。

 明日は何をしようか。

 森を見てまわるか?

 それとも、狩りでもやってみるか?

 それとも、森をでてみようか?

 それとも、それとも……それとも……。


 …………………………………。


 そんなことを考えながら、俺は眠りについた。






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