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今回は話は動きます。でも内容は薄いかも知れないです。
◆
昔の記憶をみていた。
今は亡き、祖父との数少ない想い出。
冷たく薄暗い部屋。
そこに祖父はいる、それだけで暖かい仄かな灯りを灯す暖炉の前にいる様な気がした。
「―――お祖父様御話きかせて」
「ほほぉ、いいぞ可愛い孫の頼みじゃからの」
祖父はシワシワの顔を更にしわくちゃにして微笑んだ。
「やった♪」
「そうじゃのぉ~今日は何の話にしようかのぉ……」
「(ワクワク♪)」
孫のキラキラした瞳に見つめられながら、今から語るお伽噺を決める。
「ふむ、あの話にしようかのぉ……」
この数日後、祖父は他界した。
その日、話してくれたお伽噺――――『狂った王様』は、少年の心に深く刻まれた。
―――――――――――――――◆
玲衣を背負い、洞窟を出た。
森は夕焼け、烏が夜の始まりを教えてくれる。
「………こっちだよ」
椿の案内のもと、俺達はある場所に向かうことにした。
玲衣や三兄弟の住処。
流石に怪我を負った玲衣を、そのまま放置するなんて事はしない。
「おう、ありがとな。でも、そんな急がなくていいぞ」
小走りで前を行く椿に、声をかける。
玲衣の怪我が心配で、不安から焦ってるのかとも思ったが、どうやら違うらしい。
群の雄達が、狩りの度にこれくらいの怪我を負ってくるらしく見馴れているとのこと。
確かに命に別状はない。
じゃあ、何故小走りなのか。
その理由は――――
「兄ちゃんスゲーなっ!!」
「………バラバラ」
「一瞬すぎて何がどうなったのですか?!」
俺の強さを仲間に自慢したいらしい。
「知りたいか?」
「「うん!!」」
三兄弟の声が揃う。
こういうところは、似てるな。
「ククッ、それは――――」
「それは?」
「―――集中力さ!」
顔を上げ、ドヤ顔を決める。
「「しゅうちゅうりょく?!」」
「ああ、集中力さえ鍛えれば俺みたいに強くなれるぞ!」
「おおーしゅうちゅうりょくってスゲー!」
「………おおー」
「集中力はどうすれば鍛えられるんですか?」
「そうだな………」
少し考え、ある答えに辿り着く。
「ちゃんと食って好きなことして寝てれば自然につくさ!」
俺は説明が苦手だ。
別に嘘は言っていないしいいだろ。
言い訳じゃないが、俺は初めから集中力が高かったからな。
集中力をつけるとなると、首を捻ってしまう。
「なんだよそれーケチ兄ちゃん」
「………ほぉ」
「子供だましですか…」
「いや、本当だぞ」
「「ぶー」」
楸と椿から不評が飛んでくる。
柊は何故か納得し、自分の世界に入っていた。
………えつ?理解したのか?
そんな会話をしながら、歩く事数分。
玲衣が目を覚ました。
「……………っん」
背中からもぞっと動く振動が伝わってくる。
「起きたみたいだな」
「………ん?えっ?あっ!」
現状を数秒かけて理解した玲衣。
「御免なさい!?」
そう言って降りようとする。
「あっいいよそのままで」
「でも……」
「怪我してる奴が遠慮すんな」
「………そう、ありがと」
小声で感謝をのべる玲衣に、笑みを溢しつつ歩みを止めない。
「ねえちゃん起きたのか?!」
「………おはよ」
「玲衣さん大丈夫ですか?」
三兄弟が玲衣に話し掛ける。
「ええ、おはよ……まあ、大丈夫よこれくら、いっ!」
額の傷の痛みに呻いた。
命に別状は無いとはいえ、重傷手前一歩なのは確実なのだ。
「玲衣、あまり無理すんなよ」
「ふふ、大丈夫よ貴方意外に心配性ね」
「………そうか?」
「そうよ……」
一瞬黙り、再び口を開く。
「………負けたのね」
「ああ」
「雄達が、狩りの度に狩ってくるから、勝てると思ったのだけどね」
その声に、覇気はなく風でも吹けば消されそうな程儚い。
「………」
「決闘では負けたことないのよ?」
「そうか」
「雌の癖にって負け惜しみも何回も言われたわ」
その声は少し震えている。
「でも、狩りには同行させてもらえなかった。私が雌だから」
「それは」
「いいの、それが群の…狼属の常識なのは理解してる………それでも、私はただ施しを受けるだけの生活など嫌だった。だから、もっと強くなれば、もっともっと強くなればそのうちって………でも、そのうちなんて来なかったわ。何度も、どうして私は雌に産まれたのか、どうして雄じゃなかったのか……何度も呪ったわ」
玲衣の独白は続いた。
「それに、何度も諦めようともしたわ……でも、それは私自身が許せなかった……だって私には英雄の血が流れているんだもの」
「英雄?」
「ええ、遥か昔に存在した英雄。皆、お伽噺か何かだと思っている様だけど、私には解るのその英雄は確実に存在していたってね」
「根拠は?」
「根拠なんてないわ……ただ私に流れている血が、魂が語りかけてくるの『私は此処にいるぞ!』ってね。馬鹿みたいでしょ、でも本当なの……ねぇ零、貴方も私を嘘つきと呼ぶのかな?」
「いや、信じるさ」
「ありがと……嘘でも嬉しいわ」
玲衣が泣いてるかは、俺にはわからない。
でも、玲衣の心が泣いてるのはわかる。
俺の言葉が、届くかはわからない。
でも、届かせる努力はするべきだろう。
「俺は嘘が嫌いだ」
ただ、俺には語彙が少なすぎる。
こんな言葉しか出てこない、自分のコミ症が憎い。
「そっか……そうね、私も嫌いだわ」
それでも、多少玲衣の声が明るくなったような気がした。
「そうだな」
少しでも届いたかな?
わからないが、もし届いたのであれば嬉しい。
そして、再びの沈黙が訪れる。
その沈黙は数秒か数分かは分からない。
だが、居心地はそう悪くもなかった。
沈黙を破ったのは―――
「……ねぇ、聞いてもいい?」
玲衣の問い掛けであった。
「どうした?」
「狂蛇は貴方が倒したのよね?」
「ああ、俺が殺した」
「……そう、貴方は強いわね。きっとそう群の誰よりも……」
なるほど。
玲衣が聞きたいこと、お願いしたいことを何と無く理解した。
「………それは知らないが、俺は負けないようには努力してるつもりだ」
死にたくないしな。
「そっか………私達、出会ってまもないわよね」
「ああ」
「それに、私達は恋愛関係でもない」
「そうだな」
「私の群とも無関係だし……」
「一度もあったことないな」
「……ねぇ、変な事御願いしてもいいかな」
「俺は狼として変わってるんだろ?なら変わってる奴に変 な御願いしても変じゃないさ」
玲衣は覚悟を決めたようだ。
「私は強くなりたい!だから―――」
◆
「狂った王様?」
「ああそうじゃ……昔昔………」
昔昔、とある国にとても大人しく優しい王様がいた。
その王様は民からも慕われており、町を歩けば皆が笑いかけ、子供らは王様に遊んでと服を引っ張った。
その光景に衛兵や近衛兵の誰も咎めなどしない、それが日常風景だったのだから。
そんな誰からも慕われる王様は、ある日森の散策中に怪我をした狼を見付けた。
優しい王様は、その狼を城に持ち帰り、治療を施したのだ。
城のもの達も「またか」という対応で、にこやかに笑っていた。
これもまた初めてでは無いのだ。
王様はその前にも色々、ユニコーンや虎などの様々な動物を拾ってきては飼っているのだ。
この間は赤い毛並みの美しいウサギを拾ってきたばかり。
そして、狼を拾ってから数日。
狼が目を覚ました。
「アリ、ガト……ウ」
なんとその狼は人語を喋れたのだ。
王様は驚き、その狼を大層気に入り可愛がった。
それから数年、王様の横にはいつもその狼がいた。
町の者も、狼の聡明さや大人しさに感心し見守っていた。
そんな幸せな日々を過ごしていた。
そんな日々のなか、話題になることは幾つかある。
ひとつはあの赤いウサギが増えていた事。
恐らく、此処が安心出来るのだと仲間を呼んだのだと、王様は喜んだ。
ひとつは虎が居なくなった事。
これは狩りが彼等の生き甲斐であり、外の世界に帰ったのだろうと寂しがりながらも喜んだ。
城の者は心配していたが、王様は「儂には狼がいるから」と狼を撫で笑っていた。
いつも狼は王さまに寄り添った。
時には話し相手、時には危険から身を守ってくれたり、時には助言もしてくれた。
徐々に王様は狼を信頼していったのだ。
だがある日、狼は言ったのだ。
「アノ兎ハ、危険ダ……森へ返スベキダ」
城の者は何を言っているのだと不信がった。
だが、優しい王様は狼を信頼していた。
でも、ウサギの事も可愛がっていた。
王様は狼に頼み込んだ、少し考えさせて欲しいと。
「ワカッタ」
狼は了承し引き下がった………。
そして、数日後事件は起こった。
事件の発覚は、朝、ウサギの世話当番の者がウサギの部屋を訪れた時。
扉を開けると、中は真っ赤に染まっていた。
ウサギ達が殺されていたのだ。
頭を胴体を鋭利なモノで貫かれ、息絶えていた。
そして、部屋の横の壁は破壊されていた。
その両隣の部屋の片方はユニコーン、そしてもう片方は狼だ。
狼の躰、牙は血で赤く染まり、ユニコーンの姿はなかった。
城の者は狼が殺した、ユニコーンを食べたと狼を責めた。
信頼していた狼の裏切りにあの優しかった王様も激怒した。
そして、狼を断罪した。
その日から王様は変わっていったのだ。
狼を憎み、狼狩りを初め、対には他国にまで戦争を始めていった。
民は哀しんだ、あの優しかった王様が狂ってしまったと。
そして、狼は悪魔だと――――。
何故、祖父がこの話をしたのかその時はわからなかった。
子供心に怖さを感じただけだった。
この数日後に祖父は死んだ。
多分祖父は、伝えたかったのだろうあまり信じすぎるなと。
そして、人は誰でも裏切るのだと。
感想評価ご指摘あれば、是非お待ちしてます。




