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遅くなりました。すみません。内容が薄っぺらいかも……意見があれば修正します。
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燦々と輝いていた太陽が沈み……少し欠けた月が、雲間からちらほらと見え隠れしている。
……………良い夜じゃな。
我は木の枝に腰掛け、空を見上げている。
思えば昔から夜は好きじゃった……。
まぁ、あの窮屈な世界で、唯一と言ってもいい娯楽なので致し方無いかもしれんが…。
それでも自分の世界とは違う、静寂で人気の無い闇の世界を愛していた。
我は憧れていたのじゃ……いつか、鳥籠の中から飛び立つことを。
「……自由のぉ」
右手を月に翳す。
こうすればいとも簡単に掴めそうなのにの………。
月を隠している手を、ぎゅっと握った。
「………高望みは駄目か?」
だが、その手は空を掴むだけ。
我の視線上では確と掴めている筈なのに……他人から、 いや我自身の視線でさえ少しずらせば、そこに月は在る。
「クカッカ…………」
我の乾いた笑い声が、空しくも夜の森に吸い込まれてい く…。
ならば、我の枷も吸い込んではくれんかの………。
そんなことを考えてると………。
「……こんばんはーおねぇさん。夜遅くに一人は危ないぜ」
ガサガサと音を立て、森の影から現れる男──否、男共。
「やははー本とに、魔獣とか現れたら危ないよー」
「まぁ、今日は俺らだから運がいいねぇ」
そう宣いながら、我を取り囲む様に姿を現す。
数は三人。
「………はぁ」
三人とも防具を一式纏っておるが、型も色合いもちぐはぐではないか。
恐らく盗難品―――。
まぁ、賊と考えて妥当じゃろうな。
「おねぇさん的にも魔獣より野獣がいいっしょ♪」
「間違いねぇ~ガハハ」
うむ、間違いないようじゃな。
我は頷き、背もたれにしていた木から背をはなし、飛び下りる。
「ウホッ♪間近で見るとスゲー綺麗だねぇ」
我が降り立った場所、その近くにおった男が手を伸ばしてくる。
だがその手は我の身体に届く事はなかった――――。
「賛辞は嬉しいぞ。じゃが生憎、此の身体は男じゃ」
一本の刀身が、手を伸ばした男の背から生えた。
「えっ……男?………あれっなにこれッッッぁああぁっ!!!」
男は一瞬何が起きたか解らず呆然とし………数瞬後、断末魔をあげ壊れた。
「イクズっ!!」
「娯楽を求めてるとはいえ、男と男の睦事等見とぉないな」
そう言い刀を抜く。
赤黒い液体――血が刃に纏わり、滴り堕ちていく。
遅れて男たちが事態を飲み込み、騒ぎだす。
「ゆ、赦さねぇぞこの野郎!」
「手足切断して可愛がってやるからよぉっ!」
三下臭いのぉ……。
男二人は剣を抜き、脅してくる。
「やはり魔獣の方が魅力あるのぉ……」
奴等の方がまだ敵の本質を見抜く。
曇りなき純粋な眼……それと比べてなんと濁り切った目を我にむけるか。
「死ねやっ!」
『燃え盛れ火の王よ――――』
声を荒げ、背後から男が斬りかかる。
それにあわせ前方の男が、魔法の詠唱を始める。
なんと愚かで浅はかで、憐れな野獣よ。
………誰を相手にしておると思う!!
「――――喰らい尽くすのじゃ!」
男たちは後悔した。
自分達を呑み込もうと、迫り来る黒い闇を前に。
それは時間にしてみれば刹那的な瞬間………だか彼等は聴いた。
愉しげに鳴いた死の音を………………。
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………出発の時間がきた。
今宵僕は、僕の隊は、ウォークヘッド伯爵領へと旅立つ。
我等“黒い霧”は、伯爵達を悪と裁断した。
執行隊は、第三部隊………つまり僕の隊だ。
今回連れていく部下は総勢十人。
僕の隊は国への反感が強い者を集め、『潜入・暗殺』に 特化した訓練を施した少数精鋭である。
「ルイス隊長、準備が整いました」
話しかけてきたのは、水色の髪と瞳を持つ少女。
名前はミラン――歳はこの間、成人の義を行ったばかりの十五歳。
でも、見た目はまだまだ子供だな。
その事をからかうと、頬を膨らませ不貞腐れる。
………それがまた子供っぽいんだけどね。
だが彼女も僕が信頼する部下の一人。
仕事では、冷静な判断を下せる優秀な人材であり、重用している。
最初はあんなに臆病で人見知りな女の子だったんだけどな。
「……変わったものだ」
「何か言いましたか?」
ポツリと漏れた言葉。
ミランはよく聞こえなかったようで、首をかしげ聞き返す。
「いや、何もないよ……っと」
僕は何でもないと伝え、座っていた枝から飛び下りる。
そして見回すと、残りの九人も確と来ていた。
「どうぞ隊長……」
「ひょっ!」
降り立った僕に、黒い外套を渡してきた少年。
彼もまた僕の部下。
名前はシノブ……この男は気配を消すのが上手い。
音もなく急に現れるので、今のミランの様に驚く人が後をたたない。
「急に現れないでよシノブ、びっくりするでしょっ!」
「…………」
因みに二人は、幼なじみの様なものだ。
しかし「ひょっ!」って……。
「悪いね……クッククック」
「………いえ」
僕は笑いながら、外套を羽織った。
目深かのフード付きで、背中に紺字で三本の線が刺繍されている。
第三部隊の隊服。
「無視すんな、このちびすけ!」
「…………煩い馬鹿」
「ば馬鹿?!」
戯れあう幼なじみ組も、勿論羽織っている。
「……苦しい」
シノブはミランに、首をホールドされていた。
その際目元まで伸ばした黒髪の隙間から、ほんのりと赤くなった頬が見えた。
……素直じゃないね。
「はいはい、そこまでな」
幼なじみ組の戯れ愛を、手を叩きとめる。
「「……っ!」」
恥じらいながら下がる二人を、見送りながら近くに寄ってきた愛馬に乗っかる。
黒丸……それがこの馬の名前だ。
単純に、出会った頃の黒丸が黒くてまん丸だったって言うどうでもいい名付けである。
馬上から隊の皆を見渡し………。
「皆揃ったみたいだね、うん」
全員が僕を見ている。
「さて皆、久々の任務だ。中には初めての者もいるな。だから、改めて聞いておく―――」
皆が真剣な表情で息を呑む。
「覚悟は出来ているか?!」
ゆっくりと一言一言に力を籠め語りかける。
「標的は、確かに腐っている!」
皆の瞳には憎しみの感情が浮かぶ。
「だが、人の命は平等。その命は我等と変わらぬ重さを持つ。またその命に寄り添う者もいる。だが」
誰もその瞳を揺るがせない。
皆解っている事だ………。
だが、敢えて問う。
「その命を我等は奪う!恨み辛み哀しみ未来全て。重いだろう。だがそれを背負う、背負わせる覚悟は出来ているか?!」
「「はっ!出来ておりますっ!」」
僕の問いに、間髪入れず皆の覚悟が返ってくる。
「ならば着いてこい!向かうはウォークヘッド伯爵領だ!」
黒丸は指示を出さずとも、走り出してくれた。
頭のいい馬だ。
そして僕の背後についてくる幾多の駆け足音。
僕は先頭で良かったと本当に思った。
だって今僕は、とてつもなく歪んだ嗤いを浮かべているのだから。
「………ッカカ♪」
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