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千葉に住む二十歳のフリーター、名前は如月夜音。
『…………鬱だ』と言うのが 口癖で。
趣味は特になく 、基本暇さえあれば寝ていた。
特技と言っちゃなんだが、昔から集中力だけは高い。
集中している間、周りの時間が遅く感じる。
まるで世界から外れたような感覚、雑音も無くとても静か、此処では俺一人になれる。
人と関わりたくない俺にとって、誰にも邪魔されないこの空間は、特別な場所だ。
それと、俺は人間である事を恥じている。
人間は屑だ!そして、人間である俺も屑なのだろう。
人間は、平気で裏切り、他を何者顔で踏みにじる。
親も友人も恋人も、俺を裏切った。
…………人間は嫌いだ。
その日、俺はいつものようにリュウキの散歩をしていた。
リュウキは俺が飼っている犬である。
柔らかい綺麗な白毛で、透き通った青瞳をした仔犬。
リュウキは、仔犬ながら凛々しい顔をしている。
将来さぞ雌犬にもてるだろうな、わからんが。
まあ、仔犬と言っても大型犬くらいの大きさはある。
これでもまだ、成長途中らしいのだ。
まあそれは閑話休題。
俺は、とある公園の前にきていた。
半年程前、バイト帰りにこの公園でリュウキに出会った。
リュウキは捨てられていたのだ。
力なく助けを呼ぶように鳴いていた。
いや、実際助けを求めていたのだろう。
その時、俺は酷い憤りを感じた。
命を何だと思っているのだろうか、好き嫌いで買うことを決め、飽きたのか分からないが要らなくなったら捨てる。
そんな勝手で捨てられたこいつらは、害獣として殺されてしまう。
国自体がこいつらを物扱い。
自分勝手にも程がある。
「…………っ!」
「……クゥーン」
リュウキが俺を心配して見上げている。
俺は今、相当酷い顔をしていたのだろう。
可愛いな、本当に純粋で優しいこの子には癒されるな。
俺はリュウキに抱きつき、頭を撫でた。
リュウキは嬉しそうに尻尾を振るわしている。
「そろそろ帰ろうか」
「バウ!」
帰る途中、信号が点滅していたのでさっさと渡ろうとした時だった。
横からの強烈な光に目がくらんだのは。
そこには信号無視をし、止まる気配のないトラックが迫ってきていた。
…………死ぬのか?!
衝突までの時間は一秒もなかったと思う。
突然の出来事に集中してしまった。
時間がゆっくりと流れるその世界で、助からないことを理解した、いやさせられた。
運転手はタオルを頭に巻いた、四十代のおっさんだ。
顔が赤い、酒でも呑んだのだろう、気持ち良さそうに居眠りしている。
「っ?!」
リュウキが飛び出し、トラックと俺の間に割り込もうとしている。
俺を守ろうとしてるのか?
だが、助からないだろうな。
でも、その事実がこの絶望的な状況でさえ嬉しく思った。
………ありがとなリュウキ。
そして、リュウキごと俺はトラックにぶつかる。
俺の体に浮遊感と激痛が、じわじわと送られてきた。
糞ったれな運命だな、皮肉なのだろう人間嫌いの俺を殺したのは人間。
目前に迫り来るコンクリートを見つめながら、リュウキの事を思う。
ごめんなリュウキ。
そして意識が刈り取られた。
如月夜音とリュウキはこの時をもって、死んだのだった。
―――――――――――◆
「――――君は何を望むんだ?」
――――――主の命。
「いいのか、君は消えるよ?」
――――――構わない。元々、我等は怨念が作り出した幻。
「ふーん……いいよ、面白そうだね♪」
――――――感謝する。
「じゃあ、お望み通り始めようか――――ゲヘェ♪」
――――――主に我等の想いを託す。どうか生きてくれ主。今まで楽しかった気がする、有難う。
――――――――――――◆
…………暗闇から意識が浮上した。
何故、意識がある。
俺は死んだはず………トラックに轢かれて、コンクリートに頭から落ちたのだ。
助かるわけがない。
自分の体の事だ、よく理解している。
俺は死んだのだ。
だが今現在意識があり、こうして横になっている。
「………一体何がどうなってんだ」
俺の目には、幻想的な蒼月が映っていた。
それに周りは背の高い木々に囲まれている。
背後には川が流れていた。
どうやら、森らしきところにいるらしい。
……………鳥か?
ナニかが気持ちよさそうに空を飛んでいた。
茶色い巨体、蝙蝠の様な羽根、鋭い爪、強靭な尻尾、蜥蜴の様な頭。
…………ドラゴンみたいだな。
此処は異世界か何かか―――――ん?
「…………っ!ド、ドラゴン?!」
俺は驚愕し、ガバッと勢いよく起き上がった……… 二本の足でなく、四本の脚で。
………………えっ?
何故俺は四本脚でたっている?
しかも違和感を全く感じない。
恐る恐る、自分の前足を確認する。
そこにあったのは、何処かで見たような毛艶の良い白毛に覆われた獣の脚。
『…………………まさか』
ドラゴンの事は頭からぶっ飛び、俺は自分の姿を確認するため、川に近寄った。
覗き込み、姿を水面にうつす。
……………嘘だろ。
「…………リュウキ」
水面に写っていたのは、リュウキの姿だった。
いや、似ているが少し違う。
リュウキはこんなに牙は鋭くなかったし、こんなに狼っぽくなかった………気がするのだ。
だが、感じる……わからないがリュウキの温かさが心に感じる。
何故か生きろと言われてる、気がした。
水面にぽたんぽたんと波紋が広がる。
気付けば、俺は泣いていた。
………この命はリュウキがくれたものだ。
だから、俺は死んじゃいけない。
「オォォオォーン、オォォオォォーン!」
俺はリュウキへの謝罪や感謝、手向け、決意など 様々なモノを込め、魂の底から強く咆哮した。
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