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真導士サキと第三の地  作者: 喜三山 木春
第三章 咎の果実
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青の娘

 真眼から青が迸る。



 幸せな、青。

 悲しい、青。

 懐かしい――青。


「サキ!?」


 青く光る岩の牢獄。あふれだした力に翻弄されているローグの姿。

 清涼なる青の光を、きつく閉じ込めていた蓋は消失した。

 遮るものは、もはや存在しない。


「やっぱりこの光は、お前が……!」


 青の世界は、美しい。

 遠くから声が聞こえる。

 森の中。舞い上がる青に飛ばされて、迷子になってしまったあの子。さあ、こっちにおいで――。


「――ジュジュ」


 白の獣が、腕の中に降り立った。

 ふわふわの毛並みが、心地いい。かわいいかわいい、わたしのジュジュ。


 ねえ、わたし思い出したんだよ

 そんなに鳴かないで

 いつもみたいに一緒に遊ぼうよ


「ジュジュ!? 何で、こんな……」


 やっぱり吃驚しちゃったみたい

 そうだね。ちゃんとお話してあげなければね

 おうちに帰ろう。みんなで一緒に――


 ローグの両手をそっと包み込んだ。

 驚き過ぎて固くなったその手を、やさしく撫ぜる。

「サキ……」

「大丈夫。一緒に、ね……?」

 懐かしい風に、願いを込めた。

 額を天に向ける。こんなにも空の気配が近い。

 広がり続ける、とろけるような青の世界。どこまでも、どこまでも、ずっと高く――。

 両手を、空へ。


「ジュジュ、いくよ……」

 凄絶な青が、岩の牢獄を包み込んだ。







「サキ殿! しっかりなさってください」

「……サキさん、サキさんっ」

 耳元で叫ぶ二人の声。これはジェダスとティピアだ。

 ちゃんとわかっている。でも、目が開いてくれない。心配そうな声に返事をしたいのに。

「どうだ」

 キクリ正師の声だ。

 来てくれたんだ。

 間に合った。これでやっと、皆でサガノトスに帰れる。

「いえ、それが全然……。首席殿は?」

「まだ意識が戻らないようだ。二人とも完全に気を失っているな」

 ローグ……。ローグはどこ?

 彼の声が聞こえない。わたしを呼んでくれる低い声。わたしの大切な――

「あ、首席殿! 気がつかれましたか」

 とても近くで、彼の掠れた呻きが聞こえた。

 ローグの声だ。

 傍に、いてくれた。

「ローグレストよ、大丈夫か」

「キクリ、正師……」

 衣擦れの音がした。彼が荒く呼吸をしている。

「何があった……。助けに来てみれば、お前達が岩から飛び出してきた。あれは、お前が使った真術なのか?」

 さらさらと乾いた、小さな気配。

「わかりません……。サキは?」

「気絶しているだけだ。怪我はしていない様子だし、呼吸も正常。しばらくすれば気がつくだろう」

 大きな吐息が耳に入る。

「まったく、すごい奴だなお前は。まさか土壇場で真術を編み出すとは……。果物の術具といい、何とも頼もしいことだ」

「いえ、俺の力では……」

「ところで、このイタチは何だ? 岩の向こうで拾ったのか。ずいぶんと人慣れをしているようだが」

 イタチ。

 ジュジュ……。ジュジュが近くにいるの?

 何でだろう。家においてきたはずなのに。

「……サキに、懐いているんです」

 瞼の向こうで続く会話。ふいにもどかしさが生まれる。

 ローグ、お願い気が付いて。身体がどうしても動かない。もう少しで起きられそうなのに。

「サキ?」

 首の下に腕が差し入れられる。馴染み深い、彼の体温。

「サキ、気がついたのか」

 ローグに呼ばれた途端、視界を塞いでいた瞼が持ち上がった。疲れた顔のローグと、心配そうに覗き込んでいるジェダスとティピア。その奥に、キクリ正師の姿も見えた。

 首筋に、ふわりとあたたかい毛並みがあたる。


「サキ殿、心配しましたよ」

「サキさんっ、よかった……」

 やっぱり、ジェダスは普通に笑っている方がいい。こっちの方が親しみが持てる。ティピアは目と鼻が真っ赤だ。少し申し訳ないような気持ちになる。

 大丈夫、そんなに身体は辛くないから。




「もう、だいじょうぶ……」

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