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真導士サキと第三の地  作者: 喜三山 木春
第三章 咎の果実
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過去の呪い

 ディアが口元を両手で覆い、立ち尽くしている。

 紫炎を展開していた蠱惑の導士は、溶けて消えた鼠の骨を、青ざめた顔で見つめていた。


「子供の声と、大人の骨。……大量の人骨が残った倉庫の意味はこれか」

 イクサの推察に、異を唱える者はいなかった。

 甘美な香りを放つ、熟したラントプラム。その正体は、時間の流れを狂わせる呪いの果実だったのだ。

「食わなくてよかった」

 蠱惑の導士が、相棒の元へと歩み寄る。そうすることで、悲惨な光景から逃げたのだろう。


「……ひどい」

 泣き叫んでいた子供達。

 歪な成長を促された不幸な一部が、あの白い山にされたのだ。

「……何て、ひどい」

 誰が、いったい何のために。

「変だな……」

 低い声は平静さを失っていない。思わず彼の強さに寄りかかる。いまの自分は駄目だ。とても気力を強く保つことはできない。

 何も言わず、ローグは背中を撫で続けていてくれた。

「変とは」

「子供を大人にする意味がわからない。子供の方が高値で取引されると、そう聞いたことがある。……わざわざ値を下げるような真似をして。どうにも灰泥らしくない」

「オレに商売のことはわからないから、素人の考えだけれど……。地域によってとか、そういう話ではないのかな」

「地域に差はないはずだ。大人より子供が高い。大人の方が高値だったことなど、歴史上で一度しか――」

 背中を撫でていた手が、ぴたりと止まる。

「……四大国の大戦中ならば、大人の価値が高かった。兵力となる男と、子供を産める女がすぐに必要で、その時期だけ値が逆転していたはず」

「そう、そういうことかな……。ここは大戦中に使われていた倉庫なんだね、きっと」


 二人はついに結論へと到達したらしい。

 この呪いの果実と悲しい倉庫のその答えが、いま明かされる。


「遺跡というのも、あながち間違ってなかったみたいだね。この果物は、その頃からずっとあるのか。このままにしても、腐って消えてくれることは期待できないかな」

「だろう。里に戻って報告した方がいい。俺達の手に負える代物ではない」

「元の地点に戻ってひたすら待つか。それともこの先に進んでみるか。進んだ方が可能性は高そうだ。でも、何があるかはわからないね」

「灰泥の倉庫なら、憲兵に踏み込まれる場合を想定して、複数の出口が作られている。まあ、脱走防止用の罠もあるだろう……。とりあえず、確認してみるという手はある」


 一瞬の沈黙。

 全員の行動は、すでに二人に託されている。

 この状況を冷静に判断できるのは、もうこの男達しかいないと誰もが思っていた。


「進もうか」

 イクサが道を示した。応える声はない。この場での沈黙は、肯定を意味している。

 無言の同意を受けて、イクサが動いた。一つだけ呪いの果実を取り出し、ポケットに入れてから通路へと向かう。彼の後を、憔悴した導士達がぞろぞろと続いて歩く。

「サキ、立てるか」

「はい」

 彼に支えられて、床を踏みしめる。

 大丈夫、まだ歩けそうだ。

 手を差し出されたので、何も考えずにその手を掴む。ジェダスとティピアに「行きましょう」と声を掛けようとして、目を瞬いた。

 二人は揃って頬を染め、自分達を見つめている。


(やってしまった……)


「その、おほん。ええ、大丈夫です。さすがは首席殿ですね、この一月でそこまで……」

「おい」

「いえいえ、大丈夫。僕もティピアも余計な口出しはしませんから。里も推奨していますし、実にいいことです」

 ジェダスの言葉に、ティピアがこくこくと肯く。彼女の赤く染まった顔を見て、眩暈がした。先ほどの反省はまったく生かされなかった。

 自分達は、何ということをしているのだろうか。


 胸中で女神に懺悔をしてながら、イクサ達の後を追う。

 ジェダスとティピアの態度を見て、どうも自棄を起こしたらしいローグは、決して手を離してくれはしなかった。

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