表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真導士サキと第三の地  作者: 喜三山 木春
第二章 鼎の道
36/106

凝っていた言葉

 彼の出現で、場の気配が大きく変わった。

 ローグが持つ強い真力が、その場のすべてを塗り替えていく。地に縫いつけられた身体をもあたためてくれるような、彼の真力。男たちにも感じ取れたのだろう。真導士は互いの気配に敏感だ。真眼を開き、周囲に惜しげもなくまかれている底知れぬ力を、感じ取れないはずがない。

 比類なき巨大な真力が、男たちをひるませる。露骨にひるみながらも敵対の態度を保っているのは、彼らなりの矜持だろうか。


 ふと、身体を押し潰していた重みが消えた。重みが消えてすぐ、まとめられていた腕に、手加減されないままの力が加わる。強引にひっぱりあげられた身体が、まるで操り人形のように頼りなく傾いた。

「へえ……。お前、森でこの色男に拾ってもらったのか。大人しそうな顔して、男への媚び方がちゃんとわかってるじゃねぇか」

 変わらない胸が悪くなるような言葉。しかし、リーガの声から余裕が消えていた。首にからめられている腕が、緊張で固くなっている。

「黙れ屑野郎。無駄に動くその顎を潰してやる」

 不明瞭な思考は、普段からは想像もできないような荒い口調も。絶え間なく放たれている真力と怒気も。傷を癒しているヤクスとジュジュも。怖気づきながら下がってきている男たちの背中でさえも、きちんととらえている。けれども、あふれ出した感情は、それを一切考慮しない。


 戻りたい。

 帰りたいのだ。彼のそばに。


 ローグにむけて、腕を精一杯伸ばす。黒い目が自分を見た。本当に、吸い込まれてしまいそう。いっそ、このまま吸い込まれてしまえばいい。そうすれば彼と離れずに済む。もう、これ以上のさびしさを感じなくていられるのだから。

「ローグ……さ、ん」

 すがめられていた黒い瞳に、おだやかな色が浮かぶ。

「待っていろ。すぐに片付ける」

 彼の言葉が合図となった。四人の男たちがいっせいに真円を描く。その光景を見て、思わず目を見開いた。なんてことだ。リーガ以外は全員、燠火の真導士だったのか。

 いけない。

 ローグは "守護の陣" が使えない。四人を一度に相手したら、いくら彼の真力が強くても、きっと無事ではすまない。もう、じっとしてなどいられなかった。感情が、全身に指令を発する。戒めを解いて、かけがえのない相棒を守れ——と。

 最後の力を振りしぼり、リーガの腕を解きにかかった。体躯の差は、想像以上に大きい。どれだけ暴れてもゆるみはしない腕に、決死の思いで抵抗する。

「このっ、大人しくしていろ!」

 かまわず暴れつづけていたら、目の前にあの紫炎が突き出された。

「……いや、いやあ!」

 思考を犯していくおぞましい紫炎。恐怖に襲われ、全身から嫌悪が沸き立つ。

「やめて、それはいやだ……!」

 恐慌に巻かれ、がむしゃらに暴れた。けれども、紫炎からどうしても逃げられない。

「サキ!」

 呼ばれて、その声にすがる。全身をおおいつくす嫌悪感。心が焼き尽くされそうで、もはや耐えられなかった。ずっと言えなかった言葉が、絶叫となって飛び出していく。


「ローグさん——助けて!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ