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真導士サキと第三の地  作者: 喜三山 木春
第二章 鼎の道
35/106

白と黒の守護者

 頭の奥で、大きな破裂音がした。

 水のなかに沈んだような、混濁(こんだく)の世界から覚醒する。そして自分の行いと、その意味を認識して狼狽(ろうばい)した。

 いったい自分はなにをしていたのか。なぜ、このような男の言いなりなっていたのか。気分の悪さを思い出して、喉元をかきむしりたい衝動にかられる。

「この獣、どっから出てきやがった!」

 怒声をきっかけに惑乱していた思考が、目の前の現実と結びつく。


「ジュジュ!」


 男たちのあいだを走り回り、爪を立てて孤軍奮闘する白い獣。無垢な命のどこに、そこまでの激しさを隠していたのか。ジュジュが牙をむき、全身の体毛を逆立てて戦っている。

(危ない!)

 力まかせに打ちすえようとする男たちから、あの子を守らなければ。獰猛(どうもう)で卑劣な男たちは、きっと手心など加えない。

「だめよ、逃げて!」

 ジュジュは、その小さな牙で一人の男にかみついた。男は悲鳴をあげながら、白い塊を落とそうと腕を上下にふる。しかし、獣は離れない。食いついた敵から、肉をもぎ取ろうとしているかのように牙を突き立てたまま。

 その様子に見かねたのか、近くにいたもうひとりの男が動いた。白い獣を——ジュジュを蹴飛ばしたのだ。

「ジュジュ!」

 白い獣は、蹴飛ばされた拍子に宙を舞い。転がされたままのヤクスのそばへ、勢いよく叩きつけられてしまった。

 足を叱咤し、ジュジュのところまでかけ寄ろうとしたのを、またもやリーガに阻まれた。

「こいつ、お前のイタチか! なめた真似しやがって」

 肩が抜けてしまいそうな力で腕を引かれ、全身を地面に押しつけられる。そのまま大柄な体躯が馬乗りになってきた。逃れようと足を暴れさせたが、巨体が動く気配はない。腕が上部でひとまとめにされ、身体と同じように地面に縫いつけられる。

「いや、離して!」

 それでも抵抗しつづけていたら、裏手で頬を大きく打たれた。弾けるような痛みがして、意識が飛んでいきそうになる。

「容赦しねえぞ、この女! ……滑稽だな。あのイタチはお前の相棒か?  "落ちこぼれ" にぴったりだ」

 怒鳴りながら再び頬を打ってくる。

「聞いているのか。もう許さねえからな!」

 打たれるたびに頭が大きくゆさぶられて、なにも考えられない。


「 "許さねえ" は、こっちの台詞だ」


 そのとき、聞きなれた低い声がした。

 朦朧としたままでも自然と視線が流れ、ついにその姿を認める。見間違えようがないあざやかな黒髪と、強くまっすぐなまなざし。そして、心で思い描いていた——黒の瞳。

「サキから離れろ」

 低い声が自分の名を呼ぶ。

「だれだ、てめえは……」

 一直線に進んできたローグを、男たちが取り囲む。彼は男たちの手前で歩みは止めたものの、彼らを完全に無視して、近くのヤクスに声をかけた。

「生きているか」

「……ひどいな。無事じゃないけど生きてるよ」

 苦笑いを浮かべたヤクスに、ポケットから取り出した輝尚石を放る。

「使え。ジュジュにもな」

 それだけ伝えて、男たちの方へと向き直る。その相貌はするどく、まるで視線だけでリーガを貫こうとしているようだった。

 ローグが、激昂を示した黒眼を、きつくすがめて言い放つ。


「俺の相棒から離れろ。——この屑野郎」


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