始
何回かは見直していますが、誤字をしていた時は修正いたします。
深夜、誰もが寝静まった頃に大通りを車列をなしてトラックが走っていた。
フロントライトを煌々と照らす車列は街の大通りを街の中心に抜けていく。
それを大通りに面したホテルの3階の一室から二人の男女が見ていた。
「……今のは、そういうことで正しいのか?」
男が、その裸身を抱きつくように寄せ窓から同様に車列を覗く女に問うた。
「どうも、そういうことね……お姫様の言うとおりに、ただの休暇とはいかない様ね?」
女はそう言うと、男からきしりと音を発てて離れドレッサーに置いてあった2色同機種の内の色が明るい携帯電話を取り何処かへと電話を掛けた。
男はそれを横目に捉えながら、もう一度車列の方に目をやる。
もう通り過ぎたようではあったため、車が走っていた形跡もこの部屋からは遠目にも見えない。
そのため、男は見た光景を頭に思い浮かべる。
何台もの大型トラックが走っていた、しかもそれらは旧式と言える地にタイヤをつけ走るガソリン車。
今の時代にそんな古い物をいるものはそう多くはない、なぜなら今の時代車は舗装された空を走るものだからだ。
この世界において、もっとも新しく世界を変革させたもの。
車は空を走るようになり、完全にクリーンと謳われるエネルギー施設が火力発電所を上回る勢いで乱立し人の時代の栄光のかけ橋とまで言われるものがある。
日本名にして「輝力鉱」と呼ばれる、新時代のエネルギー資源だ。
この鉱石にはいくつかの特徴がある。
「多くの土地で採掘出来ること」
「これ自体がエネルギーを発するもので、消費したはずのエネルギーを消費する過程で、自らの内に循環増幅をさせることで永遠になくならない永久機関にもなる鉱石であること」
「さまざまな物に加工をしやすくさまざまな機関や鉄鋼などに混ぜる事も可能であり、混ぜ合わせる事でそれの強度を強くすること」
「もっとも知られているのは、この鉱石を特殊な工程を通すことで摩訶不思議、多種多様な神通力を引き出せることである」
現在、神通力の引き出しは国際的に禁じられているが、「輝力石」を機関に用いた、浮遊車が世間一般的に広まっている。
その世の中に、かつての大戦争以来使われる事の少なくなったガソリン車。
現在では超大型輸送以外では懐古主義的な者のみが使う様な物である。
それが列をなして走る様は、圧巻であった。
そして青年は考える。
何故、ガソリン車が走っているのか……
そこから考えられることは…
青年は窓枠から離れ、女の方に歩み出る。
「やはり、アレには乗っているのだろうな」
そう、確認する様に呟く。
「あんな、オンボロを引っ張り出して来るのよ?こんな時間に運搬する物なんて、後ろめたい物しかないでしょう?」
電話を使い終わったのか、女が呟きに返事をする。
「それに、感じたわ……」
その言葉に青年は嗤った。
「アレが居るか、居ないかは……もう、関係無いな」
「ええ、もう依頼は受けちゃったものね?」
「……姫の慧眼というのも、すごいものだ」
「それには同意よ」
打てば響く様に軽快な返事が返ってくる。
それに薄く笑みを見せながら、青年は女を横抱きに抱えベッドに運ぶ。
きしりっと音をベッドから聞こえた。
「これ以降は、機関として動く事になるわ」
「構わない……俺らには、総てを利用してでも、やらねばならない」
「……ええ」
そして遮光カーテンは閉じられ、後には誰も動いていた形跡は無かった。
青年と女も、トラックも…
生きとし生けるもの者たちは総て寝ている、夜の帳が街を覆う
なれど眠らぬ者は多い
この静けさを破る音は未だに聴こえぬが、いずれにも聴こえてくる夜は近づいていた
此れは追う鬼と逃げる鬼の物語
此れは誰も彼もが悪鬼羅刹と成らんとす物語
此れは誰が救われ誰が死ぬのかは解らない物語
誰が、嗤うのか……